洋館の回廊を思わせるミステリアスな廊下、こっくりとしたヘリンボーンの床、陰影のあるシックな壁。60年代の英国に迷い込んだような空間で流れる、夫婦と愛猫の暮らしとは。
高まる気持ち
郊外の丘の上にある大型マンション群。この一室にネコちゃんと3人で暮らしているのが、Mさんご夫婦です。
「以前、定期借家のマンションに住んでいたことがあるのですが、そこが個性的で、とってもオシャレで。その部屋のオーナーさんは海外でお仕事をしている方で、ご自身のセンスでリノベーションしたようでした。無垢床、スイッチ、内窓、どれも海外っぽくて、こんな家があるんだと驚きました」と、奥様は熱く話します。2年の期間が満了し、一般的なつくりの賃貸マンションへ移ってからも、オシャレな住まいへの思いは募るばかりだったと言います。
入籍のタイミングで、ついにマイホーム取得を決意。戸建を新築するか、中古マンションをリノベーションするか天秤にかけた結果、すぐに後者に決まったそうです。予算内で自分らしい空間を実現できる点も、リノベーションの魅力だったと話します。
こうしてリノベーション会社を調べていくうちに、ご夫婦はあることに気づきました。
「家探しからリノベーションまでワンストップでやってくれる会社は結構あるけど、nuリノベーション(以下、nu)さんみたいに、家具まで一緒に考えてくれるサービス<decoる>があるのは珍しくて。私は家具がすごく好きなので、家具も相談できるのは理想的でした」。
一刻も早くリノベーションしたかったMさんは、物件探しもスピーディーに。3ヶ月間、毎週のように希望エリアへ足を運び、アドバイザーと一緒に15軒ほど内見しました。Mさんが気になる物件を連絡すると、アドバイザーがその週末には内見できるようすぐに手配してくれたそうです。
「スムーズですごく助かりました。内見中も深く介入して来ず、私たち夫婦の“ああだこうだ”を黙って聞いていてくれる(笑)。一方で、質問すると適切な答えをパッと返してくれるし、『ここはカビが生えやすい』とか、『この構造だとあのようなリノベはできない』とか、プロ目線で気になるポイントはちゃんと教えてくれて。私たちは家のプロじゃないので、見ただけでは分からない問題が後から明らかになっても困るじゃないですか。だから、すごく安心感があったし、頼もしかった。絶妙な距離感でしたね」と、ご夫婦は目を合わせます。
その他にも、ご夫婦のライフプランに合わせたリノベーション専用ローンのスケジュールを出してくれたおかげで、経済面の不安も解消。無事に、築19年・82.70㎡の物件を購入し、デザイン打合せが始まりました。
ホラーの世界を再現
共通の趣味が“ホラー”というMさん。実は、海外のホラー映画に登場する家は(なぜか)かわいい壁紙や凝った内装が多いそうで、今回のリノベーションもホラーっぽい空間をテーマに進めることにしました。
LDKと廊下は、夫婦ともに好きな緑とグレーを基調に、締め色として要所に黒を採用。手持ちの家具も活かしながら、新たにゴシック調のインテリアを迎えることを決めました。
「購入当時の間取りは廊下が長く、ホラーに出てくる家っぽかったので、そのまま活かしてもらいました」と奥様。深い緑色の壁、天井寸前まで高さのある黒い建具、洋館さながらのベル型ブラケット照明…。日中でも、夜の回廊を歩いているようなミステリアスな気分になります。
「廊下天井の両角にモールディングをあしらっているの、気づきました?お客さんは絶対に気づかない、完全に自己満です」と、いたずらっぽく笑うMさん。
家中に採用した、真鍮のトグルスイッチもお気に入り。毎日必ず触れるからこそ、気分が上がるデザインにこだわったと言います。
リビング・ダイニングの床は、ずっと憧れていたヘリンボーンフローリングを採用。
「予算の都合上、浴室を新しくするか、ヘリンボーンを採用するか天秤にかけて。浴室は今後も簡単にリノベーションできるけど、床はやるとしたら大がかりになるので、やるなら今だねって」と、ご夫婦は振り返ります。
