18世紀の昔、誕生したシノワズリ。それを生み出したのは、遠い地の美に寄せたヨーロッパの人々の思い…約8mの長さがある幾何学的な木組み格子の本棚で、シノワズリの香漂う空間を表現しました。
出会いと再会
東京都江東区。駅から程近いマンションに、M夫妻のお宅があります。公務員のご主人と、都内勤務の奥様の二人 暮らし。二人は結婚を機に、一緒に住む家探しを始めます。 賃貸だとお金を払うだけで将来的に自分たちの資産にはならないと考え、戸建や新築マンションを中心に見ていました。といっても、戸建や新築にこだわりがあるというわけでもなく、ただ漠然とした家探しをしていたそう。二人のこだわりは、住むハコよりも中身。とにかく「明るく風が通るお風呂」と「大きな本棚」が絶対に欲しいと考えていました。そして、奥様の実家に近い江東区エリアというのがもう一つの条件。それを条件に探すと、新築マンションではなかなか見つかりません。それならばと中古マンションに視点を変えて探していた時に、気になる物件がありました。中の状態はよくありませんでしたが、場所も広さも希望していたものにぴったり。ただ、その物件を最初に紹介してくれた業者の方から言われたのは「ここなら表層のみキレイにすれば十分住めますよ」との一言。しかし、その言葉を何か釈然としない気持ちで聞いていた奥様。それもそのはず、奥様の実家は設計事務所に建ててもらった注文住宅でした。もともと家族の価値観を反映させた住宅に住んでいたので、奥様も自然と自分のライフスタイルを家に反映させたいと考えていました。そのため、表層のみのリフォームは何か違うと感じていたと言います。またお風呂も新品に取り替えるだけの提案で、希望である明るいお風呂は諦めなければいけませんでした。他にどういう方法があるのかと本屋さんで住宅系の雑誌を色々と見ている中でリノベーションという言葉に出会いました。そこに載っていて気になったのが、nuの施工事例。家に帰って早速 HPを検索してみたところ、他の事例もとても気に入ったと言います。すぐに相談会に申し込み、nuアドバイザーとの物件探しが始まりました。しかし色々と見て回ったものの、やはり前に見た物件がまだ気になっていたM夫妻。アドバイザーに相談してみると、「今から行ってみましょう!」との一言。すぐに現地に向かい、一緒に内見をしました。すると、M夫妻よりも興奮したのはnuアドバイザーの方でした。「ここ良いじゃないですか!リノベをすれば窓側にお風呂を持って来れますし、正方形のかたちをしているので、どんなプランでも出来ますよ!」とかなりリノベーション向きな物件だとの説明を受け、一気に夢が広がったM夫妻。築16年で79㎡と広さも気に入り、その場で購入を決めました。
シノワズリの香漂う
ご主人が以前住んでいたのは、単身用の1ROOM。奥様が遊びに行くとお風呂に窓がなく、なんとなく圧迫感を感じていたそう。実家のお風呂には窓があり、それが気に入っていたため、お風呂に光と風が入るプランというのは絶対条件。また、本やCD集め、映画鑑賞が趣味のお二人は、壁一面の収納棚があったら良いなと考えていました。イメージは、本を沢山収納してある、図書館みたいな家。そして、海外から見たジャポネーゼ、ヨーロッパの人々が理解した中国のテイストを面白く、美しいと感じていた奥様。「いとこがエストニアの方と結婚をしたのですが、向うに遊びに行った際に、私が学生時代に使っていた剣道の道具一式を下さいと言われて持って行ったのです。そうしたら、その道具をなんと玄関に飾っていたので驚きました。」国が違うだけで文化の捉え方が異なり、それによって、ものへの価値感もまるで変わってしまう。そういったところを空間に落とし込めないかとデザイナーに相談しました。ご夫婦で旅行に行くのも好きで、スペインに訪れた際に見て感動した格子窓の写真や、木組みの引き戸の写真・・・それらをイメージソースとしてデザイナーに渡しました。