プロ直伝。躯体現しリノベーションを成功させるデザインの極意
リノベーションに興味のある方であれば、一度は耳にしたことがある「躯体現し(あらわし)」というデザイン。
インダストリアルテイストなどハードな印象が強いと思いますが、他の素材との組み合わせ方次第では、洗練されたスタイリッシュな印象をつくり出すことも。
今回はそんな躯体現しのデザインをご自宅に取り入れる際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
物件探しから設計・施工、インテリアまでをワンストップで手掛けるnuリノベーション(株式会社ニューユニークス)のスタッフ。
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〈この記事のトピックス〉
・躯体現しの基礎知識
・躯体現しのメリット/デメリット
・躯体現しできる?できない?
・躯体現しリノベーション ビフォーアフター
躯体現しの基礎知識
まずは、リノベーションにおける躯体現しデザインの基礎知識からご紹介します。
■「躯体」とは?
主にRC(鉄筋コンクリート)造・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造のマンションの、構造部分に使われているコンクリートでできた面を指します。
一般的なマンションでは、この躯体面に対して床材や天井材、壁の仕上げ材が施工されているため、躯体が室内に剥き出しになっていることはあまりありません。
■躯体の構造
マンションの躯体の構造には、大きく2種類が存在します。
一つ目は「ラーメン構造」。コンクリートでできた梁と柱でマンションの構造を支えているため、リノベーションで躯体現しにすると壁や天井に加え、この梁や柱が室内に露出します。
△天井を横断する梁に加え、壁面上部にも梁による段差が露出
ラーメン構造のメリットは、ワイドスパンな空間づくりが可能である点。
専有部をスケルトンまで解体すると長方形の箱のような状態になるため、自由度の高いプランニングが可能です。
一方、「壁式構造」は柱や梁がない代わりに、室内にコンクリートでできた壁が出てくる場合が多く、これはリノベーションでも壊すことはできません。
△LDとキッチンを隔てる三方の壁が躯体
壁式構造の場合は室内に柱や梁による凹凸ができないため、インテリアが配置しやすいという点が魅力ですが、大きく間取りを変えたい場合は希望の位置に躯体壁がないか、必ずチェックしておきましょう。
■躯体現しのデザイン要素
リノベーションで躯体現しを採用するためには、キーとなるデザイン要素が3つあります。躯体現しとの相性やご自身の理想とするイメージによって適した素材が異なりますので、要チェックポイントです。
<亜鉛管・排気ダクト>
配線を意匠的に納めるために用いられる亜鉛管や、天井面に剥き出しになった排気ダクトなどは、躯体現しには欠かせないリノベーション素材。一般的にはシルバーなど金属的な質感なので、完成した際の見え方を意識して配管ルートを検証しましょう。
<スイッチプレート>
トグルスイッチやアメリカンスイッチなど、リノベーションならではのスイッチプレートとも相性のいい躯体現し。ただし、本来壁の中に納められている配線器具を納めるためにスイッチやコンセントをボックス状に設ける必要がある点は注意が必要です。
壁沿いに家具を配置したい場合はボックスが干渉しないように電気計画を検討しましょう。
<塗装>
躯体現しにした上で、躯体面を白などで塗装して仕上げることも可能です。素地のコンクリートよりもラフさが軽減されるので、美術館のような静謐な空気感が好きな方にもおすすめ。
躯体現しのメリット/デメリット
それでは、リノベーションで躯体現しにするメリット・デメリットをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
◯メリット1 | 天井が高くなる
RC造やSRC造のマンションの構造は、一般的に下の図のようになっています。
私たちが普段天井として見ている面(クロスの貼ってある面)の裏側には「懐」と呼ばれる高さ10cm前後の空間があり、排気ダクトや照明の配線などが張り巡らされています。
