名作チェアコレクションのための専用シェルフを造作した、“飾る”を突き詰めたLDK。意匠性と機能性を両立させた理想の自邸は、10年以上積もった思いが生み出した熱量の高い空間でした。
ずっとの憧れ
「もう10年以上前ですね、リノベーションをしたいと思い始めたのは。ミーハーなので、雑誌の『Casa BRUTUS』とか『relife+』を見て、コンクリートむき出しとかいいなって」。
そう話すのは、U邸のご主人。板橋区内の緑豊かな大型集合住宅の一室をフルリノベーションし、ご夫婦、7歳と2歳の息子さんの家族4人でお住まいです。
長男を妊娠したときに新築も内見していたそうですが、希望の広さと予算が一致しなかったことや動線に納得できなかったこと、内装が手持ちのインテリアに合わなかったことで、新築は却下に。早速リノベーションに向けて動き出そうとしたものの、スケジュールが出産に間に合わないことに気付き、一旦奥様の職場がある板橋区内の賃貸住宅に住むことにしたといいます。
雰囲気が良く、買い物にも便利なこの街を気に入っていたUさんご夫婦。時を経て奥様は次男の育休中のある日、以前から気になっていたこの集合住宅を散歩がてら見に来たところ、自然の豊かさに驚いたそうです。学校や保育園も近くにあるし、敷地内にプールもある。子どもたちにも良い環境で、好印象を抱いたそうです。
「調べてみたら、約84m²の空室があって喜んでいたのですが、築年数が44年、つまり旧耐震という点が気になりました。ヒビが入りやすいんじゃないかとか、住宅ローン控除が使えないんじゃないかとか…」と、ご夫婦。しかし、一緒に内見したnuリノベーション(以下nu)のアドバイザーから耐震壁の存在を説明され、さらにこの部屋でできるプランのイメージを紹介してもらい不安が解消。また、修繕積み立て金の状況や施設管理がしっかりしていることも安心材料になったそう。角度によっては富士山も見えるほどの眺望、風の通り抜けの良さもあり、納得して購入に踏み切りました。
「リノベーション会社選びは、nuさん一択でした。長年リノベーション関連の雑誌を見てきた中で、nuさんなら自分たちの思いを形にしていただけるかなって。当時は何も分かっていなかったので、物件選びから一貫してサポートしてくれるところも決め手でした」と、ご夫婦。手元には、2010年代発行のrelife+を広げています。 内見のときにアドバイザーが『床をちょっと上げると綺麗に揃いますよ』、『ここはこうしたらいいですね』など、自分たちの価値観を理解しながらイメージを沸かせてくれたのも良かったのだとか。
こうして、積年の思いが実現するときがやってきました。
21脚の名作チェア
大学のプロダクト科で出会ったUさんご夫婦は、共に生粋の名作チェア好き。とりわけご主人は、高校時代に雑誌『Hot-Dog PRESS』のイームズ特集号を見てから、すっかり人の家を見るのが好きになったそうです。 実際に見せてくださったのが、大切に保管された2002年発行の同誌。美術デザイン科に通っていた高校時代は、この雑誌に載っているチェアを模写していたといいます。その後、大学の入学祝いで念願のイームズチェアを買ってもらったのを皮切りに、現在に至るまで21脚もの名作チェアを集めてきました。
そんなUさんが希望したのは、“名作チェアを並べる暮らし”。<ザ・コンランショップ>や、2000年代にキャットストリート沿いにあったインテリアショップ<hhstyle(エイチエイチスタイル)>のように、チェアをラックにずらっと並べて愛でる暮らしを夢見ていました。
設計デザイナーは“椅子と灯り”というコンセプトをUさんへ贈り、大好きな椅子と灯りでつくり上げていく空間をイメージ。リビングの一画には名作チェア専用シェルフの造作を計画し、そこに飾り切れないチェアは随所に置いて愉しむショップのようなスタイルを提案しました。
インテリアが映えるように、また奥様いわく「ザ・リノベーション感を味わうため」に、天井はコンクリートの躯体を現し、床は専用シェルフの部分だけタイルを敷いてゾーニング。ラフさがありながらも、随所にあしらったブラックが空間を引き締めています。
