ほんのりベージュがかった白と、家中に配した曲線的なデザイン。そこは家という概念を超えて「暮らす」と「働く」がひとつになった、全く新しい“わたしスタイル”の住処でした。
心に決めていた街
商店街やショッピングモールなどが立ち並ぶ賑やかな駅前を抜けて、閑静な住宅街を数分歩くと見えてくる築浅の低層マンション。モダンな外観からは想像できない、淡い色彩と曲線で構成されたリノベ空間に暮らすのは、ご自身でネイルポリッシュやジュエリーの企画・販売を手がけるアサノさん(@aaasanooo)です。
ご自宅で商品の撮影を行うことも多く、少し前から自分好みにデザインされた家を持つことに憧れていたというアサノさんですが、住環境への強いこだわりから、なかなか目星い物件が出てこなかったんだとか。「街の雰囲気や利便性などから“〇〇という街の◯丁目にしか興味がない”というくらい、このエリアにしか住みたくなくて。なのでこの物件の販売情報が出てきた時はもうここだ!!って(笑)」と購入当時を振り返ります。
内装デザインにも並々ならぬこだわりがあったアサノさん。理想通りのエリアで物件に巡り合えたものの、画一的な間取りや素材ではどうしても満足ができずリノベーションを決意。個別セミナーに参加したリノベ会社3社の中でも求めていたイメージに近かったnuリノベーション(以下、nu)に依頼することを決めました。
「ネットで情報収集していた時から、nuさんのHPはいい意味であたたか過ぎなかったのが印象的だったんです。どのジャンルにも、特定のライフスタイルにも偏っていない感じというか。その後、お話しを聞きに行った時のスタッフさんの対応や施工事例を詳しく見せてもらって、これなら自分のつくりたい空間が実現できる!と思えたのが決め手でした」。
こうして、大好きな街で理想の空間を創り上げる、アサノさんの家づくりが動き出しました。
魅惑のまろみ
まずはピンタレストで空間画像を集め、ご自身で作成したイメージボードを持ち込んで設計デザイナーとのイメージ共有を進めたアサノさん。当初から空間づくりのキーワードとして挙げていたのは“まろみ(丸み)”でした。
「イメージを集めていると、アーチ開口やぽってりしたまろみのあるデザインのものが多くて。家中にまろみの要素を取り入れたい!とリクエストしました」。また、ご自宅ではネイルやアイテムの撮影、WEB会議などをしていることがほとんどだというアサノさんですが、あえて仕事場という感覚は持たずに空間づくりを進めていったそう。「仕事場を設けることで、いわゆる仕事グッズが増えてしまうのは嫌で。それに、せっかちなタイプなので家でじっとしていることは昔からあまりなくて(笑)。暮らしの一部として撮影やネイルの作業ができる空間が理想でした」。
そんなアサノさんの思いが落とし込まれたデザインのひとつが、LDKの一角に佇む曲線で構成されたオブジェ。「階段状にしたい、ということは決まっていましたが、形は試行錯誤してこの形状に行きつきました。床と同じ白のモールテックスで仕上げていて、何を置いても絵になるので撮影の際はもちろん、インテリアとしても重宝しています」とアサノさん。
そんな曲線のオブジェと負けず劣らず存在感を放つアイランドキッチンは、全面をクリーム色のタイルで包み込んだオリジナルデザイン。まろみのあるコーナータイルを使い、角のないやわらかな形状に仕上げました。「最初はキッチン自体を楕円形にする案もありましたが、このコーナータイルをデザイナーさんが提案してくれて。これならイメージ通りのぽってり感がつくれる!と一目惚れしました。今も家の中で一番好きなところは、この角のタイルかもしれません(笑)」とにっこり。
ほぼ毎日お料理をすることから使い勝手にも妥協せず、コンロは拭き上げがしやすいものを厳選。食洗機・引き出し収納も大容量のものをチョイスしました。日々活躍しているという食洗機も面材を他の引き出しと合わせて造作することで、パッとみただけでは食洗機だとわからないようにデザイン。生活感の出る要素を徹底的に削ぎ落としました。
「先日、思い切って食器洗いのスポンジを置くのをやめました(笑)。大きな食洗機のおかげでなんでも洗えてしまうので」と楽しげに語るアサノさん。その笑顔からは自由なデザインと暮らしを楽しむ様子がひしひしと伝わってきます。
キッチン背面の壁一面に造作した壁面収納も当初から重視していたポイント。上部はオープンな飾り棚、下部は扉付きの収納として設計し、「魅せる、隠す」にメリハリをつけて設えることを意識したといいます。「仕事柄オーナメントをたくさん持っているので、飾り棚も大容量でつくってもらいました。これでもまだ飾りきれていなくて(笑)。日々気分で入れ替えたりしながら楽しんでいます」。
扉付き収納には食器や日用品、お仕事関係のアイテムが仕舞われています…が、よく見るとバルコニー側の2つの収納は扉の下からモールテックスの床が覗いています。
「一番端はルンバ用に、2つ目はワゴンを仕舞う用に、あえて中を空洞にしてもらったんです。ここに椅子を持ってきてそのままネイルをすることもできるんですよ」とアサノさん。
また、既存のリビングにあったクローゼットは壁を曲線状にほんの少し前に張り出させ、WICにアップデート。内部には段違いのポールと枕棚をあしらい、使い勝手を向上しました。「本当はクローゼットの入り口もパントリーのようにアーチ開口にしたかったんですが、曲面にさらにアール加工を施すのが難しく断念したんです。でも現場で職人さんが壁の角をできる限り滑らかになるように処理してくれて。おかげでとても良いまろみ具合に仕上がっています!(笑)」と微笑みます。
そんなWICと背中合わせにレイアウトされているのは、ガラスのパーテーションを設えた開放的なベッドルーム。ベージュがかったガラスを採用したことで、見た目以上にしっかりと篭り感を感じられるといいます。このお部屋にももともと小さなクローゼットがついていましたが、その窪みをそのまま活かしてメイクルームにアップデート。「これはデザイナーさんが提案してくださって、『そんなアイデアがあるんだ!』と目から鱗でした!ここも漏れなくまろみを付けてもらって(笑)。お気に入りの空間です」とアサノさん。
溢れ出すクリエイティブ
徹底的に角がない空間。どうしてここまで“まろみ”を追求したのかを尋ねると、そこにはアサノさんの空間づくりへの譲れない思いがありました。
「せっかくリノベーションするのであれば、普通ではありえない空間をつくりたかったんです。それを期待してリノベーションをするわけなので、絶対に妥協はしたくなくて。だって、こんな階段状のオブジェがもともと生えてる家なんて絶対ないですもんね?(笑)。店舗のような、昔のヴィンテージマンションのような。自分が心から好きと思える家をつくりたかったんです」と、普段からクリエイティブな仕事を手がけているからこそのこだわりをユーモアたっぷりに教えてくださったアサノさん。ひとつひとつ、本当に好きだと思えるものだけを選びとって空間を創り上げていったことで、毎日「この家がすき」と実感しながら過ごしているといいます。
感性の赴くままに、ご自身の世界観が存分に表現されたこの空間。まるでアサノさん自身のような洗練された空気感を纏ったこの家で、人々を魅了するクリエイティブがこれからも生み出されていくことでしょう。