白いカーテンがふわふわと揺れ、無機質なモルタルの部屋に風が通り抜けることを教えてくれます。
唯一無二の空気感を持つこのお部屋は、学芸大学駅の賑やかな商店街を抜けてすぐの場所にありました。
桜と鉄塔が見える家
この部屋で暮らすのはY 夫婦とフレンチブルの曇天(どんてん)ちゃん。広いリビングを楽しそうに駆け回っていた曇天ちゃんは、スタッフを元気いっぱいに迎えてくれました。Y 夫妻が以前住んでいたマンションは、日当たりがあまり良くありませんでした。朝起きても天気がわからないというその部屋で、ご主人がふと「(暗くて) 洞穴に住んどるみたいやな」と呟いたのをきっかけに日当たりの悪さというポイントを改めて意識した奥様。新しい家を手に入れることを意識した時、リノベーションという選択肢は二人の間で必然的に挙がったんだそう。リノベーションをするにもまずは物件探しから、と考えた二人はリノベーション会社をネットで検索。物件探しからワンストップで依頼できる会社の一覧が載っているサイトを見つけ、好みの事例が多かったnuリノベーションの個別セミナーに参加しました。担当の仲介アドバイザーについて「若いのに知識が豊富で、一つ一つの質問にきちんと答えてくれて信頼できた!」と奥様。その日のうちに希望に近い物件の紹介を受けたんだそう。個別セミナー後、物件探しにあてた時間はわずか1日。内見の当日は雨が降っていたそうですが、それでも前住んでいたマンションよりも明るさがあり、日当たりは十分でした。加えて奥様にとって強い決め手となるポイントがありました。それは窓から見える「桜と鉄塔」。部屋をぐるっと囲むような珍しい形のバルコニーがあるこの部屋は、東の窓からは桜の木が、南の窓から大きな赤白の鉄塔が見えました。「鉄塔は嫌な人は嫌かもしれないけど、私は見た瞬間に『かっこいい!』って思ったんです。」という奥様。条件がここまで揃ってる物件は他にないと感じ、「ここじゃないと絶対後悔するよ!」とご主人を口説き落としたんだそう。
7cmがつくる“生活の高さ”
以前まで不動産関係の広告代理店で働いていた奥様。お仕事の関係で物件の情報を多く目にする中で、「これはいいな」というポイントと生活の中での小さな不満を照らし合わせた「家づくりメモ」を作成していたんだそう。『朝の支度を夫婦並んでできるよう、洗面ボウルは二つ』など細かいアイデアが書かれたそのメモを、付箋に書き出して打合せに持ち込みました。どんなデザイナーが登場するかドキドキしていたという奥様でしたが、2回目の打合せからはデザイナーを下の名前で呼ぶほどすぐに打ち解けたんだそう。そのデザイナーが提案した3つのプランのなかから選んだのは、空間の半分以上を大きな一つの部屋とし、その部屋を高さ7cmの段差で半分に区切ってフローリングの素材を分けるというもの。暮らし始めて感じるのは、それぞれの床材によって過ごす時の目線の高さに違いが生まれたこと。立ったまま家事をしたり、椅子に座ってお仕事をするモールテックスで仕上げた床と、スリッパを脱いで床座でくつろぐオークフローリング。同じ空間の中でも床材の違いによって過ごし方が自然に変化し、ゆるやかな気持ちの切り替えができると言います。
実現させた無数のこだわり
心地よく暮らすためのこだわりを一つ一つ実現させたY 夫婦。広いリビングには特徴的なデザインの照明が所々に配置されていますが、あちこちにスイッチを点在させるのはストレスだと考え、一箇所で全部の照明を入・切できるスイッチプレートを希望されました。一つで沢山の経路があるプレートは市場への出回りが少ないため、必要なモノと数、購入できる場所が書かれたメモを施工スタッフから受け取り自ら希望のものを用意されたんだそう。そのスイッチによって照らされる照明一つ一つも夫婦で時間をかけて選んだもの。リノベ期間中に行きつけになったという目黒のインテリアショップ「ANTISTIC」で運命の出会いを果たしたチューブランプは、まるでこの空間のためにあるかのような佇まいです。寝室とリビング、それぞれに一つずつあるクローゼットは二人の生活スタイルと収納する衣服に合わせて造作。クリーニングを多く利用されるY 夫妻は、クリーニング屋のハンガーをかけるためだけのスペースをクローゼットに設けるなど他にはないアイデアを実現。それ以外にもご主人は持ち合わせのジャケットの枚数を数え、すっきりと納まる幅を計算されるなど、とことん考え抜いたと言います。工事中に施工スタッフとのやり取りで一番時間をかけたのは、リビングの段差にまつわること。几帳面なご主人は、段差の側面をどのように見せるかを現場でとことん追求しました。最初に届いた段差用の板には塗装がされておらず、フローリングとの見た目の差に違和感があったそう。それを解消するためご主人とスタッフで調整を重ね、最終的には全く同じ見た目の板で段差が作られました。訪れた人のほとんどが気づかないような場所にも、二人のこだわりはしっかりと詰まっています。
無機質× 温もり
モルタルの無機質なデザインの中にも、穏やかでほっとする独特の空気が漂う理由。それは二人によってもたらされる生活感が素直にそこに存在するからだと感じました。「住居としてのハコは無機質がいいけど、ご飯を食べる器などは手作り感や温かみがあるものが好き」とおっしゃっていた奥様。シンプルでありながら、一見分からないような場所に実用的なアイデアが数多く潜んでいるこの空間には、Y夫妻の生活がしっかりと根付いていました。引っ越し当初オークフローリングの方には奥様の仕事用デスクがありましたが、今そのデスクはバルコニーに移動。というのも奥様、今の家に引っ越してから家庭菜園をはじめられ、グリーンの置き場としてそのデスクを活用しているんだそう。「テイストを定めずざっくり、雑な感じで」という希望のもと作られた空間は、時間とともに少しずつ変わっていくY夫婦の生活スタイルに合わせて常に変容しています。奥様は朝起きて寝室を出て、リビングに入ったその瞬間に「リノベーション、やってよかった!」と毎日感じるそう。生活を愛する二人が作り上げたこだわりの空間は、これからどんな変化を見せていくのでしょうか。