
こっくりとした赤みのある木と、ベージュのモールテックス床、ブルーやイエローのアクセントカラー。 温かな色や素材で丁寧につくりあげたM邸には、7年間温めた奥様の思いと、夫妻の暮らしへの愛が詰まっていました。
「リノベを前提に結婚してください」
都心から程近い杉並区のマンションの一室をリノベーションして暮らすM夫妻。住宅関連のお仕事をされている奥様は、「いつか家を買うなら絶対リノベがしたい!」と以前から心に決めていたそうで、当初はリノベにあまり興味がなかったというご主人にも、結婚前からその熱意を伝えていたと言います。
「結婚してもしなくても、リノベは絶対にしたいと思っていたんです。だから夫には、結婚する前から『絶対リノベしたい』と伝え続けてきました(笑)」。『私と結婚するならリノベ付き』と楽しそうに振り返る奥様の表情からは、リノベへの熱い思いがひしひしと伝わってきます。
そんなお二人がnuリノベーション(以下、nu)とファーストコンタクトをとったのは約3年半前のこと。
「7年くらい前に、雑誌でnuさんの『MORTAL POT』という事例を見て、それからはインスタもフォローしてずっと見ていました。その後、具体的に家づくりを始める前にnuさんがリノベした空間を見ておきたいと思って、2人で完成見学会に参加したのが3年半くらい前だったと思います。当時は結婚前だったので動き出すことはできませんでしたが、住む人の好きなようにデザインされた空間を体感して、ますますリノベしたい思いが強くなりました」と奥様。
その後結婚されたお二人は、挙式を終えると早速リノベ計画をスタート。約2年ぶりに訪れたnuのオフィスで、当時完成見学会を案内したアドバイザーとの再会を果たしたと言います。
「少し話すうちに『あの時のスタッフさんだ!』と気づきました。すぐ一緒に物件を探し始めたんですが、契約を急かすようなことは一切なくて。いい意味で、いつの間にか契約書にサインをしてたよね(笑)」。
「あと、視野を広げられるような提案をしてくれるのもありがたかったよね。このマンションは築年数が結構古いので、数年後に売却することを考えると『別の物件も見た方がいいのでは?』と提案してくれて。私たちが『ここにします!』と押し切った感じだったんですが、そこからは私たちの決断を尊重してくれました。“適切な提案はする、だけど押し付けない”というスタンスがすごく良かったです」と、ご主人も続けます。
また、将来的な売却を視野に入れるという選択肢も、立地条件を重視していたM夫妻へのアドバイザーからの提案だったそう。
約50㎡という広さは将来的に家族が増えると手狭になるかもしれませんが、駅近・都心へのアクセスもいいエリアで資産価値もしっかり確保できると考えたことも、物件購入の後押しになったと言います。
リノベ会社を選ぶ際に他社比較はしなかったというM夫妻。その理由を尋ねると、「比べたほうがいいと思いつつ、結局nuさんしか行かなかったです(笑)。ホームページやインスタでたくさん事例を見ていましたが、nuさんのつくる空間には他にない惹かれるものがあったというか」。
これまで様々な空間デザインを見てリノベのイメージを固めていった奥様が、直感的にフィーリングの良さを感じたというnuのデザイン。言葉にならない感性がマッチしたnuと、待望の設計デザインの打合せがスタートします。
アートのような家
無機質な空間の中に、色のある家具や可愛らしいアートで外しが効いているM邸。「海外の家やアートギャラリーのような、雰囲気を重視してデザインした」という奥様の言葉通りの、清らかでどこか遊び心を感じる空気感で満たされています。
初回のプレゼンテーションで提案されたプランには複数のバリエーションがあり、第一印象では驚きと同時に嬉しさがあったという夫妻。特に、お二人からリクエストした造作キッチンやアールの意匠の他に、造作ベンチやカラー目地など、設計デザイナーからのプラスアルファの提案が盛り込まれていた点が印象的だったと振り返ります。
「造作ベンチは全く考えていなかったんですが、プランを見て絶対これがいいなと思って。費用が上がってしまうのはわかっていましたが、お金が掛かってでも“良い提案をしよう”と考えてくれた設計デザイナーさんの思いが伝わってきて、その提案が本当に嬉しかったです。逆に予算に対して入れられなかった要望も正直に伝えてくださって。安心感もありました」と奥様。
キッチンと一体的に壁に沿って造作したベンチは、包まれているような安心感がありつつ、キッチンの角がアールを描いていることから程よく抜け感もあるという絶妙な心地よさ。
そんな造作キッチンは、今回のリノベの中でも特にこだわりが強かったというポイントで、角のアール加工、天板の厚みやキャビネットの割り付けなど、家具としての美しさも重視してデザインを煮詰めていったそう。
