
穏やかなニュアンスカラーで包み込まれた空間の中で、静かな存在感を放つモクの境界線。白、木、グレーのカラーバランスを追求した、二人にとっての素材と色の黄金比とは。
寄り添う歩幅
東京都中野区。都心へのアクセスの良さと落ち着いた街の雰囲気が共存するこの街で暮らすのは、IT関連の会社にお勤めのご主人と、WEBマーケティングのお仕事をされている奥様。お二人が物件探しをスタートしたのは、約2年前のことだったそう。
「リモートワークで家にいる時間が長くなって、引っ越しを検討し始めました。どうせ引っ越すなら資産形成の面でも持ち家がいいねと、最初は自分たちでポータルサイトで気になった物件を手当たり次第内見していました」。様々な仲介会社とともに中古物件巡りをしたN夫妻ですが、なかなかピンとくる物件に出合えないまま気が付けば約1年が経過。その後半年ほどは、物件探しを中断していたと言います。
「リノベ済みとして販売されている物件は特になんですが、“住みたい” と思える空間がなかったんです。他の条件が揃っていても、どうしてもしっくりこない感じが拭いきれなくて…」。そう話す奥様は、以前からインスタグラムで空間デザインやインテリアに関する投稿をよく見ていたそうで、デザイン性の高い空間への憧れが高まっていた分、購入する物件も妥協することができなかったと言います。 半年の充電期間中に更に情報収集したりご夫婦で検討を重ねたりした結果、「どうせなら好きな空間をつくれるフルリノベに振り切って物件を探そう!」と、以前からインスタグラムをフォローしていたnuリノベーション(以下、nu)へ相談に訪れたというN夫妻。ほぼ同じタイミングで今のご自宅の売却情報をご主人が見つけ早速アドバイザーとともに内見へ訪れると、これまで難航していた物件探しが嘘のように、この一軒で購入の意思が決まったと言います。
「アドバイザーのTさんは、常に“一緒に考える”というスタンスで私たちに接してくれました。良いも悪いもきちんと伝えてくれて、Tさんがいたからこの購入を進められたといっても過言ではないですね」とご主人。ご自身でもしっかり調べたいタイプというご主人は、約2年の物件探し期間中に本などを読んで、ある程度不動産の知識がついていたと言いますが、今まで一緒に内見した仲介会社では対等の目線で接してもらえていないと感じる場面も多々あったそう。
「良い面ばかりをアピールされたり、偏った提案をされていると感じたこともあったんですが、『この人は違うな』と。私たちが悩んでいるとアドバイスをしてくれるし、求めなければ不要なアドバイスはしない。この物件に対しても、僕たちの気持ちが固まっていることを察知してくれて “本当に大丈夫なのか” という最終チェックと、私たちが不安に感じていたことを補強する情報を集めてきてくださって」。「すごく信頼できる方だなと、安心して契約を進められました。お父さんみたいな感じだったよね!(笑)」と、親しみを込めて振り返るN夫妻。
お二人にとっては物件自体の納得感と同じくらい、歩幅を合わせてサポートしてくれるアドバイザーへの信頼感も、大きな決め手になったようです。
心地よいリード
初回の設計デザインミーティングにはアドバイザーも同席し、N夫妻の家づくりへの思いや要望を設計デザイナーへ伝えるサポートをしてくれたそう。その際に、ご主人は2人並んだスタッフの姿に良い意味でギャップを感じたと言います。
「お父さん感のあるアドバイザーさんに対して、デザイナーさんはデザインを生業とされている方なんだな、というのが一目瞭然でわかる雰囲気をされていて。お二人の個性が感じられて面白かったです!(笑)」。「ヒアリングの時点では、つくりたい雰囲気はあるものの具体的なイメージが固まってなくて…。でも、ふわっとした私たちの要望にも親身に耳を傾けてくれて、この人ならちゃんとカタチにしてくれるだろうなと思いました」と奥様も続けます。
そんなN夫妻に設計デザイナーが提案したのは『color ratio』というコンセプトの空間。お二人が理想とする白・木・グレーのカ ラーバランスを有機質・無機質の素材をバランスよく取り入れて表現する、そんな空間をイメージしました。
複数提案されたプランの中でも一際目を引いたというのが、長方形の空間を木のパーティションが大胆に二分するデザイン。将来的な売却の可能性も踏まえ、個性が強すぎるデザインは避けたいと伝えていた一方で、自分たちらしいオリジナリティも表現したいというお二人は、ちょうどいい塩梅の個性が添えられていたそのプランに心を打たれたと言います。
「60m²の中に主寝室とワークスペースを2部屋、収納も詰め込んで欲しかったので、結構無理言っちゃったなと思っていたんです(笑)。でも、このパーティションプランは各部屋の広さや素材感のバランスなど、どの空間も圧迫感が出ないようにと提案していただいたのがすごくいいなと思って。方向性はほぼ即決でした」と声を揃えます。
ホワイトオークの突板とすりガラスで構成されたパーティションは、LDKの他の要素とマッチするデザイン性と強度面のバランスを丁寧に検証。木枠のピッチやガラスの大きさ、透過具合など、何度も調整を重ねてつくり上げたと言います。
