まるでブルックリンのオープンカフェのような造作アイランドキッチンに、お気に入りの本や雑貨で囲まれたロフトスペース。Tさん一家がリノベーションで手に入れた、理想の我が家のカタチを取材しました。
リノベ欲、急上昇。
大きな商店街で賑わう駅前の雰囲気につい懐かしさを感じてしまう、神奈川県川崎市のとある駅。そんな最寄駅から7分ほど歩くと見えてくるベージュ色のマンションが、Tさん一家のお宅です。そろそろ住宅購入を、と密かに考えていたという奥様は、「まずはきっかけづくりから」という気軽な思いで、SNSでたまたま見つけたリノベーション物件の完成見学会にご主人を誘って参加しました。そのイベントで初めてリノベーション空間に触れたというご主人。「自分たちのこだわりや考えを、こんな風に空間に反映できるんだ!」と新築マンションにはない面白さを感じ、“リノベーション”という選択肢が一気に現実味を帯びたといいます。こうして、nuリノベーション(以下、nu)を含めたいくつかの会社とリノベーションを前提とした中古物件探しを開始したT夫妻。「nuのアドバイザーさんは内見の度にマンションの規約や修繕積立金がいくら貯まっているかなど、事前に下調べをしてくれていました。内見の段階でそこまでしてくれる会社は他になかったので、いい意味で驚きでした」と当時を振り返ります。最終的に購入を決断した今のご自宅は、駅からの距離や外観・共有部の清潔感など、ご夫婦ともにイメージしていた理想に近く、横浜方面に通勤しているご主人と、都内に出ることが多い奥様の中間地点としてもちょうどいい立地であることが決め手となったんだとか。そんな中で少し気がかりだったのは、既存のクロスを剥がした後に、壁の躯体面がどのような状態で出てくるかが解体してみないとわからないということ。「当初から、躯体現しの壁はどこかに取り入れたいと思っていて。クロスを剥がした後にノリの跡が残るのはなんとなくイメージがあったので、それがどう出てくるか、解体後の現場打合せまでドキドキだったよね(笑)」と顔を見合わせて笑います。このお部屋が持つ表情と、お二人が思い描く理想のデザインがどう溶け合っていくのか…。T夫妻のデザイン打合せがスタートを切りました。
溢れ出た理想
T夫妻がまず初めにデザイナーへ伝えたのは、家づくりにおいて外せない要素の数々。アウトドアが好きだというT夫妻はキャンプ道具やスノーボード用品などを一式お持ちで、それらを格納できる大きな収納が必須でした。お部屋のテイストも、そんなアクティブな雰囲気を取り入れつつ、落ち着いたヴィンテージ感が調和した心地よい空間が理想。また、「気に入った作品は紙で持ちたい派」だという奥様はたくさんの漫画や小説の文庫本を所有していて、仕舞い込むのではなく手の届く距離に置いておきたかったといいます。そして、お二人が何より譲れなかったのは対面キッチンとロフトを取り入れるということ。「自分たちの思い描くイメージや生活スタイルなどを踏まえると、どちらも譲れなくて。欲張りを承知でなんとか両立できるプランを提案してほしいとデザイナーさんにお願いしました(笑)」と奥様。待ちに待ったプレゼンテーション当日。デザイナーからお二人に提案したのは「Booklyn(ブックリン)」というコンセプトの空間でした。それはN.Y.州の街の名である「Brooklyn(ブルックリン)」を文字った造語で、たくさんの本に囲まれたまるで海外のカフェのようなLDKをイメージ。ブリックタイルや深い色の木など、素材感を大切にしながら丁寧にプランニングすることで、よりリアルな世界観を表現しました。そんなラフな空間に合わせる床材は、エイジング加工が施された幅広のパイン材。さらりとした足触りが気持ちいいその素材は奥様のとっておきだそうで、「新品・ピカピカの床に傷がつくと1週間くらい落ち込んでしまうタイプなんです(笑)そうデザイナーさんにお伝えしたら『では、元々傷が付いたものを選んでみては?』と提案されて。子供がおもちゃをぶつけても神経質にならなくていいし、おまけに自分たちの好きなテイストで。一石二鳥です!」と奥様。また、気がかりだったリビングの躯体面は、案の定クロスのノリの跡が出てきたといいます。「スケルトン状態の時は結構目立ちそうだなと思っていましたが、他の要素が造られていく内にどんどん全体と馴染んでいって。いいアクセントになってるよね」とご主人。今でも天井を見上げると、躯体現しの天井面に新築工事の際に職人が書いたメモ書きを見つけることがあるといい、住みながらも新たな発見があるこの家に毎日ワクワクさせられているんだとか。