一方、奥様がこだわったのは収納と家事動線です。「主人と相反するようですが(笑)、私は飾るものは飾って仕舞うものは仕舞う、そのメリハリが欲しかったですね」と、奥様。LDKには大容量収納システムハラーを置き、家中の収納ボックスは<D&DEPARTMENT>で購入したサンボックスで統一感を出しました。
家事動線は、買い物から帰ってきたら玄関から冷蔵庫とパントリーに直行できる動線に。洗面所には衣類を干せるバーを設置し、浴室乾燥機も付けたことで、“洗う〜乾かす”が洗面・浴室エリアで完結するようになりました。乾いたら、そのまますぐ横の大型WICに収納可能。WICはハンギング収納にしたことで、衣類を畳む手間も軽減されました。
また、洗面台は無機質なLDKと対照的に温かみのある木材で天板を造作し、使うたびにホッとする空間に仕上げました。
奥様の滞在時間が長いキッチンも、こだわったポイント。設計打合せ中にたまたま訪れたスターバックスコーヒーのカウンターのリブパネルを気に入り、設計デザイナーに伝えたところ、黒に塗装したリブパネルをキッチンの腰壁にあしらうことを提案してくれたそうです。マニッシュな印象で存在感も抜群、リビングの雰囲気にもマッチしています。
その他、お気に入りのインテリアは、<Vitra>のEMターブル、スタンダードチェア、結婚当初から使っている<カリモク>のソファ、今回購入した<Taguchiスピーカー>。個性的なデザインの<AKARI>は20年程前から持っていて、今回障子の部分だけ新調したといいます。
こうして、すみずみまでこだわり抜いた空間が誕生しました。
飾る楽しみはじまる
まだ半年程しか住んでいないのに、すっかりこの家を飾りこなし、住みこなしているUさん。積年の思いがあっただけに、感慨もひとしおのようです。
「もう、最高にインテリアを愉しめています。子どもが生まれてからは妥協の連続で、自分たちの趣味の良さが無くなってきて、せっかく集めたチェアたちも隅に追いやられていって…。これが普通の生活なのか、こういう生活で人生終わるのかと、全然イキイキしていませんでした。今はガラリと変わって、次はここに何を置こうかなとか、一つひとつ集めて飾る愉しさがあって、最高にワクワクしています」と、満足気なご主人。お子さんもディスプレイ用のものを工作してくれるそうで、家族みんなで飾る楽しさを味わっているようです。
また、リノベーションの恩恵で特筆すべきは、家事の時短化です。計画的な家事動線、食洗機の導入、適材適所の収納で、なんと賃貸時代の約半分に時短できたのだとか。
「その分子どもたちと遊ぶ時間が増えたり、自分の時間が持てたりして、心にもゆとりができました。イライラすることが圧倒的に減ったし、綺麗に片付いた部屋を見ると気分がいいし、子どもたちもこの家が大好きと言っているので、リノベーションして本当に良かったです」と、奥様は微笑みます。
そして最後に、「nuのスタッフの皆さんはアットホームな雰囲気で、親身に悩みを聞いて解決策を練ってくれました。私たちは理想が高すぎて、全部やったら数千万円になっちゃうけど、予算の都合で妥協しなきゃいけないことに対しても、妥協に見えないような代替案を出してくれましたね」と、ご主人。さらに奥様も、「オフィスでの打合せ中、子どもたちの面倒をスタッフの皆さんがずっと見ていてくれて。おかげで打合せに集中できて、本当にありがたかったです」と、振り返ります。
こうして、実質十数年続いたUさんのリノベーションストーリーは、大満足の形で完結しました。「実現するのに年月が掛かってしまったけど、色んなリノベーション事例やインテリアの情報を蓄積してきた今がベストタイミングだったと思います。まあ、だいぶ先までローンはあるけど(笑)、ここまで理想が叶った家に住めていますからね」、そう笑うご主人。「思い続けていれば、夢は叶うもんですね」と、奥様が締めくくります。
にぎやかなUさんご家族を眺めながら、名作チェアたちも満足気。飾る愉しみはこれからも終わることがありません。
Interview & text 安藤小百合