有機質と無機質が程よくミックスされた居心地のいい「ナカ」と、たっぷりの陽が差し込む見晴らしのいい「ソト」。かけがえのない2つの要素を大切にしながらつくりあげた、懐かしさを纏ったK邸を訪ねました。
とっておきの「ソト」
千葉県柏市。賑やかさと自然豊かな住環境が共存するこの街に、Kさんがリノベーションをして暮らすお宅があります。
Kさん一家はご夫婦と、元気いっぱいの息子さん(4歳)の3人家族。それまでは柏市内の賃貸アパートに住んでいましたが、お子様の成長とともに周囲への音を気にする場面が増えていったといいます。
「以前は40㎡台・1LDKの賃貸に住んでいたんですが、子供が家の中を走り回ってしまったりとご近所への音を気にすることが多くなって。保育園を変えずに済む範囲で、家族がもっと自由に過ごせる家を探そうと考えたのがきっかけでした」とご主人。
当初は戸建や新築マンションなど選択肢を広く持って検討していましたが、駅からの距離、そして以前から自分たち好みにデザインされた空間で暮らしたいと考えていた思いも後押しとなり、中古マンション+リノベーションにたどり着きました。
物件探しの条件は、日当たりがいいことが最優先。というのも、ご主人は以前住まわれていた都内の賃貸で日当たりの悪い物件を選んでしまった苦い経験があるそうで「内見をした際は明るかったんですが、時間によっては日中でも室内がとても暗かったんです。それまでは日当たりって当たり前だと思ってあまり意識していませんでしたが、その経験で日当たりがいいことのありがたみを再認識しました(笑)」。
最終的に購入したのは南向きの窓からたっぷりと陽が差し込む56㎡の物件で、上層階であることから遠くまで視界が抜けていて眺望も抜群。「周辺のマンションの中でも一番南側に建っているので、窓からの景色でこの家より背の高い建物が一つもないんです。内見時もとても気持ちが良くて、購入の決め手になりました」とにっこり。バス通りが見渡せるダイニング横の窓辺は息子さんのお気に入りスポットだそうで、「引っ越してきた当初はずっと窓に齧り付いて車やバスを眺めていました。この家に来て、車好きも加速したような気がします(笑)」と可愛らしいエピソードも教えてくださいました。
愛すべき「ナカ」
早速始まった設計デザインミーティング。ご要望のヒアリングを通じてKさんの思いを受け取った設計デザイナーが提案した家づくりのコンセプトは『ナカソト』でした。ご家族のライフスタイルや好みに合わせてデザインされた「ナカ」と、とっておきの「ソト」の景色がつながり、家族の心もつながる…。そんな、この家でしかできない特別な空間をつくりたいという思いが込められています。
そのためにK夫妻がまず超えなくてはならなかったハードルは、お二人の好きなテイストが真逆だということ。「ピンタレストでお互いに好きなイメージを集めたんですが、真逆で(笑)」。「妻は無機質な空間が好きで、私は温かみがあってちょっと懐かしいような空間が好きなので…」と顔を見合わせて笑うお二人。それでも、集めたイメージの中から共通している要素を少しずつ抽出してデザインの落とし所をみつけ、素材や色使いを決めていったといいます。
「デザイナーさんには“お洒落なおじいちゃん家”というワードでイメージを伝えました(笑)。チーク系の赤みがある木とシンプルな白を掛け合わせて、そこに北欧家具を置いていく。洗練されてるけど、ほっと落ち着く空間にしたいと思って」とご主人。
床に採用した無垢チークのパーケットフローリングは、様々なサンプルを見た上でご主人が絶対使いたい!と考えていたという素材で、リビングや廊下、個室も全て同じ床材で統一されています。「比較的コンパクトな物件なので、気に入った素材を全面に敷いても予算を大きく圧迫しなかったのはメリットでした」。
