20年前に購入したマンションに住むアンティーク家具好きの奥様。長い間住み続けた家に対して愛着がある反面、「もっとアンティーク家具の映える空間にしたい」という想いがあったと言います。“子供が巣立つ”という嬉しくてちょっと寂しい生活環境の変化を機にリノベーションに踏み切ったご夫妻の物語です。
20年目の転機
都心からおよそ1時間電車に揺られると見えてくる、広大で豊かな自然に恵まれた街。埼玉県飯能市。ここに住むKさん一家は会社員のご主人と公務員の奥様の2人暮らしで、昨年9月に元々住んでいた築23年のマンションをリノベーションしました。ご夫妻は今から約20年前、お子様が生まれたタイミングでこのマンションを購入。お2人とも東京・青梅のご出身で飯能という場所に馴染みがあったわけではありませんでしたが、子育てをしていく上で四季を感じることのできる豊かな周辺環境に何にも代え難い魅力を感じたのだと言います。そんなお2人がリノベーションに踏み切ったのは昨年4月のことで、「息子が社会人になったのを機に1人暮らしを始めたので、主人と2人暮らしになったんですね。それでこれからはお互いの部屋が持てるね、なんて話していたんですが、良いタイミングだしこれをきっかけに暮らしを見つめ直したいなぁと思ったんです。」と奥様。奥様がそう考えていたのも、この家を語る上で外せないアンティーク家具たちの存在があったから。「20年くらい前からちょっとずつ集めているんですが、以前の空間は愛着はあるけど“アンティーク家具が映える空間”とはどこか違ったんですよね。だから、もっとこうだったら家具にぴったりの空間になるのに!っていう気持ちがずっとあったんです。元々リノベーションていう言葉は雑誌でよく見かけていたので憧れはあったけど、リノベってなると模様替えとは話の規模が全く違ってくるから中々一歩を踏み出すことができなくて。でもちょうど息子が家を出て生活環境が変わったことで、どこか背中を押されたような気持ちになって、それでリノベーションすることを決意したんです。」と奥様。それからリノベ会社を検索し、リノベーション情報サイト『リノベりす』で見つけたnuのHPにアクセス。掲載されている施工事例には何一つ同じデザインがなく、ここなら自分たちのやりたいことにもきっと応えてくれるはず!と、直感でピンときたnuに依頼することを決めたのだと言います。それから現地調査、デザイン打ち合わせ、とお2人りのイメージするリノベ空間への実現に着々と近づいていきます。
アンティークと暮らす
「祖母の家が東京の檜原村(ひのはらむら)っていう所にあって、東京都で唯一今も存在している村って言われてるような場所なんですね。建物も古いものばかりで少し怖いぐらいの雰囲気だったから、子供の頃はその古びた感じがあまり好きにはなれなくて(笑)。でも自然と年を重ねるにつれて、少しキズがあったりするぐらいの古さが落ちつきに変わるようになっていって、アンティーク家具に引き寄せられるようになったんです。今考えると幼い時に祖母の家で見たものたちが、アンティークを好きになった原点だと思います。」と話す奥様。かれこれ20年ほど前から集めているというアンティーク家具ですが、最初のうちは中々良いと思えるものに出会えることが少なかったと言います。しかし、数年前にたまたまKさん宅の近所に店を構える『REFACTORY antiques 』というアンティークショップのオーナーに出会ってからは更にアンティーク家具への魅力を感じるようになり今ではK邸に置かれた家具や建具などほとんどがアンティークのもので埋め尽くされています。そんな奥様がリノベーションで創り上げたかったのはもちろん、“アンティーク家具の映える空間”。その気持ちに答えるようにデザイナーは『SIMPLE×ORGANIC』というコンセプトをご提案。家具が映えるよう極力シンプルに、余計なものを取り払うことで自然体でいられるようなそんな空間をイメージしました。