白と木が基調の空間に、アイキャッチとなるグレージュのキッチン。静かな色で包まれたのびやかな空間には、家族愛をカタチにするヒントが隠れていました。
圧倒的な提案力
都内でありながら自然豊かな環境が共存する、穏やかな住宅地。この街に住むHさんは、デザイン制作プロデューサーのご主人、プロダクトデザイナーの奥様、11歳の息子さんの3人家族です。以前は団地に住んでいましたが、息子さんが大きくなって手狭になってきたこと、コロナ禍で家族全員が在宅体制になったことから、広さを求めて住み替えを決意。Hさんはもともと中古リノベーション一択、さらに住みたいエリアも絞られていたので、早々にご自身で物件探しに着手したといいます。
「新築は選択肢になかったですね。もちろん綺麗だけど、最近のマンションは建物自体もコストダウンされているし、使われている建材や建具の質も下がっているのが分かってしまって。それに、新築は広告代とか色んな費用が上乗せされているので、価格と実態のバランスが悪く、割高だなと。少し前のマンションの方がしっかり造られているし、何より自分たちの好みの空間に住みたかったので、やっぱり中古リノベしかないよねって」と、ご夫婦。
物件探しとリノベ会社探しを並行する中で、インスタグラムでnuリノベーション(以下、nu)を発見。その洗練されたデザインに心を奪われ、ホームページまで細かくチェックしたそうです。nuが物件探しからリノベーションまでワンストップでサポートしていることは途中で知ったため、今回の物件探しはご自身で完結しましたが、リノベーションは「nuさん一択で」と依頼を決意。最上階、しかもルーフバルコニー付きのこの物件を見つけたタイミングで、初めてnuのスタッフと話をしたそうです。
「nuさんの決め手は、提案力ですね。私たちが望んでいた暮らしに対して、『こんなやり方はどうですか』『こういうやり方もありますよ』と、自分たちでは到底思いつかないアイデアをたくさん提案してくれて。この方たちなら、暮らしやすい家を一緒につくってもらえそうと確信しました」と、奥様。
こうして、築14年、92.44㎡の中古マンションを購入し、nuと二人三脚のリノベーションが始まりました。
親心と間取り
リノベーションのテーマは、家族が緩くつながりながら、それぞれ心地よく過ごせる家。フリーランスの奥様には専用のワークスペースが必須でしたが、それも分断した個室ではなく、LDKとつながる配置を望んでいました。
「息子がだんだん家族よりも一人の時間を過ごすようになってきていて。そんな状況で部屋まで完全に分断してしまうと、家族のつながりが希薄になっていくような気がしたんです。私も平日は仕事に集中しているので、そこまで細かくは見られませんが、それでも息子が帰宅したときは『おかえり』を言って、おやつを出して…。気軽にコミュニケーションを取れれば、顔の表情を見て『今日は元気ないな』って気づいたりできるじゃないですか」。
そんな母の思いを聞いた設計デザイナーは、間取りの一部に手を入れました。リビングの一画にあった和室を取り払い、LDKの面積を20畳超まで拡張。隣接していた洋室の一部をワークスペースに新調し、LDK側に引き戸を設けました。
「私的には、リビングの一画にあった和室をガラス張りにするイメージだったのですが、今の形を提案してもらって『その手があったか!』と。ミーティングのとき以外は扉を開けて、家族の気配を感じながら仕事しています。息子がふらっと入ってくることもありますね」と、奥様。子どもは親離れしても、親側はいつでも迎えられる体勢で居たい。そんな親心が、このオープンな間取りを生み出しました。
また、当初はフルオープンのアイランド型で格好よく決めたいと考えていたというキッチンは、構造上動かせないパイプスペースがあったため、既存のペニンシュラスタイルの対面キッチンと同じ配置にすることに。コンロ前に壁をつくることで、閉塞感が出てしまうのではと危惧していたといいますが、光を増幅する絶妙なグレージュのおかげでその心配は杞憂に終わったよう。食べ盛りの息子さんのために揚げ物をすることが多いそうですが、油はねを気にせず調理でき、サッと壁や天板を拭くだけで綺麗になるので、とても助かっているそうです。