一方で、トイレ前の廊下の一部は玄関床と同じグレーの磁器質タイルで仕上げられており、間取りの都合上これ以上広くできなかった玄関を視覚的に広く見せる工夫が忍ばされています。「限られた面積の中でLDKをできるだけ広く取りたかったので、そのほかのスペースは最小限にしました。どこまで寸法を攻めていいのかは図面だとイメージが湧きづらくて、結構時間をかけて悩みました」と打合せを振り返ります。
廊下の天井に設置したハンギングシェルフも省スペースを攻略するためのアイデアの一つで、以前ネットで見かけたお宅のルームツアー動画で紹介されていたデザインを取り入れたといいます。「ガムテープや乾電池など『滅多に使わないけど、たまに必要になるもの』の収納場所として重宝しています」と奥様。綿密に練られた収納計画のおかげで必要なものが必要な場所に収まっているK邸では、お気に入りの床の上に佇む北欧家具たちの姿もよりスッキリと引き立ちます。
LDKの中で静かに存在感を放つ壁付けキッチンは幅3.7m。隣接するパントリーは冷蔵庫やストック品をたっぷり収納できるほど大容量で、背面のバックカウンターと一体的に造作しました。
実はここは奥様の希望が全面的に反映された空間だといい、「LDKのレイアウトを検討するときに、主人が『キッチンとダイニングが中心になるような家にしよう』といってくれて。私はもともとお料理や器集めが好きだったので、とても嬉しかったです。色も、ここは私の好みに合わせて真っ白。おかげでお気に入りの器がきれいに映えます」と幸せそうな表情。キッチンの壁には造り付けの飾り棚を一枚通し、奥様の好きな作家・照井壮さんの器や、以前陶器市で購入したというフランスのヴィンテージグラスを並べています。
家の中に使われている木の色は漏れなくチーク色のK邸。「天井は躯体現しにしているんですが、窓辺には断熱材が入っていたので木を貼ることにしたんです。壁か天井のどこかに木を貼りたかったので、ちょうどいいなと。どの素材を、どの範囲で貼るかはすごく悩んで(笑)。いろんなパターンのイメージパースをつくっていただいて一番しっくりくる納まりを探しました」。
窓辺からリビングに向かってL字に誂えた木の下がり天井と、窓辺からキッチンに向かってL字に敷き詰めたグレーのタイル床。ご主人と奥様の好みのテイストが融合し個性的にデザインされたLDKは、確かに何処となく“おじいちゃん家にある縁側”を彷彿とさせ、思わずそこにずっと留まっていたくなるような心地よさを醸し出しています。
幸せな朝ごはん
入居して約1年半。半年ほど前に模様替えをして、それまでワークスペースとして使っていた窓辺のインナーテラスに、今はダイニングテーブルを置いているK邸。
「計画時はワークスペースとして使う予定だったんですが、過ごしてみると本当に気持ちがいいので、折角ならダイニングとして家族みんなで過ごすスペースにしたいなと思って。代わりにリビングのストリングシェルフにデスクパーツを追加するなどして、ワークスペースを確保しています」とご主人。
「朝起きて、外を眺めながら家族で朝食をとる。とても普通なことですが、この家に来てからはその時間がとっても幸せなんです。入居した当初はダイニングやキッチンの床も全部フローリングにすればよかったかな?と思ったこともありましたが、ここにダイニングを置いてみると息子の食べこぼしも気にならなくて、大正解だった!と確信しました(笑)」と奥様も朗らかに続けます。
好奇心旺盛な息子さんは、取材中も撮影用のカメラに興味津々。ご主人がコーヒーを淹れ始めると、踏み台を持ってきて一生懸命覗き込みます。「この子がもっと大きくなったら、家の中の様子もまた変化していくと思います。色々試行錯誤しながら、この家での暮らしを楽しんでいきたいですね」とやさしく微笑むお二人。
ご夫婦の好きなものが溶け合ったK邸。見晴らしのいい「ソト」の景色に見守られながら、家族の幸せな時間がじっくりと色を深めていきます。