くすみカラーと白のやわらかい色の中に、端正な格子が映える空間。本来のジャパンディが具現化された住まいには、デザイナー夫婦のやさしく洗練された暮らしがありました。
とことん正直
世田谷区の京王線沿いの駅から徒歩10分。この地に立つ大型マンションに住むのは、夫婦ともにプロダクトデザイナーのSさんと、生後4ヶ月の娘さんです。
「実は、独身時代にマンションを購入したことがあって、当時からリノベーション会社もチェックしていました。nuリノベーション(以下、nu)のインスタグラムもフォローしていて、仕事のデザインの参考にもしていたんです」と、ご主人。
以前購入したマンションは売却し、結婚後はこのエリアの賃貸に住んでいましたが、依然ご主人のリノベーション欲は強く、ついに実行することに。3社ほど比較検討しましたが、nu以上に雰囲気が合う会社はないと、決め打ちでnuに問合わせしたと言います。
「WEBサイトの問合せフォームから連絡したら、その日の夕方にアドバイザーさんから返答があって。そのまま親身に話を聞いてくれて、『ああ、もう話が進んでしまった!』って(笑)」と、奥様は振り返ります。
こうしてトントン拍子に物件探しが始まり、nuの完成物件見学会にも参加しつつ、アドバイザーが集めた候補の中から6軒ほどを一緒に内見。マンション売却経験があるご主人は資産価値を重視していたことから、アドバイザーはその視点で、マンションの管理状況、修繕費用の積み立て状況、設備管理の状態を入念に確認しました。
「一級建築士資格を保有するアドバイザーさんも同行してくれて、動かせない壁や配管、水回りの床が高くなっている理由なども教えてくれました。内見したマンションごとに忖度なしで“良い・悪い”をハッキリ言ってくれたのも、すごくありがたかった」と、ご主人。
また、Sさんは物件探しの段階ではリノベーションの要望はそこまで伝えていなかったものの、アドバイザーはSさんのデザインワークを調べ、Sさんの好みを汲み取って来たそうです。
「『こういう雰囲気がお好きじゃないですか?』って。仕事ができる方だなと感激しました。内見した後、アドバイザーさんがリノベ後のイメージ図面をササッと描いてくれたのもよかった。この物件ではこういうことができるんだって、すごくイメージしやすかったです」と、奥様。小学校と中学校が近いこと、周辺にクリニックが豊富にあることも決め手になり、この築19年・70.01㎡のマンションを購入しました。
「そうそう、以前の持ち主から売却してもらうにあたって契約書の読み合わせをしたときも、アドバイザーさんが『この文章はこういう意味ですよ』って、噛み砕いて教えてくれて。不動産関係の契約書って今まではサッパリ分からなかったから、ここまでちゃんと理解できたのは初めてでした(笑)」と、奥様は笑います。
似て非なるもの
仕事柄、ミラノサローネなど海外の展示会を視察する機会が多いSさん。様々なインテリアのトレンドを見てきた中で、近年のトレンド“くすみカラー”に心地よさを感じていたと言います。
そこで、今回のリノベーションでは『ジャパンディ』をテーマにすることに。ジャパンディとは、ジャパンと北欧を表すスカンディナビアを組み合わせた造語ですが、「ジャパンと言っても、北欧の人が見るジャパンです。北欧の人が見ている日本って、実は“ザ・和モダン”ではないんです」と、奥様は説明します。
デザイナーはその微妙なトーンの差をキャッチし、北欧風の温かみの中に洗練された和を調和させていきました。間取りは、2LDK+WIC+ワークスペース。基調色は、白・ウォームグレー・木の3色に。リビングには温かみのあるオークフローリングを採用し、白塗装を施してジャパンディらしいトーンに設えました。リビングの短辺いっぱいに造作したモールテックスのカウンターは、全長4m超えの美しく滑らかな仕上がり。TV台としての活用はもちろん、アートやオブジェを飾るディスプレイとしても楽しめる特別な余白です。