そして完成したのは陽の光がたっぷりと注ぐ、アンティーク家具と暮らすにふさわしい穏やかな空間。今回のリノベーションでは既存の設備を活かす「ECOスタイル」を選択し、LDKと和室のみリノベーションを行いました。まずリビングの扉を開けて目に飛び込んでくるのは、存在感のあるステンレスキッチン。以前のキッチンはリビングと隣接しているものの、奥まっているせいかどこか薄暗い空間だったと言います。月1でパン教室に通うほど料理好きの奥様にとってキッチンの居心地が悪いと言うのはあってはならないこと。そのためキッチンを明るく心地良い空間にすることは今回のリノベーションでの課題の1つだったと言います。そして明るいキッチンにプラスして、ちょっと無骨な雰囲気に仕上げたいというリクエストが。「このアンティークの食器棚を置くことを前提としていたので、それに似合うよう綺麗すぎる感じはNGでした。だから床も古民家っぽい感じをイメージしてラワンベニヤを敷いてもらいました。」と奥様。無骨さを演出するために壁はコンクリート現しで仕上げ、バックカウンターには古材でシンプルな棚を設置しました。そこには料理好きの奥様が調達した数々の調味料がガラスジャーに詰められ、まるでカフェのキッチンを思わせます。リビングは壁と天井のクロスを剥がし塗装で仕上げ、床材は既存を利用しました。当初奥様は「床は予算が合えば無垢材を敷きたい」と考えていたそうですが、「リビングの床くらいは、“20年間この家で暮らしてきた”という家族の歴史を残しておいてもいいんじゃない?」というご主人の粋な一言で、迷うことなく既存の床を利用することを決めたのだとか。そしてリビングと隣り合う奥様の寝室は、元々和室だったお部屋。2面採光が確保された日当たり抜群のお部屋ですが、以前は和室で使い勝手が悪かったため物置部屋のような状態だったと言います。せっかくの空間を活かすために和室は壊したいという要望から、奥様の寝室へと生まれ変わりました。洋館を思わせる窓の格子は、なんと元々あった障子の枠にDIYで白く塗装を施したものだそうで、元々和室だったお部屋だからこそのぜひ参考にしたくなるアイディアです。そして小屋をイメージして造られたWICには『REFACTORY antiques 』で購入したおよそ100年前の住宅に使われていた窓を取り付け、通風を確保しました。LDKと寝室を緩やかに仕切るガラス戸も『REFACTORY antiques 』で購入したもので、昔の学校の建具として実際に使われていたものなのだとか。間に合わせで買ったようなものが1つも見当たらないK邸。ちょっとずつ、ちょっとずつ大切に集めたアンティーク家具たちが味わいのある素材と穏やかな空気に包まれ、より一層家具が引き立つ空間へと仕上がりました。
空間がもたらす丁寧な暮らし
「リノベーションしてから、1ヶ月で去年の1年分くらいの来客がありました(笑)!フィルムカメラつながりの友人が多いので、古いものが好きな人が多くて。だからこのリノベーションした空間をみて、わぁすごい!ってみんな喜んでくれるんです。」とにっこり笑う奥様。カメラはご夫婦共通の趣味で、特にフィルムカメラが好きだと言う奥様は「以前は外で写真を撮ることが多かったけど、今は家の中で撮ることも増えました!フィルムカメラ越しにこの家をのぞいていると、とっても幸せな気持ちになります。」となんだか嬉しそう。リノベーションをしてからはライフスタイルにも変化があったようで「掃除機を使うのを辞めて、ホウキにしてみたんです。ホウキで掃除するとなんとなく心が穏やかになるっていうか、やっぱりそういうのって心に余裕がないとできないことだと思うんですね。身も心も満たされているこの空間で過ごしているからこそできる丁寧な暮らしだと思います。」と教えてくれました。“アンティーク家具の映える空間”をテーマとしたK邸のリノベーション。アンティーク家具たちだけでなく、そこに住む人の身も心も自然体でいさせてくれるような落ち着きのある空間へと仕上がりました。