オフホワイトのタイルを敷き詰めた床に、バーさながらのカウンターキッチンが佇む3人家族の住処。“住宅らしさを排除した住宅”。まさにそんな言葉がぴったりなK邸を取材しました。
建築好きの家づくり
ミッドタウン六本木が徒歩圏内の、重厚感あるヴィンテージマンション。ここに暮らすK一家は、夫婦と娘さんの3人家族です。以前は夫婦2人で社宅に住んでいましたが、奥様の妊娠をきっかけにもっと広い物件への引越しを検討したと言います。「次も賃貸に引越すより、タイミング的にも家を買った方がいいなと思って。あと単純にリノベーションがしたかったというのもありました」と話すのは、建築好きのご主人。昔から建築物を見るのが大好きで、いつかは自由設計で家づくりがしたいと考えていたそう。nuリノベーション(以下、nu)をパートナーに選んだのも、デザインの打合せ回数が無制限で、とことんこだわれそうだという点が大きかったと話します。そんなK夫妻が物件探しで重視したのはエリアでした。「狭くてもいいから都心に住みたいという願望があって。せっかくなら六本木の職場から徒歩圏内の物件にしようと思い、最初は社宅時代に住んでいて馴染みのあった麻布エリアで探してもらいました」とご主人。しかし、中々ピンとくる物件には巡り会えず、赤坂までエリアを広げた所、今のお住まいに出合ったそう。「近隣で5軒ほど内見しましたが、一番管理体制が良かったのがここでした。立地ももちろんですが、ロビーや応接室など隅々まで行き届いた管理体制に納得して、購入に至りました」とご主人。一方奥様は、「近くに保育園や図書館、緑や水の豊かな公園があり、子供を育てやすい環境だと思いました。周辺には美術館が点在しているので、休日は趣味の現代アートを見に行ったりできて楽しいです。それと物件を購入した後に分かったことなんですが、実は祖母が昔住んでいたのがこの近辺だということが判明して。祖母も『ここ知ってるよ!雰囲気のいいマンションよね』と言ってくれたんです。いろんな意味でご縁のある物件だなぁと感じました」と続けます。
「住宅の要素を排除したい」。
リノベーションをする前から、賃貸の床をDIYしたり、デザインが気に入った家具を塗り直したりするなど、自分たちで好きな空間を創り上げることを楽しんできたK夫妻。そんなお二人の家づくりへのイメージは明確なものでした。「デザイン打合せの前に夫婦でやりたいことをリストアップして、リクエストシートのようなものをデザイナーさんに渡しました。特にコンクリートの建築が好きで、モダンで無機質な空間に憧れていたこともあって、“生活感を感じさせない空間”を家づくりのテーマにしました」とご主人。こうして出来上がった2LDKの空間は、まさに“生活感の無さ”が体現されています。空間の印象をつかさどる床には、オフホワイトのPタイルを選択。「住宅の要素を排除したかったので、フローリングではなくタイルを選びました。自分の中でもかなりのチャレンジでしたが、タイルにして大正解です」と笑顔で語るご主人。シームレスのためお掃除ロボットも使いやすく、機能性も抜群なんだとか。そして生活感を感じさせないためのもう一つのこだわりは、徹底した“隠す収納”にあります。「生活感を出したくなかったので、大容量のベンチ収納をリビングに設置しました。本やCD、文房具や薬などを仕舞っているのですが、趣味のものから日用品まで全て隠して収納できるので、無理なく生活感を隠すことができています」と奥様。全長約6mのベンチ収納は、腰をかけるとちょうど良い高さ。寛ぎと収納を一体化させたインテリアを用いることで、限られたスペースを有効的に活用しています。また、音楽が夫婦共通の趣味でギターと電子ピアノを所持しているK夫妻。使用していない時は隠せて、使用する時はすぐに使えるような収納が欲しいとデザイナーにリクエストし、リビングの一角に楽器専用の収納を設けました。「引き戸を開ければピアノがそのまま弾けるので便利です。将来子供にも何か音楽をやってほしいので、私がピアノを弾いたり、主人がギターを弾いたりしておうち時間を楽しんでいます」と奥様。
キッチンのデザインは夫婦で行ったビアバーの内装から着想を得て、一枚板の造作カウンターや調光を埋め込んだ吊り棚を設置。生活感の出やすいキッチンをバーのような装いにすることで、一貫して住宅の要素を排除しました。「料理をしながら子供の勉強が見られるように、キッチンにカウンターを併設してもらいました。天板はデザイナーさんに教えてもらった卸問屋でオーダーしたもので、すごく気に入っています。ここで将来子供が宿題をしたり、今は在宅ワークのデスクとしても活躍中です」と奥様。「僕は家族みんなが寝静まったあと、ここでお酒を楽しんでいます。照明を落とすと、本当にバーで呑んでいるような気分になるくらい居心地がいいです」とご主人が続けます。実はキッチン本体は既存を利用していて、元は真っ赤なシステムキッチンだったそう。表面には大理石調のシートを貼って、腰壁にはフレキシブルボードを採用。当初腰壁はモルタルを検討していたそうですが、経年劣化やコストなどを総合的に判断してフレキシブルボードを選びました。「コンクリートのような無骨な風合いが空間にマッチしていて、とても気に入っています」とご主人。また、キッチンやリビングには大小さまざまなグリーンが飾られています。「まだ子供が小さくて床に大きい鉢植えは置けないので、天井から吊るすタイプのものを楽しんでいます。近所に『SOLSO PARK』があるので、散歩がてらに訪れて買い足しています。やっぱり緑があると癒されますね」とK夫妻。爽やかなグリーンやユニークなラベルのお酒、絵になるアートな写真集…。無機質な空間を彩るハイセンスな小物たちからは、K夫妻らしさが感じ取れます。
リノベで自己実現
Kさん一家がこの家で暮らしはじめて、約9ヶ月が経過。今回のリノベーションを振り返り、「今考えてみると楽しかったなと思いますが、当時は大変の方が勝っていて。僕も妻も“相手にお任せ”っていうタイプじゃないので、デザイン面で折り合いを付けるのが大変でしたね。迷った時は自作したリクエストシートを再確認して、『本当にやりたいことってなんだっけ?』と立ち返って軌道修正していました。でも1回で完璧な家はつくれないと思うので、もし失敗してもまたリノベすればいいやってポジティブな気持ちで臨んでいました」と当時を懐古するご主人。最後におうちの中で特に気に入っているポイントを尋ねると、「洗面所の写真かな」と意外なアンサーが。気になって見させていただくと、額縁に入った一枚の写真が飾られていました。「実はこれ、壁面収納の扉になっていて。普通の収納扉だと殺風景になりそうだったので、写真を飾ることでカモフラージュしました。洗面所にマッチするように“水”にまつわる写真にしたくて、グアムで過去最大級の台風に見舞われた際の写真をセレクトしました。家の守り神的な存在です(笑)」と笑顔で話します。
リノベーションで手に入れたお気に入りの空間の隅々まで、お二人らしく彩られたK邸。生活感を感じさせないクールな空間でありながらも、そこにはK夫妻の我が家への愛情が存分に感じられました。リノベーションでのさらなる自己実現に向けて、住まいをアップデートし続けていくことでしょう。