また、特筆すべきはダイニングの後ろの天井付近に造作したルーバー。電化製品が醸し出す生活感を一掃しつつ、ジャパンディの要素をたっぷり添えてくれます。
とにかく使いやすさを重視したキッチンは、料理しながら家族の様子が見える対面型を採用し、壁面いっぱいのパントリーも造作。サイドの壁にはマットグレーのタイルをあしらい、キッチンの腰壁にはジャパンディ・ムードたっぷりなリブパネルをあしらいました。「北欧住宅の写真を参考にしながら、リブの丸みや間隔を吟味しました」と、奥様は目を輝かせます。
ほぼ100%在宅勤務のご夫婦は、ワークスペースも重視。4.4畳の広さを確保し、プロダクトの模型を作れる工作スペースも設けました。コストコントロールのために、デスクはご自身でDIY。この他、洗面所や玄関などにも棚をDIYできるよう、壁に補強下地を入れてもらったそう。「そういう今後を見通したことも丁寧に相談に乗ってくれて、助かりました」と、ご主人は振り返ります。
また、ワークスペースとWICの入り口は、奥様が熱望したアーチ型を採用。空間にやわらかさをもたらし、仕事で疲れた目に癒しを与えてくれます。また、デザイナーの提案で、WICの床には“ござ風”の長尺シートを採用。視覚的にも触感的にも他の空間と差別化できて、お気に入りだと言います。当初WICは寝室と一体型にするか独立型にするか悩んだものの、両面の壁を活用できる理由から、独立型に。家族全員の洋服、季節家電、防災グッズを収納しても、余裕の収納量を確保しました。洗面室を隣に設けたことで、洗濯後に洋服を仕舞うのもラクになったと言います。
それからSさんのこだわりは洗面室にも。洗面台の正面には、大判の白タイルとテラコッタ色の目地をあしらいました。ミラノサローネでイタリアの磁器タイルメーカー『Mutina (ムティーナ)』がカラー目地を発表していたのを見て、絶対に取り入れたいと思ったのだそう。
「この家はグレートーンでまとまっているので、一カ所くらいは暖色を入れたいと思って。温かみがあって気に入っています」と、奥様は笑います。
余白を楽しむ
住み始めてまだ3ヶ月なのに、何年も住んでいるかのように空間に馴染んでいるSさんご家族。賃貸時代と比べて一番変わったのは、ゆとりを持って生活できるようになったことだと言います。
「キッチン周りはとにかく使いやすい。無駄な動きが減ったから、例え時間が限られていても、せかせかしないで調理できます。広くて色々置けるから、調味料などを並べてスタンバイできるんです、3分クッキングみたいに(笑)」と、奥様。友人が遊びに来たときは、キッチンカウンター周りに人が集まり、立ち飲み屋のように楽しめたそうです。
また、WICやパントリーを設けたことで、常に片付いた状態がキープできるように。視界に余計なモノが入って疲れることがなくなり、常に目の前の作業に集中できるようになったと言います。生活に関わるプロダクトをデザインしているご夫婦にとって、この家はクリエイティビティにも良い影響をもたらしているようです。
「試作品をリビングのテレビカウンターや飾り棚に置いてみて、『こういう雰囲気になるんだな』って確認しています。飾り棚には好きな作家さんの工芸品を置いているので、それに馴染むかなとか。これからも、家が一つのサンプルになるのが楽しみですね」と、ご夫婦は笑います。
お気に入りのインテリアは、この家のために新調したHAYのダイニングテーブル。賃貸時代から持っているFLOSのスタンドライトは、娘さんが触ると危ないのでまだ飾れていませんが、いつでも設置できるように天井に下地を入れてもらってあるそうです。
娘さんが成長してゆったりできるようになったら、映画を観ながらお酒を飲んだり、キッチンカウンターでスナックごっこをしたりするのが楽しみという奥様。
「こういう風に、今後の暮らしを想像できるのが幸せ。リノベって、自分たちに合った余白を作っていく作業だと思うんです」、そう話すご夫婦。
プロダクトだけでなく、未来の暮らしのデザインも楽しんでいるようです。
Interview & text 安藤小百合