余計なものがないからこそ、より白さが際立つ部屋。白いけれど、“ざっくり感” を残すことでうまくバランスの取れた落ち着く空間が実現しました。自転車、カメラ、アート・・・厳選し尽くしたお気に入りを並べて、白との対比を楽しみます。
理想は雑居ビル
横浜市鶴見区。カメラに携わる仕事をしているOさんのお宅は、高台で見晴らしの良い場所にあります。もともと小田急線沿線の賃貸で暮らしていたOさんは、年齢的にそろそろ家を購入したいと漠然と考えていました。休日は渋谷や恵比寿界隈に出ることが多かったOさんは恵比寿に遊びに来た休日にnu cafeの前を通りかかってnuのことを知ります。仲間うちでも「リノベーション」という言葉を良く聞くようになったのも丁度同じ時期で、その家づくりの新しい方法に興味を持ち始めていました。nu cafeの前にあったパンフレットを持ち帰り自宅のPCで検索。すると毎週末に個別の無料相談会を開催していることがわかったので早速参加してみることに決めました。相談会でアドバイザーの話を聞いて改めて家が欲しいと実感。すぐに物件探しをスタートしました。理想の物件は雑居ビルっぽくて、壁などを取り払って極力広く使える空間であるということと、幼少期から暮らしていた小田急線沿線ということ。雑居ビルに暮らすなんてイメージがつかないような気もしますが、ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在した経験を持つOさんは、当時倉庫を住処にしている知人がいました。無機質なビルの中を、自分の居心地が良いようにカスタムしながら暮らすそのスタイルにとても感化されました。インテリアも古いベッドをマットだけ変えて使っていたりと、使える部分は活かしながら新しく変えて行くその過程は、どこかリノベーションに通ずるところもあると感じていました。20件くらい物件を見て回りましたが、なかなかピンと来る場所がなかったOさん。最後の方に見たこの鶴見の物件は、上り坂がすごくて「この坂を毎日登るのか…」と少々不安になったといいます。でもこの物件は他と違うインスピレーションを感じました。オフの日はカメラを持って自転車に乗ってふらりと出かけるというOさんは、自転車ですぐの場所にある工場地帯も気に入りました。アンダーグラウンドな写真が撮れて、お気に入りだそう。ここは自転車やカメラという自分の趣味に適している場所。趣味を基準に物件を考えた結果、ここがマイベストだと決めたそうです。広さは55㎡と当初の予定よりも狭めでしたが、その55㎡という空間をどうカスタムしていこうかと今後にワクワクしたのでした。
シロに投影する趣味
白が好きなOさん。家をつくるなら、壁や天井の色は白く塗装するということは決めていました。白い壁に光が乱反射して、部屋が独特に明るくなる感じが好きなので「他の色で家を塗るという概念が自分にはなかった」のだそう。そして間接的な光を楽しみたいので、照明も極力少なくしたいという希望がありました。内装にはコントラストをつけず、平面的にさっぱりと。大好きな服や靴以外はいわゆる「ミニマリスト」の考え方で物を極力持たないように生活するOさんは、空間のイメージに対しても考えが一貫していました。デザイナーが提案したコンセプトは「オトコの白」。どこか女性が好みそうな白という色を、男性目線で取り入れていくとどんな化学反応が起こるのか?!そんなテーマに沿って、Oさんが希望していた“雑居ビル”のような世界観と極力空間を広く使えるようなプランを考案していくことになりました。出来上がったプランは、LDと寝室を低い壁で仕切っただけの1ROOM。その1ROOMでひときわ存在感を放つのは、横幅2m60㎝のキッチン。「料理は一切しないのにキッチンにこだわりました(笑)」とOさん。その理由を尋ねると、見た目へのこだわりよりも空間を効率的に使うアイディアが隠されていました。奥行き1m以上ある作業スペースは、食事も取れるようカウンターとしての役割も果たします。「ダイニングテーブルを置くスペースを取ると、その分空間が狭くなるので、キッチンとカウンターを一体にしようというご提案を頂きました。」と仰るように、カウンター側には『decoる』でオーダーして頂いたWerner 社のシューメーカーチェアが並びます。リビングにはソファとコーヒーテーブルも揃えてありますが、友人が来た際にはみんなでキッチンを囲んで飲んでしゃべっていることの方がよっぽど多いんだそう。またキッチンに纏わるもう1つのアイディアは、洗濯機をビルトインさせたということ。洗濯機も洗面スペースに置くと約1㎡とられてしまうので、キッチンにまとめることにしたんだとか。「食洗機よりも、洗濯機!」という程、洗濯好きなOさん。シンクの下という場所は、家の中でも一等地。そこにこだわりのMieleの洗濯機を入れ、連日のように服に合わせて色んな洗い方を楽しんでいるんだとか。「服にこだわりのある友人知人はみんな「洋服持って行って洗っても良い?」と言ってきますよ(笑)」と、O邸はバーになったりコインランドリーのようになったりと大忙しです。見渡す限り本当にさっぱりとしているリビングは、天井も壁も床も白で統一。中でもフローリングにはとてもこだわりました。エイジング(経年変化)を楽しめるような床の表情を求めて、無垢オークに白く塗装→拭く→白く塗装ということを繰り替えした結果、倉庫に敷いてあるようなオリジナルフローリングが完成しました。そんな白い空間に映えるのは、お気に入りのアートや旅先で集めたマグネット、そして趣味の自転車など。清潔感溢れる色でまとめた空間だけど、どこか無骨さも感じられるのはフローリングはもちろん、キッチンの前に露出した配管や元々壁にはめ込まれていた窓の存在があるから。窓は雰囲気を出すために窓枠を外して雑居ビルっぽく。一度スケルトン状態にした時に出て来たコンクリートブロックの壁なども要所要所で活かしながら自分らしくカスタムすることでOさんだけのオリジナル空間が完成しました。「とにかく一人暮らしの家づくりをめいっぱい楽しもうと思いました。好きなものには興味津々だけれど、他には興味なしなので割り切った空間になったと思います」とOさん。元アパレルで働いていたので、服と靴だけは大量にお持ちです。これでも引越しの際に甥っ子に譲ったりと一生懸命処分されたそうですが、土間から続くWICにはアパレルショップのように洋服がずらり。これぞオトコの趣味部屋という並べ方は圧巻でした。細かいところまでこだわって、全て空間が平面に見えるようにデザインしたためスッキリ仕上がったこの部屋。「引っ越して半年ですが、この部屋の使い方をまだまだ悩んでいたりします。」と、自分の趣味がカンペキに反映されたこの空間には、余白がまだまだあるようです。
白でつくる、オトコの城
午前中は日の光を楽しめるので、照明を少なくしたのは正解。リノベーションしてからは家の居心地がとても良くなりました。だからこそ家から出なくなりそうで極力外出するようにしているのだとか。そのせいで余計自分の時間を楽しむようになったと楽しそうに語ります。Oさんはバックパッカーで良く旅に出るそうで、去年10月には香港、一昨年にはチェコ・ドイツに行ってきたとのこと。趣味のカメラを片手に訪れる国々の駅舎を撮りに行くのが旅のお約束です。
撮った写真はインスタグラムなどに載せているそうですが、写真は人に見てもらうのが一番うまくなるので、いつか自分の作品を1冊の本にまとめようと思っています。その作品が完成するのと同時に、今後土間スペースをもっと改造していきたいというOさん。「とにかくここは、自分の時間が楽しく過ごせる家ですね。」とはいえ、まだ自分だけの城を手に入れたばかり。これから白いキャンバスに何を写していくのでしょう。