蚤の市で揃えたというペンダントライトが柔らかく照らす、ヴィンテージライクなお部屋。壁や床の素材とインテリアが絶妙に馴染み合う、家族4人のおうちを取材しました。
惹きつけられた外観
4才と6才の息子さんを持つ4人家族のYさん一家は、リノベーションしたこのお部屋に1年ほど前から暮らしています。物件を購入する前は2つ隣の駅に住んでいたご家族。「職場へのアクセスはもちろん、人がいい気がします。子育てしているおうちも多くて。」そう話す奥様の笑顔を見ただけで、このエリアの住み心地の良さが伺えます。「前から家を買うならリノベーションかなと思っていて。新築だと好みのものが無いし、リノベーション済みマンションというのも、せっかくなのにと思ってしまって。」と奥様。物件の購入を考え始めたタイミングで第一候補として挙がったのが、今住んでいるこのマンションでした。「もともと外観がすごくいいなと思っていて。気に入っているこのエリアで、この外観というのに惹かれて仲介会社に連絡したんです。」とご主人。ベランダ開口部のアールがレトロで魅力的なこの物件。問合せしたタイミングでは空きがなかったものの、たまたますぐに売却の手が上がり購入に至ったんだそう。「このマンションは世代交代も進んでいて、若い人や小さな子供のいる家族も多く住んでいるんです。しかもリノベーションしているお部屋も多くて。」とご主人。建物自体のなんとも言えないヴィンテージ感に、リノベーションを考える人々が自然と集まってくるのでしょうか。
物件の購入が決まりいよいよリノベ会社探しをスタートさせたお2人。リノベーションの雑誌『relife』で特別惹かれる事例を見つけ、クレジットに書かれたnuリノベーションに問合せをしました。「他にも何社か相談に行ったのですが、やりたいことを伝えると『難しい』と言われてしまうことが多くて。nuさんは『なんとか考えます!』と一度話を聞いてくれたのが、他の会社と全く違うところでした。」と奥様。そしてnuと一緒にリノベすることに決めたお2人。雑誌で見た事例のデザイナーが、Y邸を担当することになりました。
「わがまま言い放題でした。」
とにかくオープンな空間にしたいという奥様の希望から、間取りは仕切る壁のほとんどない1LDKに。シンプルで大胆な間取りですが、隅々のディテールには夫婦2人のこだわりが詰め込まれています。好きなものや空間が共通しているという2人は、具体的なアイデアをいくつもデザイナーに伝えました。「わがまま言い放題でした。」と笑うお2人。担当したデザイナーも、持ち込まれるアイデアがいつも面白かったと話します。キッチンの壁と土間のシェルフにDIYで取り付けられた2つの大きな有孔ボード。ご主人が「それ、土間で作業して取り付けました。土間が広いので作業するにも便利です。」と教えてくれました。部屋の横幅いっぱいに取った玄関から、1段の段差を介して続く土間は7.9帖もの広さがあります。フリースペースとも言えるこの場所は、黒のモールテックスで仕上げました。「ブラックのモールテックスって他で採用したことがなくて。すごくかっこいいです。」とデザイナー。モルタルとも少し違う、モールテックスのほんのり艶のある風合いは、塗装のムラ感が強調されインダストリアルな雰囲気を演出します。「マンションの玄関ってだいたい狭くて不便だと感じていたので、土間を作ることはメインの要望でした。」とご主人。思う存分DIYに打ち込めるだけでなく、普段は2人の息子さんがここでのびのび遊んでいると言います。土間に配置した洗面はご主人のお気に入りのポイント。特筆すべきは、むき出しになった銅の給水管です。「住み始めてから時間が経っていい感じに青サビが出てきて、この状態もかなりお気に入りです。」とご主人。この配管現しは、デザイナーから提案されたアイデアでした。「僕たちが好きそうっていうことで提案してもらって。僕としても『そんなことできるのかな?』って感じだったんですが(笑)施工のスタッフさんが頑張って形にしてくれました。」とご主人。ヴィンテージインテリアと馴染むブロンズの配管は、独特の輝きを見せています。
奥様の一番のお気に入りはキッチン。「ここは私だけが入る場所なので、完全に私の好きなようにやっています(笑)」。味のある素材で構成された空間にしっくりと馴染む、使い込まれたキッチンツール。その様子から、奥様のこの場所への愛情をひしひしと感じます。このキッチンの主役は冷蔵庫。「業務用の冷蔵庫なんですが、決める前はすごく悩んで。デザイナーさんが音や管理について沢山調べてくれて、わざわざお店に聞きに行ってくださったりもしたんですよね。」悩んだ挙句に決断した業務用冷蔵庫。シンクやコンロの高さを冷蔵庫に合わせて面を揃えることで、統一感を持たせています。
そしてお2人が最後まで悩みに悩んだというのが、ベッドスペースとリビングを隔てる壁に取り付けた内窓について。広い土間と並んでマストな要望だったのが、部屋の中に窓を設けることでした。窓の向こうは家族4人のベッドスペースになっています。「僕は帰りが遅いのでいつも2人が寝た後に帰ってくるんですが、窓越しに寝顔を覗くときに幸せを感じます。」とご主人。あまりに素敵なエピソードに感動していると、「今の、すごくいい話ですね!」と自画自賛するご主人(笑)寝室側の窓枠は飾り棚のようになっていて、まるでウィンドウディスプレイのようにグリーンが飾られています。
家族が変わる、家も変わる
ひとつひとつが個性的で、それでいて不思議な統一感のあるY邸のインテリア。設計期間中にヴィンテージショップや蚤の市で揃えたと言います。特に気になったのがライティングレールに連なるペンダントライトの数々。楽器のパーツやキャンドルホルダーなど、ヴィンテージの部品をリメイクして作られた、古賀秀幸さんという作家さんの作品です。ランプを見たデザイナーが「これ可愛いですね!」と声をかけると「いつ突っ込んでくれるんだろうって思ってましたよ!」とご主人。その会話に、Y夫妻とデザイナーとの関係性が垣間見えたようでした。担当デザイナーについてご主人は「僕たちが言った希望を『それいいですね!』とリアクションをくれるのはすごく嬉しかったです。感性が合うというか、リノベーションする価値を感じました。」と話します。言葉になりきらないイメージも、担当デザイナーとだから共有できたことが多かったんだそう。「設計期間は長かったんですが、大変だと思うことはなかったです。それよりも僕たち福岡出身なので、打合せの帰りにnuさんの近くにあるラーメンを食べに行くのが楽しみで(笑)」とご主人。理想の空間について考える打合せは、帰り道まで含め、いつも楽しい時間でした。
取材の最後に「こんなにオープンな空間も、今だけしかないと思って。」と話し始めた奥様。今は幼稚園に通う2人のお子様ですが、いずれ大きくなったときには、子供部屋を作る予定なんだそう。個室がひとつもないほぼワンルームな空間は、今だからこそと考えこの間取りにしたと言います。一生住み続けるハコではなく、家族の形に合わせて変化させていく場所として家を捉えるお2人。フレキシブルな考え方からできた空間だからこそ感じられる、風通しの良さがありました。壁がないからこそ家具の配置換えもしやすいと話すY夫妻。『家』をとことん楽しむ、空間への愛情に満ちたお部屋が完成しました。