ごつごつとした古材と男らしい色で空間に味付けをした、まさに男のキッチン。L字型の厨房のようなステンレスキッチンと、アイランド型のカウンターを造作しました。仲間とビールを飲みながら、みんなで料理を楽しめる味わいのある空間です。
下ごしらえは念入りに
東京都台東区。大通り沿いにスカイツリーが見える、下町の雰囲気漂う街にあるマンションが、Eさんのお宅。Eさんは都内の会社に勤める40代男性。以前は、7畳程の1ROOMアパートで約10年暮らしていました。料理好きなEさんは、平日はもちろん自炊をし、休日は友人を招いてホームパーティーを開くのが趣味。しかし、1ROOMであるが故に料理の臭いが寝室のベッドについてしまうということが悩みの種だったと言います。また、賃貸アパートのキッチンはとても狭く、スムーズに料理が作れないし、友人を招いても音漏れを気にして気兼ねなく楽しめないということも悩みのひとつでした。そんな理由をきっかけに、広くしっかりとしたマンションで暮らしたいと感じ始めたEさん。当初より、新築の完璧に作り込んである感じではなく、自分の好きなテイストを家に反映させたいと考えていたところ、リノベーションという方法を雑誌で見かけたそう。インターネットで「リノベーション 都内」と検索したところヒットしたのがnu。HPの中でスケルトンからのリノベーションを見て、そんな方法があるのかと感動したと言います。他のリフォーム会社も見ていたEさんですが、施工事例を見ると、バスルームなどは決まってファミリータイプ。これでは一人暮らしの自分向きではないと感じていたそうです。nuは、住む人の価値観や要望を空間に反映させていると感じ、ここなら自分のライフスタイルに合った家を一緒に作ってくれそうだとnuに決めました。早速nuの相談会に参加し、物件探しがスタート。nuのオフィスで営業担当と一緒にパソコンを見ながら、まずはどんな物件があるのか情報収集をしていたところ、気になる物件を発見。「「これいいね!」と2人で盛り上がり、その日のうちに内見をさせて頂きました」とEさん。物件の最寄り駅には馴染みが無く、具体的なイメージはあまり持てなかったと言いますが、実際に歩いてみると谷中や千駄木に続くような、下町ながらの良い雰囲気がすぐに気に入ってしまったとのこと。内見した当時は、天井が低く、バスルームも狭く、そのまま住むには少し問題がありそうな状況でしたが、スケルトンという方法を知っていたため”ハコ”として物件を見る事が出来たそうです。そのため「勢いで購入しましたが、全く後悔はしていません」とEさん。合計で3件内見をしただけですが、築29年47㎡のこの物件に一目惚れをし、その日のうちに契約をしました。
つくり込む楽しみ
とにかくキッチンにこだわりがあったEさん。雑誌「Casa BRUTUS」に載っていた、ポートランドの「フォーバレルコーヒー」というコーヒーショップのカウンターがとても好みでした。廃材を使ったカウンターで、インダストリアルな雰囲気漂う、男臭いイメージ。その雑誌を手に、デザイナーとの最初の打合せへ向かいました。プランの要望としては、以前のお宅で不満であった、キッチンと寝室を必ず別にしたいということ。あとは、nuのHPに掲載されていた唐松のフローリングがとても気に入っていたため、最初から床は唐松で、と決めていました。最初の打合せから約2週間後。プレゼンテーションの際にデザイナーはその要望に対し、プラン3案を提案しました。 コンセプトは「MEN’S KITCHEN」。3案とも家の中心に広々としたキッチンがあり、友人が沢山遊びに来て皆で料理を楽しめそうなプラ ンが目の前に広がりました。「3パターンもプランを提案して頂けるとは思っておらず、どれにしよ うか悩みました。あれで一気にワクワクしてきましたね!」とEさん。 最終的には、玄関を入って、すぐ右手に水廻りスペース、ベッド1つ分が丁度入る寝室、その隣にはWIC、そして一番奥にはオリジナルのキッチンと一体のリビングが広がる1LDKプランになりま した。主役のキッチンは、広いL字型と手前にミニシンク付きアイランド型カウンターの組合せ。プランが決まると、次は細かい部分の打合せです。 