後日、デザイナーから提案されたコンセプトは「シノワズリの香」。「提案された3案はどれも捨てがたくて、実家に持ち帰って親にまで相談しました(笑)」と奥様。 最終的に二人で結論を出したのは、本棚で大胆に空間を仕切った案。西洋から見たシノワズリの要素を、細かい木組みの棚や格子の引き戸に表現した空間が特徴的でした。全体的にはオフホワイトの壁や天井に、濃い色の木を使ったシンプルなプランです。正方形のつくりを生かして、スケールの大きな本棚で大胆に空間を仕切ってありました。玄関を開けて家に入ると、8mの長さの本棚が目に飛び込みます。家の中心にはオープンキッチンがあり、料理をしながら家全体を見渡すことが出来ます。本棚の壁につくり付けられた引き戸を開いた向こうには、夫婦の寝室と、将来生まれてくるお子様のための部屋。格子の引き戸で仕切ることで、完全に個室として仕切るのではないため、お互いの存在を常に感じられる計画でした。正方形で角部屋のため、三面採光という羨ましいお宅。大きな窓から差し込む光が、木組みを通して部屋全体に幻想的な模様を映し出します。今では、お二人それぞれが好きな文庫本や、歴史小説、マンガや自伝まで様々な本が並ぶ二人のオリジナル本棚。また、奥様が実家から持って来たという急須やカップ&ソーサー、そして思い出の写真を入れた写真立・・・それらも適度な余白を生み出しながら飾られています。また、絶対条件だったお風呂の廻りは、開放的で明るくお二人のお気に入りの場所となりました。デザイナーはお風呂に光と風を通すだけではなく、水廻りの動線にこだわったのです。ヒアリングの際に、「”持たない” 生活をしたい」とご主人がこぼした何気ない一言を覚えていて、それを水廻りの動線で解決しました。お風呂に入る時には、その廻りを囲う様に配置されたL字型の通路を歩けば、全ての出来事が完結するようになっています。L字の縦の部分には、二人分の洋服が収納されたワードローブ、そしてタオル類の入った棚が収まっています。確かに、二人暮らしにしては洋服を含めてとてもものが少ないという印象です。「こういう生活がしたくて、お互い前の家からは全然荷物を持って来ませんでした。この収納量でも十分です。また、お風呂に入る時にはここを通れば着替えとタオルを持ってお風呂に直行出来るのでとても便利。全て丁度良くて自慢です(笑)」と奥様。収納スペースをまとめることで、家全体の印象がすっきりとまとまって見えます。
わたしたちの東洋美
普段は、ご主人がご飯をつくるというM夫妻。「引っ越してから、朝ご飯は必ず一緒に食べるようになりました。」とお二人。もともと実家にお住まいだった奥様は、朝ギリギリまで寝ているタイプだったと言いますが、とても早起きをするようになったとか。「朝、日差しがたっぷりと入る中で目覚めるのは気持ちが良くて」と話す奥様。休日は、リビングで二人で映画を見たり、読書をしたりとゆっくり過ごします。家の居心地が良すぎて、気がつけば一日中家にいることもしばしばあるとか。「朝ご飯を食べてゴロゴロして、映画を見て、夜ご飯もうちで食べるので、二人で外食に行く事が圧倒的に減りましたね。(笑)」とご主人。実は、結婚式とリノベの時期が丁度重なっていて、その時期はとても多忙だったお二人。「どちらも毎週のように打合せが続き、とても大変だったのですが、リノベの打合せ後には二人とも幸せな気分になっていました。友人たちから結婚式の話をされても、いつもいつの間にかリノベの話になっていることが多いです。(笑)」工事中は現場にお二人でいらして、リビングの壁一角を自分たちの手で塗装されたのだとか。「施工監理の方に無理を言って、塗らせて頂きました。自分たちで塗ったから、完成後の満足感も想像以上でした!」とお二人。それだけ家づくりへ情熱を捧げたM夫妻。シノワズリの香漂うこの家での暮らしは始まったばかりです。まだ余白のある空間、余白のある棚に大好きな東洋美を詰め込んで、お二人らしいお宅を創り上げていくことでしょう。