また、一見すると個室への入口がどこにあるかわからないこのパーティションですが、よく見ると横桟を緩やかに突起させた取っ手が。そのシームレスさはN夫妻も夜中トイレに行く時に扉を手探りで探したというほどで、「最近では歩数や体の感覚で扉の位置が わかるようになってきました(笑)」と、楽しそうに話します。
「この取っ手の納まりはデザイナーさんの発案なんです。僕たちが何も言わなくてもデザイナーさんがめちゃめちゃこだわって考えてくださるので、細かな納まりはある程度お任せしていました。僕もこだわりを持つことは好きなタイプなので『そのこだわり、乗った!』という感じで(笑)」とご主人。「家づくりって、私たちと話して決めるべき部分と、ある程度デザイナーさんが先導してくれないと決めれない部分があると思うんです。その棲み分けをしてリードしてくれたので、悩みたいところにしっかり検討の時間を割けたのも良かったです」と続けます。
お二人の理想とするニュアンシーな空気感を醸し出すパーティション。細部にこだわった繊細な意匠とガラスから漏れ出る灯りが、上質な雰囲気を一層引き立てます。
ワークスペースは、ご主人が窓側を、奥様が真ん中のお部屋を使っているそう。奥様のワークスペースは1.3畳とミニマムな空間ながら内窓で閉塞感が軽減されていて、仕事以外の時間も本を読んだり、ちょっと 1人になりたい時などにも重宝しているそう。「以前暮らしていた賃貸は個室がなかったので、今回プライベートな空間をつくれて暮らしの質が上がりました。2人でリビ ングで過ごす時間も幸せだし、各々が好きなことをして過ごしている時間も幸せです」とご主人。
また、N邸のもう一つのこだわりは造作キッチン。LDKの印象を左右するデザインの要として、また、来客が多いN邸ではコミュニケーションの中心地点としても重視したい、と考えていた空間でした。間取りや使い勝手の面から、アイランド型のシンクと壁付けのコンロを組み合わせたⅡ型キッチンを採用。コンロ側はコスト調整のためにシステムキッチンも検討したと言いますが、ほぼ全てのメーカーのショールームに足を運んだ上で造作を選択しました。
「パーティションも、床も、シンク側もこんなに素敵なのに、ここだけ妥協したら一生後悔するだろうなと思って。これはもう 造作するしかない!と心を決めました!(笑)」と奥様。コンロ側の面材は壁と馴染む白で設定し、なるべくノイズのない直線的なデザインに。シンク側は天板や側面、収納の面材をモールテックスとし、石の塊のような重厚感を感じるデザインとしました。 腰壁収納の扉にはリブ材を採用し、有機的なアクセントを追加。シンプルな設えだからこそ、モールテックスとリブの素材感が引き立つ上品な佇まいでまとめました。
実はキッチンの隣にレイアウトされたモールテックス天板のダイニングテーブルも、今回のリノベで造作した家具。当初は既製品で探していたそうですが、キッチンでモールテックスを採用していることから天板を造作しても材料費の面で大きくコストが上がらないとアドバイスを受け、家具造作にシフトチェンジ。キッチンとはあえて一体化せず、テーブル単体として造作しました。ソファは<BoConcept>のBolzanoカウチソファをセレクト。直線的な意匠が多いN邸の中にころんとしたフォルムがベストマッチしています。
廻り出す暮らし
心地よい低彩度のニュアンスカラーで包み込まれたN邸。最後にnuでのリノベ体験を振り返ってもらうと、「こだわりがある人にこそおすすめです」と声を揃えます。
「思ったことを全部伝えて、納得して進められるのは、私たちの性格上相性が良かったなと感じています。予算の都合でできなかったことはもちろんありましたが、意図を汲み取ってもらった上で削っていけるので満足度が全然違うなって」。
また、二人の家づくりへの思いに対するスタッフの熱量も終始安心感があったポイントだったそう。
「打合せ中、デザイナーさんと私たちの意見が合わない場面もあったんですが、そこにしっかりデザイナーさんの意思を感じられたのが嬉しかったです。御用聞ではなく、一緒にいい空間をつくろうとしてくれるスタンスを感じられました」。「これはアドバ イザーさんもそうですが、要望や質問に対してのレスポンスのスピード感も心地良かったですね。安心できるリターンが即座に返ってくることもあれば、宿題として持ち帰って、検証した上で回答してくれることもあって」と振り返ります。
リノベ後は、ずっと憧れていたというレコードに熱中しているというご主人。この家に引っ越してきてからターンテーブルやスピーカーなどを一式購入したと、嬉しそうに教えてくれました。
「近所に良い感じのレコードショップを見つけて、少しずつコレクションを増やしています。レコードってケーブルの太さでも音質が変わっちゃうらしくて、突き詰めたいタイプの私にはもってこいの趣味かもしれません(笑)。『針を落とす瞬間が幸せです』は、ちょっとカッコつけすぎですかね!?(笑)」。冗談まじりに話すご主人と、その傍らで微笑む奥様の表情は、リノベ後の暮らしを心から堪能している様子。
パーティションから洩れる柔らかな灯りと、ゆっくりと廻り出すレコード。穏やかな音色を思わせる二人の心地よい日常が、この家で紡がれていきます。