ブラックでまとめ上げたシックな空間を、優しく穏やかな空気が満たすS邸。リビングに設けたパーテーションと同じ、黒の毛並みがつやつやと輝く愛犬と暮らす家族の生活を取材しました。
きっかけは10代からの親友
玄関の扉を開けた瞬間、元気いっぱいにスタッフを出迎えてくれた飼い犬の『すもも』。フラットコーテッドレトリバーという、とても人懐っこい犬種です。そんなすももを優しく見守るS夫妻がこの部屋のお施主様。2人が家の住み替えを考えたのは、すももの先輩犬『もも』が病気を患ったり、奥様のお母様が体調を崩されるなど夫妻にとって困難な状況が重なった時期でした。夫妻+1匹の3人家族がもっと快適に暮らせる別の住まいがあるのではないかと考え、新築マンションの購入を検討していたといいます。そんなタイミングで奥様の10代からの親友、Hさんがご自宅のリノベーションをスタートしたことを知ります。これがS夫妻にとっても大きな転機になりました。実は親友のHさん、nuリノベーション(以下、nu)の施工事例『エッセンス』のお施主様。リノベ中のHさんの話を聞くなかで、「今の自分たちにとってもリノベーションは合っているかもしれない」と感じ、これまで住んでいたマンションの1部屋を購入しリノベーションすることを決意しました。そして「ぜひ同じデザイナーにお願いしたい!」とH邸を担当したデザイナーご指名でnuに来社されたのでした。Hさんとは結婚前からのご友人だというS夫妻。奥様は「彼女とは好きなものが似ているけど、完成してみると家ってそれぞれ全然違う風になるものですね。」と話します。日々のライフスタイルや家族との関係性が空間に100%反映されるリノベーションは、一見似た者同士の2人の住まいでも全く違う空間をつくり出します。それでもH邸とS邸、2つの空間には同じやわらかく穏やかな空気が漂っていました。
みんなが幸せになる『距離感』
早速始まったデザイン打合せ。お2人が最も大切にしたいテーマは「すももファーストな家」であることでした。このお部屋の1番の特徴、リビングの一角を仕切るブラックのパーテーション。半分以上をガラス窓で仕上げたため圧迫感を感じさせず、仕切っているのにまるで広いワンルームのような開放感です。前のお宅に暮らしていた当時、まだ子犬であるすももはとにかく自由に部屋中を駆け回り、壁やインテリアへのイタズラも絶えませんでした。そんなすももと一緒に暮らす中で夫妻がくつろげるスペースは少しずつ狭くなっていき、ついにはすももの誤食を防ぐため、夫妻がキッチンで食事を取ることが日常になっていたというのです。その時のことをご主人は「焼肉が食べやすいね、なんて言ってたりして(笑)」と明るく語りますが、流石にそんな状況はどうにか打破したい!とデザイナーが考えついたのがこのパーテーションでした。仕切った内側にあるのはダイニングとキッチン。アーコールのテーブルセットは前のお宅でも愛用していたもの。ヘリンボーンで仕上げたダイニングスペースのフローリングは、テーブルセットにぴったりの仕上がりになりました。食事の用意から夫妻の団欒の時間まで、パーテーションの内側でゆっくりとした時間を過ごしているとき、お2人はリノベーションによって生まれた幸せを一番強く感じると言います。腰の高さほどの壁越しにはいつでも外側の様子が目に入る上、ガラスのないドア部分はすももが立って手をかけるのにぴったりな高さ。パーテーションが生み出した程よい距離感が、家族3人で過ごす幸せな時間を作り出しました。
クールであたたかなリビング
全面タイル張りのリビングは、シックで大人な雰囲気。ここにも夫妻のすももへの思いやりがたっぷり詰まっています。前のお宅ですももと一緒に暮らしていた先輩犬のもも。つるつると滑るフローリングの表面をうまく歩けず、フローリングの上を通るときはいつもご主人が抱えて運ぶ必要がありました。グレーの磁器質タイルは犬にとってもグリップが効いてとても歩きやすいそう。タイルの下には床暖房が完備されているため見た目のクールな印象とは対照的にぽかぽかと暖かく、その暖かさは部屋中に行き渡ります。さっきまではしゃいでいたすももがふと静かになったと思うと、気持ち良さそうに床にゴロンと横になっていました。内窓越しに見える部屋はいつも3人で並んで寝るという家族の寝室。時間になるとすももが真っ先に中に入り、窓越しに「早くおいでよ!」と言わんばかりに2人を見つめるのだそう。必要最低限の壁は設けつつも、出来るだけオープンな空間を作りたかったというS夫妻。パーテーションの内側・外側と、大きな内窓のついた寝室。どの空間も独立せず、家族がいつも一緒に居られるLDKが出来上がりました。もう1つお2人が必ず叶えたかったのが、広い玄関。奥様のお母様の介護をされているというお2人ですが、前のお宅ではお母様の車椅子が玄関に入れず、泣く泣く廊下に置くなどしていたと話します。完成した玄関にはS夫妻が大ファンだというチャーチの靴がずらりと揃えられた造作靴棚とご主人の釣り道具が並んでいますが、それでもまだゆとりはあり車椅子も楽々入ることができるんだそう。仕事から帰ってきたときには玄関の先に設けたガラスドア越しにお留守番していたすももの顔が真っ先に見られると言います。
365日、繋がっていくやさしさ
「デザイナーさんには誰よりもプライベートをさらけ出すことになるから、心をガバって開いた感じでした。」とご主人。取材の際にも同行したデザイナーとは、まるで古くからの知り合いのように思い出話に花を咲かせていました。家族にとっての暮らしやすさを追求したS邸のリノベーション。「家づくりに関しては僕たちは素人だし、何が正解かを判断するなんて難しくて。だからこそデザイナーさんがリードしてくれたのは本当にありがたかったです。」そう話すご主人に対してデザイナーは「Sさんたちが提案に対して毎回しっかりとジャッジをしてくださって、違うと思ったものには『違う!』と言ってくれたので提案もしやすかったです。」と返します。S夫妻とデザイナー、そして施工担当がまるでチームのようにひとつになって完成したS邸。その一体感はS夫妻の周囲を思いやる細やかな心配りから生まれているのだと感じました。その心配りはすもものため、そして2人のために空間の隅々にまで行き届いています。3人で並んで寝ているとき、夫妻でゆっくりと食事をしているとき、仕事から帰ってきてすももが出迎えてくれるとき。日常的な瞬間に、新しい生活の幸せを噛み締めるというS夫妻。「それでも一番喜んでいるのはすももなんです。」というように、2人の愛情をいっぱい浴びるすももは安心した様子で無邪気な表情を見せていました。365日、たくさんの思いやりが家族を幸せで包み込む、やさしい空間が完成しました。