「暮らしていないときは格好よさばかり気にしますけど、実際に暮らしてみると、使いやすさって大事ですね(笑)」と、感慨深い表情で話す奥様。
さらに、収納を重んじていた奥様の声に応え、寝室にもともと付いていたWICの他に、廊下に面した大容量のWICを新設。以前の団地も大容量の押し入れがあったものの、奥行きが深すぎて出し入れが不便だったため、出し入れしやすい収納が欲しかったのだそう。
今では、『WIC①(寝室)』には洋服、『WIC②(廊下)』にはキャンプ用品や生活用品がすっぽり収まり、2つのWICだけで家中の収納が完結。生活空間に収納家具を置かなくて済み、見た目にも精神面にもゆとりをもたらしています。
「今日はWICの撮影がNGで申し訳ないのですが(笑)、実はWIC内にダイソン掃除機の充電ステーションをつくってもらったんです。これが本当に便利で!私にはWICをつくるアイデアは無かったので、提案してもらえて本当によかったです。本当に便利!」と、奥様は笑いながら繰り返します。
こうして、Hさんご家族の暮らしにピッタリな「2LDK+2WIC+ワークスペース」の間取りが完成。床と天井の下地、風呂・トイレ・洗面台・温水式床暖房などの設備、一部の床と建具は既存を利用し、無理のないコストコントロールにも成功しました。
ワントーンの功
シンプルな色・素材で構成された空間に、心がほぐれるようなやさしいグレージュで包み込まれたキッチン。欧州の家を思わせる上品で洗練された住まいは、Hさんご家族の雰囲気にマッチしています。このテイストは、初めから希望していたのかと思いきや…。
「実は、私の意見が本当にコロコロ変わって…。手持ちの家具にビンテージ調の家具が多かったので、初めはイームズっぽいテイストで、黄色みがある床をリクエストしたんです。でも、この家の特性も生かしたいと考えたときに、最上階だから自然光がたっぷり入って明るいし、既存利用できそうな建具は明るい色味だし。『…あれ?黄色い床は合わないな』って(笑)。迷走しかけていた時に設計デザイナーさんが提案してくれたのは、やっぱり明るい色の床材で。そこからは綺麗目のスタイリングに振り切りましたね」と、奥様は振り返ります。
最も大変だったのは、キッチン周りの色決め。「キッチン壁面の色も最後まで悩みました。モルタルもいいなと思っていたんですが、グレージュを提案していただいて、それもいいなと。私が色見本から選んだのは、これよりワントーン明るい色だったんですけど、設計デザイナーさんが『これだと広い面で見たとき明るすぎるから、ワントーン下げましょう』って仰って。ホントかなと思ったんですけど、実際見たらこの通り!私のイメージ通りの色味でした。いろいろと自分で判断していたら、本当にめちゃくちゃになっていたと思います(笑)」。
お気に入りのインテリアは、団地時代から愛用しているソファと、ご主人のお父様から譲り受けたルイスポールセンのフロアライト。柔らかい光に照らされながらテレビ代わりに設置したプロジェクターで映画を観る時間が、最高に幸せなのだとか。
「nuの皆さんには、本当に根気強く付き合っていただきました。私の取っ散らかった要望を綺麗にまとめながら、『絶対にこうした方がいい』とは言わず、でもちゃんと的確なアドバイスをくださって、絶妙な距離感でしたね。段取りが記された工程表を最初に出してくれて、その通りに進んでいったことにも感動しました。細かいことも丁寧に確認しながら進めてくれて、終始安心でしたね」。
満足感に溢れた笑顔で、リノベーションを振り返るHさん。これからもこの家で息子さんの成長を楽しみながら、家族のつながりを深めていきます。
Interview & text 安藤小百合