キッチン壁には白いタイルをあしらいつつ、甘くならないように目地をグレーに。賃貸時代から使っていたCRASH GATEのダイニングボードと揃え、天板はステンレスを採用しました。床は同じく憧れていたハニカムタイルに。デザインと清掃性を両立した広々キッチンのおかげで、料理好きなご夫婦の食卓がますます華やぎます。
奥様の自室は、蝋燭(ろうそく)レベルまで照度を下げたり、寒々しさのある青緑の壁紙を採用したりして、ホラー感が一層強いデザインに。映像クリエイターというお仕事柄、音漏れに配慮して内壁に吸音材を充填したり、防音ドアを選んだりして、仕事に集中できる環境を整えました。また、コードがゴチャゴチャしないように、コンセントの配置と配線も入念に計画。機材用の収納にコードを出せる穴を開けてもらったほど、徹底しました。
一方、ご主人の自室は白い壁で、他と比べて明るい印象に。「ずっと飽きずに使いたいから、カスタマイズしやすいように、あえてシンプルにした」と言います。
リノベーションのきっかけをくれた定期借家を模して、木枠のミラーがかわいい洗面台を造作。LDKに隣接する寝室には、黒枠とデザインガラスがかわいい内窓を付けました。
こうして、ホラー感、上質さ、かわいさ、無骨さ、クラシカル……多様なテイストが絶妙に共存する、ブリティッシュスタイルの住まいが完成しました。
50年先も
入居して1年8ヶ月。ネコちゃんが、リビング壁に仲間入りしたキャットウォークをエレガントに歩き回っています。奥様の自室にもウォールデコレーションが増え、洋画のホラーハウスさながらの豪華さです。
「ゴテゴテな壁にずっと憧れていたので、壁にモノを飾れるようになったのが嬉しいですね。賃貸はせいぜい画鋲で飾るくらいしかできなかったけど、今はどんなモノでも大丈夫。以前は素敵なモノを見つけても買えなかったけど、今は『あそこに飾ったらかわいいな』って想像しながら買える。『やっちゃっていいんですよね?(ニヤリ)』って、釘とか打っちゃったりして(笑)。もう、誰にも遠慮しなくていい。洋服を買いに行く感覚でインテリアを見に行けるようになりました」と、奥様は声を弾ませます。
洗面台の横に付けたDULTONのアメリカンなガラス棚をはじめ、奥様の仕事機材を収めているCRASH GATEのジョーカーキャビネットなど、<decoる>を活用して多くの家具を迎えたMさん。ここまで空間に馴染んでいるのは、内装と一緒に家具を考えたからこそです。
奥様が特に気に入っているのは、座間市のRECLAMA(リクラマ)のヴィンテージ&リメイク家具ラインold maisonで購入した、インドの古家具。ホラーものをディスプレイしたときに映えるよう、内面をライムイエローに塗装してもらったそうです。
「このガラス戸棚は、大きすぎて最初は搬入できず、部屋のドア枠を外して入れてもらったんです。結構、裏話があるんですよ」と、奥様は笑います。
ご主人の部屋には、東京蚤の市で出会った北欧ヴィンテージのロッカーや、セミオーダーの家具が並んでいます。時を越えて、海を渡って、世界中からM邸に集まった家具たち。
「つくっている間も、住んでいる今も、ずっと自分の部屋をつくっている感覚です。一生完成しないから、一生楽しみ続けられるのがリノベーションの良さですね」と、ご夫婦はうなずきます。
「毎週のように恵比寿に行って、nuのスタッフさんたちと色んな意見を交わした時間は貴重でしたし、一生モノです。皆さんと試行錯誤した時間と思い出、全部含めてこの家になっている。ゆずれない部分はちゃんと守ってくれたからこそ、実現できなかったことにも納得できました」と、ご主人。好きなモノに囲まれた自室で仕事をしている時間が特に幸せで、仕事が嫌じゃなくなったのだとか。
「毎日気分が上がるよね。あと50年くらい、ずっとこんな暮らしができるんだよね、私たち」。
満足そうに目を合わせるご夫婦。住まいはホラーテイストでも、暮らしは笑いと喜びにあふれているようです。
Interview & text 安藤小百合