壁一面のガラスブロックやさまざまな質感の白で包まれた、清涼感あふれる空間。13年間住み慣れた自邸リノベーションで生まれ変わった我が家には、家族と愛犬それぞれの天国がありました。
振り切れた天秤
都内の閑静な住宅地に立つ、洗練された外観のマンション。ここに住むHさんは、ご夫婦、高校一年生の娘さん、そらまめちゃん(豆柴)の4人家族です。13年前に新築で購入して以来、大切に住み続けてきましたが、「近年はほとんどリモートワークになったので、家族それぞれ個室が持てるように間取りを2LDKから3LDKにしたいと思って。せっかくリノベーションするなら、内装も一新しようかという話になりました」と、ご主人は振り返ります。
リノベーションを検討する一方で、売却して住み替えることも選択肢の一つだったというHさん。わざわざ工事をして間取り変更する手間を考えると、いっそ希望の部屋数がある新築物件を買った方がラクなのではと思っていたそうです。
「そんな感じで1年弱くらい売りに出しつつ、同時並行でリノベーション会社にも相談していました」と、ご主人。リノベーション会社を選ぶにあたり、アパレル関係の会社で広報をしている奥様は、仕事で関わっている人たちに良い会社を知らないか聞き取り調査。その中で、知り合いの編集者さんがnuリノベーション(以下、nu)で自宅をリノベーションした話を聞き、詳しく調べてみたと言います。(※)
その方の話を聞いてnuを信頼できると感じたこと、HPに載っている施工事例もフィーリングに合うデザインが多かったことから、直接相談してみることに。恵比寿にあるnuのオフィスを訪ねると、玄関先で待機していたアドバイザーが笑顔で出迎えてくれたそうです。
「色々な部分にホスピタリティを感じました。私たちが予算内に全然収まらないようなリクエストを話しても、全てを前向きに聞いてくれましたし、プレゼンテーションの段階で複数のプランを提案してくれました。間取り図にそらまめの絵も描いてくれて、生活している様子までリアルに想像できましたね」と、ご夫婦。アドバイザーや設計デザイナーには売却活動を並行して行っていることも伝えていて、リノベーションする保証がない自分たちのために手を動かしてくれたことに感動したと言います。
「nuさんから早々に良い提案をいただけたので、売却活動を中止してリノベーションに振り切りました」と、ご主人。「決める前に売れなくて良かったよね(笑)」と、奥様は笑います。
(※)該当事例:『DRESSY』
天国の館
実はこのマンション、住人がマンションの建設段階から設計デザインに参加する<コーポラティブハウス>としてつくられた集合住宅。実質オーダーメイド住宅であり、H邸も新築当初から理想のデザインに仕上がっていたと言います。
「元々こだわってつくってあるので、全部変えるのではなく、生かせるところは生かしたいと思っていました」と、ご主人。その希望どおり、キッチンエリア・洗面室・トイレ・建具の一部は既存を利用し、重ねて来た歴史を感じられるように設計しました。
前述のとおり、このリノベーション最大の目的は個室の増設。以前の間取りは2LDKで、個室①はご主人、個室②は奥様と娘さんで共用していましたが、新たにリビングの一画に4.0畳の個室を増設することで、既存の2部屋は奥様と娘さんの自室、増設した個室はご主人の自室として使えるように変更しました。
「娘も大きくなったので、家族それぞれ個の時間を持てるといいなって。私もこじんまりした部屋でいいから、落ち着いて仕事に向き合うスペースが欲しかったですし」と、ご主人は微笑みます。
リビングとご主人の部屋を隔てる壁には、一面のガラスブロックを採用。この家の新たな主役とも言える存在感を放っています。
「昔からガラスブロックが大好きで、このマンションの前に住んでいたコーポラティブハウスにも乳白色のガラスブロックを使っていたんです」と、奥様。LDKが広く見えるのはもちろん、リビングに注ぐ自然光をご主人の部屋に届けられたり、圧迫感や生活感を軽減できたりして、良いことづくしです。
