木目調の壁に、布目模様の赤タイル―。建築家アルヴァ・アアルトに心酔するSさんが描いたのは、彼の自邸にインスパイアされた空間。隅々まで好きなものを詰め込んだ、想像以上の住まいでの暮らしとは。
本当に住みたい家がつくりたかった
以前は賃貸にお住まいだったSさん。オーダーメイドで建てた親戚の家を見て、いつかは自分たちの好きな家をつくりたいと夢見ていました。
「立地、予算、広さ、全部を叶えたいと思ったら、私たちには中古リノベーションが合っていると思いました。以前からインテリアが好きだったので、リノベ-ションにも興味があって。一軒家ではなくマンションを選択したのは、管理維持のことを考えてですね」
雑誌やSNSでチェックしたリノベーション会社4社から資料を請求したものの、個別セミナーに参加したのはnuリノベーション(以下nu)だけ。奥様はその理由について、求めていた“100%オーダー型のリノベーション”であること、何より、施工事例を見て感じるものがあったからだと話します。
「リノベーション会社さんって、プランやデザインがパッケージ化されていたり、会社さんごとにテイストが決まったりしていますが、nuさんは違いました。色んなセンスがあって、それぞれにこだわりが感じられて、施主が本当につくりたいものをつくっていることが分かるんです。私は本当に自分が住みたい家をつくりたかったし、ちょっとでも意に沿わないことはしたくなかったので、これはもう絶対にnuさんだなって」
nuの個別セミナーでリノベーションの全体像や予算について説明を受け、より確信を深めたSさんは、物件探しからリノベーションまでワンストップで依頼することを決意。1年かけて資金計画などを整備し、万全の体制で物件探しをスタートしました。
希望していた城東エリアで7軒を内覧し、この築40年の中古マンションを購入。眺望の良さ、子育てしやすい周辺環境、配管までリフォーム済なぶん内装に費用をかけられることが決め手だったそうです。
「仲介をしてくれたnuのアドバイザーさんが丁寧に寄り添ってくれて、マンションにちゃんと修繕積立金が貯まっているか、管理体制はしっかりしているかも細かくリサーチしてくれました。良いことも悪いことも全部はっきり話してくれて、ものすごく信頼できましたね」
行きついたのがアアルト
奥様が描いたのは、建築家アルヴァ・アアルトの自邸のような空間。もともとミッド・センチュリーや懐かしい雰囲気のもの、海外の住宅デザインが好きだった奥様は、内装や家具のイメージを探す中で、好みのものはすべてアアルト関連であることに気づきます。そこからは、すっかり彼のファンに。この家のストーリーが動き出した瞬間でした。
初回のデザイン打合せでアアルト邸の写真集やSNSの画像を共有すると、設計デザイナーは阿吽(あうん)の呼吸で奥様の意図を理解。奥様が言葉にしない思いまで、どんどん形にしていったそうです。
「本当はタイル床にしたかったけれど、日本の家はフローリングという固定観念があったので、リクエストしなかったんです。でもある時、設計デザイナーさんが『これやっちゃいませんか?』と、この赤タイルを提案してくれて。あまりにビックリして、『これこれ!なんで分かったの?』と叫んでしまいました(笑)」
さらに、窓側の床は白タイルに切り替える提案も。窓から入る自然光が部屋の中にふんわり反射して、シックで落ち着いた空間にやさしい明るさをもたらしています。もうひとつ、この家で目を引くのが木目壁。当初の計画は白の塗装壁かクロス壁でしたが、プランニングの終盤で設計デザイナーが「白の面積を減らして、もう少し渋くしていったほうがいいと思います」と、木目壁を提案したのだそうです。
この家の主役ともいえるのが、キッチンです。実は、奥様のご職業は調理師。自宅でも料理に腕を振るえるよう、奥様の身長に合わせた広々キッチンを造作しました。デザインは、内装に合わせてレトロ調に。シンプルに仕上げた壁付けキッチンだから、とことん料理に集中できます。
コロンとしたフォルムの黒い換気扇には、リノベーションならではのエピソードが。計画段階では壁の構造上この型の換気扇は取り付けられないと判断していたものの、着工してみると実は取り付けられることが分かり、急遽発注を変更したのだそうです。完成まで一つも手を抜かずにとことんつくり込めたのは、完全オーダーメイドだからこそ。「やりたいことを全部やらせてくれました。それが心底うれしかったです」と、奥様は笑います。
インテリアは、この家に合わせてほぼすべてを新調。理想の家をつくった時に好きな家具を揃えたいと、賃貸時代は家具の購入を我慢していたそうです。ご夫婦のお気に入りは、RAMのリビングソファとダイニングテーブル、そしてテーブルのデザインに合わせたアルテックの『ドムスチェア』。設計デザイナーが提案する商品を奥様がチェックし、二人三脚で厳選していきました。植物好きな奥様がセレクトしたインテリアグリーンも、落ち着いた色味の空間にアクセントを添えています。
「中学生のころに映画『かもめ食堂』を見て、ずっと北欧の雰囲気にあこがれていました。劇中にゴールデンベルが出ていて、素敵だなと思っていましたが、実はあれもアアルトの作品だと知ったのは、リノベーションを意識しはじめてからです。今、ゴールデンベルをベッドルームに採用しています。何年か越しにあこがれのインテリアを自宅に取り入れられて、本当にうれしいですね」
高揚感と幸福の日々
この家に住みはじめて5カ月。事前リサーチどおりマンションは管理が行き届いており、共用部も常に清潔で、安心して過ごせているそうです。
「本当に自分好みの空間や、自分たちに合った間取りや動線って、どうしても賃貸では叶いにくいですよね。だからこそリノベーションして本当に良かったと毎日思いますし、自分たちの思いがこもった理想の空間なので、ただ家にいるだけですごく満足感があります。ここには何を飾ろうか、次は誰を呼ぼうか、この先のことを考えて毎日ワクワクしていますね。『みんな見て!私のつくったお部屋だよ!』って、自慢したい気分です(笑)」
お気に入りのキッチンでは、ご主人の大好物である肉じゃがや豚汁をよくつくるのだとか。奥様が主導権を握るリノベーションでしたが、隣で微笑むご主人にもその恩恵はたっぷりあるそう。
「職場が近くなったぶん、家族でゆったり過ごせるようになりました。WICは数あるデニムを格好よく陳列できるようにしてくれましたし、私の背丈に合わせて設計してくれたので、使い勝手も抜群です。靴棚もコレクションしているコンバースのサイズに合わせてくれたので、玄関まわりも常にスッキリです」
この家にずっと住みつづけるつもりのSさんにとって、今回のリノベーションと家具選びは一生に一度の体験。本当に好きなものや大切にしたい価値観をすべて詰め込んだ家づくりは、何より素晴らしい体験だったと言います。
「朝起きたとき幸せを感じますね。白いタイルに日光が反射して、ふわっと明るくて。休日なんて特に幸せで、日中もほとんど家にいます。家族で美味しいものを食べたりして、本当にたのしいですよ」
アアルト邸の美しさと家族の暮らしやすさが融合した、唯一無二の空間。予想以上に充実したSさんの暮らしは、まだはじまったばかりです。
Interviewer & text 安藤小百合