リノベーションで天井を躯体現しにするとその分天井を高くできるため、より開放感のある空間をつくり出すことができます。
◯メリット2 | マンションリノベならでは
新築マンションの場合は躯体面が室内に露出しているデザインのお部屋はなかなかありません。
また、日本の戸建ては木造が主流なので、リノベーションで躯体現しのデザインを楽しめるのはマンションリノベーションならではの醍醐味といえますね。
×デメリット1 | 冷たい印象
寒色であるコンクリート面は、視覚的にひんやりとした印象を与えます。そのため、住空間としての温かみを求める場合はインテリアで木やファブリックの質感を取り入れるようにするのがおすすめ。
×デメリット2 | 湿度調整
もう1つ気をつけたいのは、結露対策。
コンクリート自体は断熱性の低い素材のため、特に冬場に室内外の温度差が大きくなると、結露が発生する可能性があります。
結露はカビの原因にもなりますので、北向きのお部屋や外壁面に近い場所は、躯体現しにした際のデメリットがないか確認して仕様を決めましょう。
“躯体現しはコスパがいい”とは、一概に言えない。
まとめサイトなどでは、「躯体現しは天井や壁にボードを貼る工程がないため、コストを抑えられる」というコメントを目にします。
しかし、躯体現しの場合は通常天井裏に無造作に束ねられている配線を亜鉛管と呼ばれる鉄の管で覆い、意匠的に設る必要が出てくるため、場合によってはボードで天井を造作してクロスを貼るのと比べてコストダウンにならないことも。
コストダウンのために躯体現しを検討しているという方は、注意が必要です。
躯体現し、できる?できない?
続いては、躯体現し仕上げにできるかどうかを見極めるポイントをご紹介。
以下に当てはまる場合は躯体現しができない、もしくは躯体面が綺麗に出てこない可能性がありますので、これから物件を購入される方はしっかりと確認しましょう。
①最上階の物件
最上階のお部屋では、天井のコンクリート面に断熱材が施工されているケースがほとんど。断熱材を撤去すると住宅としての性能が低下してしまうため、「絶対に天井を躯体現しにしたい」と思っている方は避けた方が良いでしょう。
ただ、近年のマンションでは「外断熱」という工法で住戸内に断熱材が露出しないケースもありますので、気になる物件が最上階だった場合は、担当アドバイザーに確認してみましょう。
②外部に面する壁、天井の一部
最上階のお部屋ではなくても、バルコニーや外廊下など外部に面する壁は、断熱材の関係で躯体現しにすることはできません。
また、天井面についても掃き出し窓から50cm程度は断熱材が施工されています。どれくらいの範囲なのか、意匠的にカバーすることはできるかなど、設計デザイナーと相談しながら納め方を検証しましょう。
・リノベーション事例:「ナカソト」(千葉県柏市)
LDKの天井をリノベーションで躯体現しにしたKさん。掃き出し窓に面する部分には断熱材の折り返しがあったため、意匠的にどう納めるかを設計デザイナーと検討したそう。
行き着いたのは、チーク色で塗装した木板で断熱材を覆い意匠的に魅せるという方法。ダウンライトを埋め込み、リビング側まで続くL字型に設定しました。
Kさん:どの素材を、どの範囲で貼るかはすごく悩んで(笑)。いろんなパターンのイメージパースをつくっていただいて一番しっくりくる納まりを探しました。
メインの床材には無垢のチーク材を採用していますが、日焼けしやすい窓辺にはグレーの塩ビタイルをキッチンに向かってL字に設定。天井と床のL字が交差する、K邸こだわりのデザインです。
③クロスが直張りされていた壁
最後にご紹介するのは、リノベーションで躯体現しにした時に綺麗にコンクリート面が出てこないケース。それは、既存のクロスが躯体面に直に施工されている物件です。戸境壁などによくみられる仕上げ方で、クロスが貼られた壁をコンコンと叩いた際に石のような硬さを感じたら、直張り仕上げとなっている可能性が高いといえます。
白い斑点のような模様が既存のクロスを剥がした際に出てくるノリの跡。
完全に取り除くことは難しいため、躯体現しの範囲を変更するか、上の写真のように意匠として空間に取り入れるか、ご自身のイメージと照らし合わせて検討しましょう。