また、キッチンのタイル壁に採用したブルーの目地は奥様にとっても冒険の組み合わせだったといい、「キッチンはチーク系の赤みのある木でつくると決めていたので、ブルーの目地を提案された時はキッチンと合うのかな?大丈夫かな?と正直不安でしたが…、これがめっちゃ可愛い!(笑) キッチンはとにかくかっこよく造りたかったので、いろいろ挑戦して本当に良かったです。インテリアともすごくマッチしていてお気に入りです」と心底嬉しそうな表情。
ダイニングテーブルはリノベを機に新調したという<HAY>のもの。チェアは全て以前のご自宅から使っていたもので、ブルーやイエローなど、カラフルだけど落ち着きを感じるトーンが空間にやさしい彩りを加えています。
また、タイル壁にかけられたお花のアートには、朗らかなM夫妻の人柄を表すエピソードが。実はこのアートは、グラフィック制作をサイドワークとしているご友人の展示会を訪れた際に「うちのチェアと同じ配色だ!絶対我が家のインテリアに合う!」と、お願いして譲り受けた作品だそう。「この取材の後も、これを描いた友人が遊びにくるんです。この前も別の友人が子供連れで一緒に遊びにきてくれたりして、賑やかだったよね」と、笑顔で顔を見合わせます。
造作ベンチやカラー目地の他にも、打合せの中では設計デザイナーの提案を積極的に取り入れていったというM夫妻ですが、その中でも一番悩んだというのが寝室周りのプランニング。廊下を極力つくりたくないという要望から個室の壁を取り払うプランを提案されましたが、玄関からすぐの場所であること、夜間の遮光の観点からも決断が難しかったと言います。
「壁は取ってしまったら簡単に元に戻せないので、後悔したらどうしようって。でもこれも、思い切って正解でした!床の切り替わりをアールにしたいというのはお伝えしていたんですが、天井にもアールの意匠を入れてもらって。すごく気に入っています」。
取り払った壁の代役を担うのは造作のローキャビネットと吊り下げ収納で、モノが掛かっていると意外と仕切られている感覚があり、完全に仕切りたい時はカーテンを閉められるため安心感も抜群。ローキャビネットは一見すると真っ白な長方形の塊ですが、実は引き出しが2杯。畳んだ洋服がぴったり収まる奥行きで、なるべく無駄な線が出ない美しい造形を追求してつくりあげたのだそう。
「造作家具の細かい納まりは、私たちはもちろん、デザイナーさんが私たちを上回るくらいの熱量でこだわってくれました(笑)。特にこのローキャビネットは、『構造的に引き出しで造るのが難しいかも』という意見も出ていましたが、着工ギリギリまでデザイナーさんが納まりを検証してくれて、この引き出しが実現できたんです!」。
「このローキャビネットは、夫婦で『作品』と呼んでいます(笑)。あと造作キッチンとLDの引き戸も!オリジナルで造作した箇所は、それくらいデザイナーさんが本気で考え抜いて設計してくれました」。熱を込めて話すお二人の横顔からは、こだわってつくりあげたこの家への愛着と、設計デザイナーとの固い信頼関係が伺えます。
この家、この街への誇り
新しい生活も落ち着き、造作キッチンを使って自炊をする頻度が少し増えたというお二人ですが「今は街の開拓にも忙しくて…、自炊は週2日くらいかな?(笑)」と微笑みます。
というのも、お二人は家のデザインだけでなく、住む街に対してもリスペクトを持って暮らしを楽しんでいるのだそう。
「住む街をしっかり知って、住む街に誇りを持ちたいなと思っていて(笑)。友達が遊びに来たら『私の街、いいお店があるよ』ってオススメしてあげたいですし、その方が暮らしていて楽しい!この前もお寿司屋さんとかうどん屋さんを見つけて…」と、最近見つけたローカル飲食店の情報を楽しそうにシェアしてくださるお二人。そんなお二人の温かな雰囲気がM邸をより一層魅力的にしているのだなと、こちらまでポカポカした気持ちになってきます。
最後にこの家での暮らしぶりを改めて伺うと、「全てが完璧!」と即答するご主人。
「料理も洗濯も、とにかく動線が完璧で無駄がないんです。自分がリノベをする前は、周りにリノベをした友人がいなかったし、タワマンへの漠然とした憧れもあったのですが、この家での暮らしは本当に最高です。ソファに横になっている時に目に入る眺めも気に入ってます」と、リノベの魅力にすっかりハマっている様子。
物件探し、設計デザイン、工事と、全体を通してスムーズで進んでいったというMさんの家づくり。インテリアも、新たに購入するものと断捨離するものが一通り整って、リノベ後の暮らしを心から堪能しているそう。
落ち着いているけど、カラフルで楽しい。そんな M 邸の空気感に乗って、お二人の時間がゆっくりと巡っていきます。