
均整のとれたモールディングが美しい、ヨーロッパのホテルのような空間。隅々まで“ワタシ色”で彩られた新たな住まいには、余白と思慮を楽しむ時間が流れていました。
ワタシの城
新宿区に立つ、築17年の高層マンション。この一室に住むAさんは、ライフステージの変化に伴いこの家で一人暮らしを始めました。もともとリフォーム済物件として販売されていましたが、余生をとことん楽しむために、さらにリノベーションをすることを決意。「まわりからは『このまま住めばいいんじゃない?』と言われましたが(笑)。終の棲家にする予定なので、使える既存は活かしつつ、とことん自分好みの空間にしたいと思って」と、Aさんは振り返ります。
物件探しでは、一気に数十軒内見したと言うAさん。このマンションの決め手は、どこへでもアクセスしやすい立地・治安の良さ・地盤の強さ・大手デベロッパー監修で今後も安心なこと。また、困ったときに助けてくれる友人が近隣に住んでいること、ゴミ捨てが24時間できることなどの便利さも大きな要素だったと言います。
物件選びと並行してリノベーション会社選びも行い、計2社に相談。nuリノベーション(以下、nu)の決め手は、社歴が長く実績も豊富だったこと、今後も永続的にお付き合いできる確信があったことだと言います。
「nuは私からすると息子くらいの年齢のスタッフが多い印象だったから、若い人の新たな視点を得られると思ったの」と、Aさん。最初に担当したアドバイザーの印象は「正直な人」で、購入したこの部屋を一緒に内見した際、その場でいくつか図面を引いてアイデアを見せてくれたことにも感動したのだとか。nuオフィスでの打合せ中は、カフェさながらに豊富なドリンクメニューに感動し、バラエティ豊かなコーヒーを楽しめたこと、レストルームのデザインが未来的で面白かったことが記憶に新しいと言います。
こうして、納得いく物件選びとリノベーション会社選びに成功し、いよいよ設計打合せが始まりました。
人生観を投影する
学生時代に2年間ほどイギリスのロンドンに留学していたというAさん。当時住んでいたアパートの雰囲気が好きだったこと、年齢を重ねた今は北欧のスローライフにも惹かれていることから、新たな住まいには両者の要素を望んでいました。
また、仕事柄貴重な美術品や綺麗なものに触れる機会が多いため、プライベートでも美意識を磨ける暮らしをしたいと考えていたと言います。
「美術品の鑑定自体はプロがしますけど、私も個体差を見極められる眼は持っていたいと思って。それと、日々の生活に追われるのではなく、余裕を持って生活している自分でありたいし、まわりからもそう見られる自分でありたいなと」と、Aさん。そんな希望を聞いたデザイナーは、細部まで丁寧につくり込んだ、暮らしの質が上がるような空間を設計。Aさんから共有された海外ホテルやインテリアのイメージを参考にしながら、Aさん熱望のモールディングがアイコンとなる内装をデザインしていきました。
間取りは「居間+2洋室」からワンルームに変更し、総面積61.90㎡をダイナミックに活用。購入時に新調されていたフローリングや壁紙、そして設備(キッチン・浴室・洗面・トイレ)は既存を活かしつつ、LDKや寝室を刷新。暖色寄りのグレーを基調に、上質なぬくもりのある生活空間を実現しました。
壁付けだったキッチンは、設備はそのままに対面型に移設し、料理中も窓の外の景色を楽しめるように。コンロはガスからIHへ変更し、安全性と清掃性をアップデートしました。また、LDから冷蔵庫が見えないように、対面キッチンの端に目隠し壁を新設。それによりリビング側に生まれたデッドスペースにインテリア性もある扇形状の収納を造作し、内部にコンセントを忍ばせて、ロボット掃除機の充電ステーションとして使えるようにしました。
ダイニングエリアにはモールディングが見事な洋風の壁面本棚を造作し、まさにヨーロッパのホテルのような雰囲気に。リビングエリアには壁一面の扉付き収納を造作し、洋服などの手持ち品をすべて収納できるクローゼットとして機能させました。
寝室はLD内にパーテーションを造作して空間を緩やかに仕切り、窓辺に2.8畳のスペースを配置。ベッドは目線が窓に向かい合うように配置して、高層階からの青空と夜景を独り占めできるようにしました。
デザイナーが全体の設計を通じて最もこだわったのは、モールディングの全てのモールの高さと幅を統一したこと。キッチン、本棚、寝室に施したモールディング…。LDK内のラインが揃うことで、丁寧につくり込んだ豊かさと端正さを感じられます。
こうして、物件のポテンシャルを十二分に活用した理想どおりの空間が誕生しました。
余白に宿るもの
Aさんがこの家に住んで5カ月。照度を抑えた落ち着いた雰囲気が、本物の上質さを感じさせています。
「友達は『高級ホテルに来たみたい』と言います。以前の暮らしは常に慌ただしくて座る暇なんてなかったけど、この家ではゆったり一人の時間が持てている。すごく大きな変化です」と、Aさん。今も平日はフル出勤で多忙な日々ですが、帰宅後や休日はプロジェクターを下ろしてゆったりニュースや映画を見ているそうです。
家具は、nuのインテリアスタイリングサービス<decoる>を活用して一新。ニュアンスカラーが基調の空間なので、引き締め効果を狙って、コードやスタンドが黒の照明をセレクト。最初にダイニングのペンダントライトにASTEPを選び、そこから展開する形で、フロアライトとベッドルームのブラケットにNUURAの商品を選んでいったそう。
また、ダイニングテーブルとダイニングチェアは、高級感たっぷりなNATADORAのもの。テーブルは、大理石のトラバーチン材の天板に、優しいフォルムのオーク材の脚が特徴です。可愛らしいソファはBoConceptのもの。その他にも、要所に黒基調の置物を配して、空間を適度に引き締めています。
幸せを感じる瞬間は、音楽をかけながらダイニングテーブルで本を読んだり考えごとをしたりしているとき。そんな瞬間を積み重ねるうちに、内面にも嬉しい変化が起きたのだとか。
「以前は自分がどういう人間かなんて考える時間は無かったけど、この家に住みだしてからは、そういうことに思いを巡らせるようになりました。最近は、これからどういう風に生きていきたいかを考えるようにもなって、常に余白を持ちつつ、その余白を埋めながら生きていきたいなと。だから、この本棚も意識的に余白をつくっているんです。ビシッと本が埋まっていると、気分もがんじがらめになるでしょう? この家は一人にしては広いけど、そういうことに気付かせてくれる空間ですね。何と言うか、色んなことに対して寛容になりました(笑)」と、笑うAさん。人生が終わる日に「ああ楽しかった」と思えることが理想なので、そのために今から心地よい時間を長く持ちたいと言います。
…リノベーションは、理想の生き方を先取りして体現する手段でもある。Aさんとこの空間が、そのことを教えてくれました。
Interview & text 安藤小百合