そんなリビングからは、T夫妻のこだわりが詰まったダイニングキッチンとロフトが一望できます。なんといっても印象的なのは、キッチン背面の壁一面に敷き詰めたブリックタイル。ダークな木の色とマッチして、堂々としたブルックリンスタイルの世界観を体現しています。キッチン本体は「便利な機能を満載しているシステムキッチンより、自分たちにとって使いやすい設備を厳選して取り入れたい」と造作を採用。収納をオープンにしてコストダウンした分、お料理担当のご主人が譲れなかったという大容量のミーレの食洗機をビルトイン。シンクとコンロはL字型に切り取られたステンレス天板のそれぞれの辺に配置しました。「間取りの都合上、ダイニングテーブル・シンク・コンロを横一直線に並べるのが難しかったんですが、それでも『広さ的に出来ない』ではなく、実現する方法をデザイナーさんが一緒に考えてくれて。使い勝手もいいんですよ」とご主人も大満足の様子。ご友人が遊びに来ると、キッチンと一体的に造作したダイニングテーブルを囲んでお酒を飲んだり軽食を楽しんだり…。そんな光景がありありと目に浮かぶ、楽しい雰囲気の漂うキッチンスペースとなりました。
もう一つのこだわりであるリビング横のロフトは、LDKに面する2面をブックシェルフで囲い、奥様の大切な本やさまざまな雑貨をディスプレイ。ロフト上に登ると、ブックシェルフに並んだ本が目隠しとなり、閉塞感の無いちょうどいいお籠り感のある空間が広がっていました。現在はご主人のワークスペースとして使っているといい、「狭いところが割と好きなので、nuさんのコンセプトルームで見てからロフトが欲しいと思っていたんです。妻はダイニングで作業ができるようにコンセント位置などを計画してあるので、リモートワークの日が重なっても程よい距離感でお互いの作業に集中できるんですよ」とご主人。そんなロフトの突き当たりには、壁と同じラーチ合板で造られた小さな窓が一つ。忍者屋敷の隠し扉のようなその小窓は寝室と繋がっていて、通気性や採光も確保されています。「子供が寝た後に仕事をすることもあるんですが、気配を感じつつ仕事に集中できるのはいいですね。あの子が大きくなったらここは勉強部屋になると思うので、そしたら僕は土間に引っ越しかな?(笑)」と冗談まじりにはにかみます。
積み重なっていく思い出
ヘリンボーン張りの廊下を抜けて玄関横の土間へ入らせてもらうと、そこは北向きであるにもかかわらずたっぷりと自然光の差し込む明るい空間で、スチールラックにはキャンプ道具がぎっしりと積み込まれ、天井にはテントを干すためのハンガーポールが設置されています。
そんなハンガーポールと仲良く肩を並べるように取り付けられたブラックの器具は、ご主人の要望で取り付けたという懸垂バー。「友人が遊びに来ると、みんな珍しがって一度は懸垂にチャレンジして帰るんですよ」と話すご主人の横で、奥様が不意にクスクスと笑い出します。「これ結構重いんですけど、取り付け位置を決める時nuの施工担当さんがプルプル震えながら抑えていてくださって。見るたびに思い出しちゃうんですよね(笑)」と、現場打合せでの一幕を楽しそうに教えてくださいました。「そういえば皆さん、変わらずお元気ですか?」と顔を綻ばせながら尋ねるご主人からも、この家づくりに携わったスタッフとの打ち解けた空気感が伝わってきます。楽しい思い出とともにスタートしたこの家の歴史。これからも家族の温かなエピソードが積み重なり、深みのある家族の色を刻んでいくことでしょう。