一番悩んだのは、メインであるキッチンの詳細でした。キッチンの形状はスムーズに決まったものの、実際どんな素材を使ってつくり込んでいくかがなか なか決まらなかったと言います。デザイナーが毎回の打合せで様々なキッチンのサンプルを用意するものの、Eさんは「違う」との 一言。なかなか思い通りのものに出会えず、いよいよ本格的に悩み始めていました。そんなある日、現場での打合せの帰り道にデザイナーがふらっと立ち寄った飲食店にてボーッと厨房を眺めていた 所…「あのキッチン、Eさんのイメージにピッタリじゃない!?」、運命の出会いをしました。それは本格的な業務用ステンレスキッチン。そのお店で厨房の写真を撮らせて頂き、早速次の打合せに てEさんにお見せしました。すると、「そう!こういう感じです!」と、今まではもやもやとしていたキッチンのカタチが、そこで一気にクリアになったそう。 「メーカーさんが作るようなきっちりとしたキッチンではなく、どこか無骨なものが良かったんです。キッチンって、料理をするだけではなく、”作業場”という捉え方をしていたので、キレイなだけ なのは理想ではなかった。だから業務用キッチンを見た時に、しっくり来ました」とEさん。奥のL字の部分は決まってきましたが、今度はカウンターの腰壁の色と床の素材の組合せに頭を悩ま されました。腰壁はアンティークオークにし、天板はブラックの人工大理石と決めましたが、元々予定していた唐松のフローリングとどうしても相性が良くありませんでした。「サンプルを見なが ら色や素材感を確かめるのですが、小さいサンプルでは空間のイメージが掴めずに苦労しました。デザイナーの方には、フローリングもオークが良いのではと提案を受けていて、自分でもそうかも しれないという気持ちに傾いてきてはいたのですが、なかなかこれでいこう!と決断するのが難しかったですね」と懐かしそうに語ります。元々、唐松のフローリングにしたいという明確な希望が あったからこそ、最終的な判断には勇気が必要だったのですね。「今ではデザイナーさんから提案されたオークのフローリングにして本当に良かったです。友人が遊びに来ても、まずは床が良い! と褒められるんですよ」とEさん。そんな風に、ひとつひとつこだわりを持って素材をセレクトしていったので、「妥協したところはひとつもありません!デザイナーさんと、現場監督である施工 監理の方から、出来ないところは出来ないと、いつもハッキリと伝えて頂けていたのでとても信頼していました。だから全て納得した上で決めていけたので良かったと思っています。」とのひとこと。
キッチンから生まれる大人の味
来客が多いのでリビングを食堂のような雰囲気にしたかったEさんは、リビングに大きなダイニングテーブルを置いて、1人掛けのチェアをその周りに並べています。実は取材の日も、ご友人が遊びに来て取材後にパーティーが始まりました。訪れる方皆さん料理がお好きで、自然と1人一品を作ってそれを皆でレシピを聞いたりしながら食べるというとても素敵な時間でした。初めてEさん宅に訪れた方は、家に入ると、「わあ!キッチンすごい!」「ここどうなっているの?」と色んな場所に興味津々(笑)。皆がそれぞれ思い思いの場所に立って、笑顔で楽しそうに調理をしている姿が、MEN’S KITCHENというコンセプトそのものでした。「以前より、すごくキレイ好きになりましたね」というEさん。オールステンレスのキッチンは、こまめに拭いていつも気持ち良く使える様に保っているそう。「同じ様な業務用のキッチンを使っている飲食店の皆さんは、いつもとてもキレイに使っているのだと今回のリノベでわかりました。小まめに掃除をすることが大事ですね。」と。今後は、リビングの壁に何かを飾ったり、キッチンの壁にキッチンツールを吊り下げたりしたいとのこと。「設計中はとても楽しかったですが、終わるととても寂しい。家のインテリアも一気に完成させてしまうと寂しいので、まだわざと完成させないでいるんです。ひとつひとつゆっくりと埋めて行って、余韻を味わっているのかも知れません」とEさん。自分だけのオリジナルキッチンがある自由な空間を手に入れたからこそ味わえる、大人の贅沢に近いかもしれません。