洗練された感性をお持ちの奥様は、ハワイのホテル『ハレクラニ』が大好き。ハレクラニはハワイ語で「天国の館」を意味し、今回のリノベーションのテーマにもぴったりだと感じたそう。その雰囲気を再現するべく、LDKとご主人の部屋の床にはライトグレーの磁器質タイル、奥様と娘さんの部屋にはウォールナットフローリング、リビングにはガラスフレームの建具を採用。さらに、キッチンのルーバー建具は既存のものを再利用しつつ白で綺麗に塗り直し、透明感・上質さ・あたたかさをバランスよく感じる内装に仕上げました。
磁器質タイルの床は滑りにくく、そらまめちゃんの足腰にやさしいのもポイント。既存を利用したキッチン壁の白タイルともマッチしていて、どこをリノベーションしたのか分からないほど新旧の調和に成功しています。
その他にも、ピアノやサックスを演奏する娘さんの部屋に遮音施工を施したり、ミストサウナ付きのユニットバスに替えたりして、それぞれが個の時間を快適に過ごせるよう配慮しました。
また、ご夫婦は家具にもこだわりがあり、ご主人は大好きな中目黒のヴィンテージ家具店HIKEを中心に、コツコツとアイテムを蒐集してきたそう。13年前に購入したTVボード、北欧ヴィンテージのエクステンションテーブルは特にお気に入りで、1970年代のセブンチェアも最近仲間入りしました。
一方、奥様のお気に入りは、20年以上前に購入したマリオ・ベリーニの『キャブ アームレスチェア』。白を基調としたダイニングにテラコッタ色の上質なツヤを添えています。ダイニングの黒いペンダントライトはルイスポールセンのもので、奥様が敬愛するスタイリスト・岡尾美代子さんの自邸を真似したそう。また、奥様の自室に置かれているイームズのチェア、レ・クリントのペンダントライトとフロアランプも15年程愛用している大のお気に入りだと言います。
清涼感のある空間に、使い込まれたヴィンテージ家具。対照的な質感が、それぞれの持ち味を引き立て合っています。
QOL200%
高純度の白に包まれた空間は、グラスの氷がカランと音を立てたような印象で、いるだけで気持ちがスッとするよう。グリーンや季節の草花が要所で色を添えていて、清涼さの中にほどよく温かみも感じられます。
竣工して丸3ヶ月、暮らしぶりを尋ねると…。
「元々この家に住んでいたので、生活がガラッと変わったわけではないですが(笑)。でも、こういう理想の空間で過ごしていると満足度が高いし、リラックスできますよね。変わったことと言えば、家で飲むお酒がおいしくなったことかな(笑)」と、ご主人。リビングや自室でNetflixや大リーグ中継を見ながらビールを飲んでいる時間が至福なのだとか。奥様が続けます。
「私は念願の自分の部屋が出来てすっごく快適で、家に帰ってくるのが楽しみ。浴室に付けたスプラッシュミストが本当に気持ちよくて、サッと整ってから自分の部屋で寛げるのが最高。もう、夢のようです」。
QOLの上昇具合を数値で尋ねると、「200%」と即答するほど。娘さんも自分の部屋に友だちを招けるようになって、嬉しそうなのだとか。そらまめちゃんもハイテンションに家中を駆け回っていて、家族全員がのびのびと暮らしていることが分かります。
ハンス・J・ウェグナーの『GE290』、ヴィンテージのソファなど、これから欲しい家具がたくさんあるというご夫婦。「マリオ・ベリーニのアームチェアも欲しいんです、(アームレスは)今も持っているけど(笑)」と楽しそうに語るお二人の表情からも、この空間は、まだまだ変化を続けていくことがみて取れます。
「新築への住み替えではなくリノベーションにして、良い選択をしましたね。費用面を含めて色んな条件を考えても、今住んでいる家をより良くできるならその方がいい。nuさんにはふんわりした状態で相談に行ったけれど、私たちに寄り添いながら、良い提案をたくさんしてくれました。今振り返ってみても、本当に良かったですね」、そう頷くご夫婦。
納得できる選択をしたという確信が、暮らしをより良いものにしているのかもしれません。
Interview & text 安藤小百合