海外のホテルを思わせる、グレージュで包み込まれた約50m²のワンルームとアイコニックな造作洗面台。一見シンプルなデザインの随所に織り込まれた、『わたし』だけのこだわりを追求した設えとは。
変わった家が好き
利便性抜群の新宿区某所に佇む、とあるマンションの一室をリノベーションして暮らすMさん。それまでは近隣エリアの賃貸マンションで暮らしていましたが、兼ねてから「家賃がもったいない」という思いを抱いていたんだとか。
「実は私、引越しは今回で10回目なんです(笑)。中には物件を購入して住んでいたこともありましたが、色々とタイミングが重なって転居することになってしまって。その後また賃貸に入居しましたが、資産形成の面からもやっぱり家を持とうと思って」。そんな思いから、住み慣れていて肌にも合っているこのエリアに限定して物件探しをすることを決めたといいます。リビングの上が吹き抜けになったメゾネットやデザイナーズマンションなど、それまで住んでいた賃貸も特徴的なデザインの空間だったというMさんは、「新築の真っ白な感じは目がチカチカしてしまうし、もともとある間取りやデザインでは好みの空間はなさそうだと思って、『だったら中古マンションをリノベーションすればいいんだ』という結論に至りました。そう決めてからは、リノベ前提で物件探しを依頼できる会社を探しました」。
その後2社のリノベ会社の話を聞き、アドバイザーの経験値や落ち着いた雰囲気に安心感を感じたnuリノベーション(以下、nu)に、物件探しからワンストップで依頼することを決定。物件探しの必須条件は、低層フロアで眺望が開けていること、そして、リノベーションで1ROOMに近い間取りが実現できることでした。
「エレベーターが苦手なので階段で登れる範囲の階層がよくて、でも眺望は開けてて欲しいし…。アドバイザーさんには無理を言ってしまいました(笑)」と楽しそうに当時を振り返ります。
10件ほどの内見を経て最終的に購入を決断したのは、大通りに面した築20年超の中古マンション。隣接する建物の形状から、低層階のMさん宅からも青く抜けた空が望める、条件にぴったりの物件でした。
「引越しは何度も経験したけど、リノベ前提の購入は初めて。そんな私だからこそ、物件探しのパートナーはリノベの知識も不可欠でした。リノベの向き不向きはもちろん、総戸数が100戸くらいで管理体制が良かったりバルコニーが広かったりと、総合的な価値も含めていい物件と出会えました」とMさん。
シンプルの中の「らしさ」
設計デザイナーがMさんに提案した家づくりのコンセプトは『mine』。当初から希望していた1ROOMプランにMさんならではのこだわりの仕掛けを散りばめた、“わたし専用”のプライベートホテルのような空間を目指しました。グレージュで統一されたシンプルな室内は、壁と天井に光が溶け込み、なんとも言えない居心地の良さ。全体が重くなりすぎないよう明るめに設定したオークフローリングが、クールな空気感をバランスよく中和しています。どのようにこのデザインにたどり着いたのかを尋ねると、「実は、ほとんどが設計デザイナーさんの提案がベースになっているんです」とMさん。というのも、初回ヒアリングの際にプランニングの要となるポイントを伝え、そこから先は設計デザイナーの提案するプランや素材に対して、「これにする」「それでいきましょう!」と、Mさんが最終ジャッジをするスタイルで打合せが進んで行ったそう。
「多分、ここまでお任せなのはnuさんではなかなか見ないタイプのお客さんだったと思います(笑)。でも私は空間づくりは素人だから、プロ目線の提案をベースに自分好みの空間をつくり上げていくのはとてもやりやすかったし、こうしてよかったと今も思います」とMさん。バックカウンターと一体的に造作したダイニングテーブルがその最たるもので、当初の設計デザイナーの提案は隣り合うモールテックスの壁とラインを揃えた長方形のテーブルを造作するプラン。リビングがすっきり広く取れることは魅力的だったものの、「来客をイメージすると、もう少し広さが必要かも」というMさんの意見から、壁から30cmほどはみ出した、今の形へと変化していったんだとか。また、リビングの造り付けカウンターは以前住んでいた賃貸で出会ったデザインで、テレビボード不要のこの設えが使いやすかったというMさんの実体験からリクエスト。カウンター下にはポストのように上部に穴が空いた箱が造り付けられていて、実はWi-Fi用の収納になっています。「Wi-Fiって今や生活に不可欠な設備なのに、専用の場所がないので配線がすっきりしなくて。『こういうのがあったら良いな』と思っていたものをカタチにしてもらいました。家の中心にレイアウトしていただいたので、どこにいても電波が拾いやすいし、これは絶対おすすめですよ!(笑)」と嬉しそうな表情。
もう一つ、M邸のすっきりとしたインテリアの鍵となっているのは、ベッドスペースの壁に沿ってレイアウトした大容量のクローゼット。壁とトーンを揃えたグレーの折戸が3セット並んでいますが、扉を開けると内部はそれぞれ仕様の異なる収納が組まれています。
「WICはつくらず、服も本も日用品もここにしまう想定だったので、ものに合わせて可動棚やハンガーパイプを組み合わせてもらいました。掃除機をしまうところにはコンセントもつけていただいて」と使い勝手も申し分ない様子。さらに、中央の収納スペースにはもともと持っていたタンスを置く予定だったことから、折戸を開けた状態でスムーズに引き出しが開閉できるよう、寸法が細かく調整されています。また、収納内部の壁はネイビーの塗装仕上げ。グレージュで統一されたM邸からは予想外のこの色は「どこかに取り入れたい」とリクエストされていたMさんの好きな色で、収納を開けたときに垣間見えるこの位置にアクセントとして取り入れました。
「タンス以外に、ソファやベッドなども、もともと持っていた『ACME Furniture』さんの家具を使いたいと伝えていました。なので、モールテックス壁の前にソファがピッタリ納まって気持ちがいいですね。寝室とLDKは一応仕切れるように天井にロールスクリーンを埋め込んでもらいましたが、ベッドもお気に入りのデザインなのでほとんど下ろしたことないです」。お仕事が忙しく、休日も趣味のゴルフに出かけることが多いというMさんですが、この家で過ごす時間は心が落ち着くと幸せそうな表情。日本の住宅ではなかなかないこの開放感は、心も体もリセットしてくれる、まさにホテルのスイートルームのような空間です。
予想外の光景
「変な家でしょ?(笑)」と、取材中に何度も冗談混じりで口にするMさん。リノベーション後はご友人が遊びにくることもあるといい、マンションの外観とM邸のデザインとのギャップに驚かれることも多いんだとか。
「家に入って一番最初に見えるのが、この洗面台と天井から吊り下がった鏡でしょ?あまりに予想外だからか、友人とか、配達員さんも一瞬『?』って表情をされたりして(笑)」。たしかに、自分が配達員でもびっくりしてしまうだろうなと思いながら、ゲストの驚きの表情とそれを楽しそうに迎えるMさんの光景を想像すると、なんだかこちらまで嬉しくなってしまいます。
「入居して半年以上経ったけど、インテリアも最小限だから竣工時とあまり変わり映えがなくて…」と控えめに微笑むその横顔からも、この唯一無二の空間への愛着がひしひしと感じられます。リビングのカウンターに、これからはグリーンを飾ったりもしてみたいと話すMさん。ゆっくりと変化していくM邸のこれからが楽しみです。