日向ぼっこ、アウトドア、ゲストハウス…そんなキーワードがしっくりとくる、内と外が同じ空間に共存しているようなお宅です。
浅草リノベーション
日本の観光名所と言えば?というインタビューでよく耳にする浅草。何故か、同じ日本なのに訪れる度にワクワクしてしまいます。そんな特別感のある町、浅草にお住まいのA夫妻のお宅へお邪魔しました。A夫妻は、同じ靴屋さんで働く同僚。以前から自分たちの家が欲しいと考えていたAさんは、昨年の消費税増税のタイミングで家の購入を決意。当初は新築マンションも検討していたと言いますが、内見に訪れたところはどこも天井が低くて細かく仕切られた部屋が狭く感じ、好みの物件はありませんでした。「このスペックでこの値段なら、中古を買ってリノベーションしようと思いました」とご主人。リノベのことは以前からインターネットで見て知っていたため、予備知識もありました。それからはリノベ会社のWebサイトを色々と検索。nuに決めた理由は「物件探しからワンストップで出来るので、任せっきりの方が安心だし楽かなと思って(笑)」と奥様。とりあえず、という気持ちで予約した個別相談会でアドバイザーの話を聞き、更にリノベへの熱が高まりました。二人の職場のある浅草近辺で、60㎡以上の物件ということを条件に物件探しをスタートさせます。実際に20件程も歩いて見て回ったというA夫妻。浅草を越えて南千住の方まで足を伸ばすと、意外に中古物件は多かったと言いますがどれも「買いたい」と思うまでには届かず、一時は諦めようかと考えました。そこでアドバイザーが見つけてきて紹介したのが、お二人が購入したマンション。「東京三大花火大会とも言われる、隅田川の花火の打ち上げ場所がすぐそこなんです。だから家で花火を鑑賞出来るし、春には桜もとてもキレイなんですよ」と奥様。またお二人が気にされていた天井高は、なんと2m80㎝も確保出来ることが分かりました。その贅沢な天井高や広さも丁度良かったことを考慮し、築22年64㎡のこの物件を購入しました。
譲れなかったピンク
もともとリノベーションについて知識豊富だったA夫妻は、新旧問わず色んな会社の事例を見ていたため、どんな家にしたいかという明確なイメージがありました。仕事柄、靴をたくさんお持ちのお二人は、大きな土間をつくって靴をたくさん並べたいということ、そしてご主人の趣味であるDJの機材をセット出来るよう、格子の引き戸付きのインナーテラスが欲しいということが大きな要望でした。全体のイメージは、コンクリート現しに幅広のフローリング という、ざっくりとした雰囲気が好みのお二人。そんなお二人に提案したコンセプトは「rough nude」。ラフでざっくりとしたハコの中で、余計なものを脱ぎ捨てたヌードのような潔さを味わえる空間のご提案です。3案出されたプランは、希望していた土間のカタチが三種三様で悩んだそう。 「最終的には、スコーンと奥まで抜けたカタチの土間がいいなーと思ってこれに決めました」と、お二人が気に入ったプランは、玄関ドアを開けるとモルタルを敷いた土間が奥のインナーテラスまで約7m繋がるデザイン。長い廊下のような役割を果たす土間には、二人の靴をディスプレイするオープンな靴棚と、 趣味のスノーボードをかけておくラックが並びます。そして、日差しがたっぷり入る窓側に造られた、憧れのインナーテラス。スチールで造作したブラック格子のガラス引き戸を閉めると、ガラスの向こう側に奥行き感が出てクールな印象に。引き戸を開けると、内とも外とも言えぬ緩やかな繋がりを楽しめます。LDKは土間から7㎝分上がったステージのようなデザイン。アカシアのフローリングを敷き詰めたLDKは、2m80㎝ある天井高から、実際の大きさよりもあるのかと想像してしまうほど開放的。天井は特徴的な梁で、それもこの家のちょっとした自慢です。細い梁がルーバーのように並び、それが1つのアクセントとなっているのです。色々とリノベ事例を吟味してきた奥様のこだわりは、キッチン。「引き出しが多いシステムキッチンのデザインがあまり好みじゃなくて。収納は、好きなデザインのバックカウンターを置いて代用して、キッチンはシンプルにしようと決めていました」当初のイメージ通り、ステンレス製でパイピング仕上げのキッチンはラフな空間にとてもマッチしたデザイン。更に、そのシンプルなキッチンを引き立てるためにキッチンの後ろ側の壁を、全部ショッキングピンクのクロスにすることを選択しました。そうすることで、こだわったキッチンのシルエットがハッキリと浮かび上がります。「打合せでみんなに(ピンクの壁を)反対されたのですが、どうしても譲れなくて(笑)」と笑う奥様。それでも仕上がると、当初反対していた全員が「これにしてよかったね!」と言った程、ざっくりとラフなこの空間をパキっと引き締めるような、潔い格好良さがあります。ピンクの壁の前には、アンティークショップで見つけたフレンチテイストのキャビネットを設置。キッチンスペースだけで約4.5畳もあるので、友人を呼んでもみんなで作業が出来てとても楽しいのだとか。「職場が近いので、同僚を呼んでみんなで食事をすることが多いです。自転車で通える距離なので、お昼も帰って来て食べたりしています(笑)」とお二人。二人が落ち着ける空間になったからこそ、いつでも帰って来たくなるのだなあと住まいの重要性を改めて実感しました。
飾らない「町」に住まう
お引き渡しのとき、ものすごく感動していたというご主人。普段はクールな印象なのに、とても嬉しそうでこちらも嬉しかったとデザイナーもよく覚えていたほど。「すげーって思いましたよ」と恥ずかしそうにコメント。「友人が来ると、どこで靴を脱ぐの!?って最初は必ず聞かれちゃいますけど(笑)」とモルタルの土間の長さに、みんなどこまでが玄関なのかと困惑してしまうんだとか。浅草の暮らしやすさについて聞いてみると、「年末年始とか日本の習わしごとを肌で感じられるんですよ。ね?」とご主人に微笑む奥様。「そうなんですよ。年末には蕎麦屋さんがわさわさと賑わい出すし、浅草寺が近いので初詣に訪れる人で溢れていました」とご主人。四季折々の行事を、住んでいる町で当たり前の日常として体感しているお二人。いつもとても自然体なお二人だからこそ、伝統的な町でリノベーションという新しい住まい方を肩肘張らずに選択出来たのでしょう。ラフで飾らない「rough nude」というコンセプトは、実はお二人そのものを現していたのだと後から気がついたのでした。