躯体現しリノベーション ビフォーアフター
それでは最後に、実際にリノベーションで躯体現しのデザインを取り入れた事例を、リノベーション前後の写真でご紹介します。
・リノベーション事例:「ROUGH×OUTDOOR」(千葉県印西市)
△BEFORE
△AFTER
もともとリビングに隣接していた1部屋を解体し、LDKを拡張したE邸。間取り変更と併せてLDKの天井を躯体現しで仕上げました。
躯体現しの質感は、モールテックスで造作されたカウンターテーブルとの相性も抜群。広々としたオープンキッチンでピザやパンを作ったりと、まるでカフェのような暮らしを楽しんでいるそう。
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・リノベーション事例:「raw」(東京都練馬区)
△BEFORE
△AFTER
フルスケルトンからリノベーションを行ったHさん。実はリノベーション後の理想の暮らしが明確になっていなかったといい、「こういう風にしたい」「こういうのはイヤ」といったイメージを設計デザイナーに伝え、計画を進めていったそう。
Hさん:妻は実家が沖縄なんですけど、日焼けしたコンクリート、ラワン、トタン、みたいな”素”っぽい材質が多かったり、はたまたアメリカ文化が入ったような建物とか、そういう中で育ってきたから自然体な雰囲気がスッと入ってくるんでしょうね。あと、あまりにカッコ良すぎると僕らなんかの身の丈には合わないので…。
そんなHさんの思いを汲み取ってデザイナーが提案したのが、白く塗装された躯体現しの天井に、木やステンレスなど素地の素材感をふんだんに使った空間。
真っ白に塗装された天井に、剥き出しになった排気ダクトがアクセント。白を基調としたことで、タイルやミラー、ダイニングチェアの色が映え、Hさんらしさが隅々まで行きわたる、唯一無二の空間となっています。
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・リノベーション事例:「relaxing」(東京都港区)
△BEFORE
△AFTER
リノベーションで66㎡をワンルームとしたSさん。
天井や壁は可能な限り躯体現しとし、LDK側は白く塗装、エントランス側のフリースペースは素地の躯体現し仕上げとしました。
床も天井と同じく、LDK側には大判の磁器質タイル、フリースペースはサイザル麻を採用し斜めのラインで貼り分け。
視覚的にも、感触的にも空間の切り替わりを感じられる、ワンルームの新たな可能性を感じさせる空間に仕上がりました。
最後に
今回は、リノベーションで具体現しのデザインを取り入れる際の基本知識から、リノベーション前後でガラッと雰囲気の変わる実例までをご紹介いたしました。
今回取り上げたお宅以外にも魅力的な躯体現しデザインのリノベーション事例がたくさんありますので、ぜひ施工事例ページからチェックしてみてくださいね。
よくあるご質問
Q1. リノベーションでよく耳にする「躯体現し」とは?
A.
躯体現し(くたいあらわし)とは、マンションの構造部であるコンクリートの天井や壁を室内に露出させたデザインです。
Q.2 躯体現しのメリットは?
A.
メリットは、天井高を既存より高くできるケースが多く、より開放的な空間をつくり出せる点が挙げられます。また、躯体現しのデザインを内装に取り入れた新築マンションはなかなかありませんので、リノベーションならではのデザインを楽しめる点も魅力の一つです。
Q.3 躯体現しのデメリットは?
A.
コンクリートは熱を伝えやすく断熱性能が低い素材のため、冬場は特に結露が発生しやすくなることがあります。また、素地の躯体現しの仕上げの場合は寒色の面積が多くなるため、冷たい印象の空間になることもあり注意が必要です。
Q.4 躯体現し仕上げでよく使われる素材は?
A.
リノベーションで天井や壁を躯体現しにする場合、通常は天井裏や壁のボードの裏に仕込まれている配線や排気ダクトを意匠的に収める必要があります。
そのためシルバーの亜鉛管や排気ダクトが露出しているのが特徴的。また、トグルスイッチやアメリカンスイッチなど金属質なパーツとも相性が良く、使用されることが多い素材です。