メガネショップで働くご主人とインテリアショップで働く奥様。身に付けるもの1つ1つが洗練されたハイセンスなご夫婦です。そんな2人が暮らすこの部屋は、桜が立ち並ぶ川のほとりにありました。
リノベーションがくれた出会い
奥様の勤めるインテリアショップは、nuリノベーション(以下、nu)のインテリアコーディネートサービス『decoる』の提携先の1つ。nuでリノベをしたお客様がお店に買い物に来て、話を聞くことなどもあったと言います。家を購入する際は、自分たちの手で住みたい空間を作りたいと考えていたS夫妻。新築やリノベ済み物件など、既存の部屋に住むことは最初から考えていなかったんだそう。馴染みのあるnuは好みの施工事例も多く、ここでリノベをすることを決めてくださいました。今住む新百合ヶ丘のこの物件。どんな流れで決めたのか伺うと、「それはまさに縁ですね。」とご主人は話します。もともと転勤が多く、東京に土地勘がなかったというお2人。たまたまご主人のお友達が小田急線沿いに住んでいたことから「すぐ会える安心感もあるし、その近くにしよう」と小田急沿線で物件探しをスタートさせました。そんな中でnuの営業アドバイザーから提案されたある物件。その物件の売主であるAさんは、引っ越し先の家をnuでリノベーション予定のお客様でした。「最初の内見はたまたま主人が1人で行ったんですけど、その日にもう『絶対ここにする!』って決めてきたんですよ。」と奥様。前のオーナーのAさんは、プロレベルのDIYでこの部屋をカスタマイズしていました。Aさんのオリジナリティがすでに加わった空間だからこそ、これから自分たちが行うリノベーションの想像もつきやすかったと言います。またAさん家族の人柄も、ご主人が感じたこの物件の魅力でした。「内見に伺った時には息子さんもいて。仲良しな家族が住んでいた明るい雰囲気も感じて、そこも気に入ったんです。」と話すご主人。リノベーションをきっかけに出会ったS夫妻とAさん家族。近所に住む人の人柄の良さやDIYで音を出してもうるさく言われないことなど、ただの売主と買主だけではない関係性のなかで色々な話を聞いたと言います。改めて機会を設け夫婦2人で再度内見に伺い、Aさん家族が桜の頃に毎年庭でバーベキューをしていたことを聞いた奥様。その話がご自分の思い描いていた理想と重なったことで、この部屋に住むことを決めたのでした。
馴染みやすい、だけど『普通』じゃない
デザインについて舵を取ったのは奥様。「こだわった箇所はどこですか?」という質問になかなか答えが出てこないくらい、全ての場所を悩みに悩んだと話します。そんな中でもデザイナーとの打合せで一貫して話していたのは『飽きがこない部屋』というフレーズ。「家具って少しずつへたってきたり、好みが変わったり、いつかは買い換えるものじゃないですか。家を作り込みすぎたらいつか迎え入れたい家具と合わなくなるかもしれない。家具が好きだからこそ、どんな家具にも合う家を作りたかったんです。」そんな奥様の想いから完成したのは、アッシュトーンのモクとグレーの2色に分かれた床、そして漆喰の白壁で構成されたシンプルな空間でした。もともとフレンチヘリンボーンに強い憧れがあったという奥様。しかし打合せを進めるうちに予算に都合がつかず、ヘリンボーンの床を実現することが難しくなってしまいました。「それでも『普通』はいやで。合わせやすくしたいけどこだわりたいっていう難しいところがあって…(笑)」そんな奥様の気持ちにフィットしたのが、同じ長さの木材を揃えて張る『すだれ張り』という張り方でした。オーソドックスな手法と違って揃った横のラインも強調されるこの張り方。よりすっきりとした印象でインテリアが映える仕上がりになりました。そしてこのLDKにおいて特徴的な、キッチンに上がる小さな段差。この段差は物件購入時からのもので、S夫妻も気に入って活かすことにしたんだそう。奥様が悩み抜いたリビングのフローリングともしっくり馴染んでいました。そんな風に、このお宅にはいたるところにAさんによる手仕事の跡が残されています。漆喰の壁が印象的なS邸。こちらも購入時の状態がそのまま生かされています。リビングの壁はAさんが業者さんに依頼して仕上げられたものですが、寝室の壁はなんとAさんの手塗り。「リビングの壁に比べるとAさんが手塗りしたという寝室の壁はいい意味でラフで陰影がついていて。海外っぽくてこっちの方がお気に入りなんです。」と話すお2人。S夫妻とAさん、2つの家族に共通する住まいへの深い愛情が調和して、このお部屋は唯一無二の空間に仕上がっているのでした。
心が踊る場所
シンプルに仕上げられたリビングとは対照的に華やかな洗面室。一度はシンプルなタイル張りで話が進んでいたものの、急遽方向転換をしてこの形になったんだそう。清潔感のあるタイル張りの壁に、収納棚付の洗面台。当初はそんなセオリー通りの洗面室に仕上がる予定でした。打合せも滞りなく進んでいましたが、デザイナーは奥様がどこかしっくりきていないことを感じ取っていました。そしてタイルという固定概念を一度捨てることで新たに生まれたのが、壁紙を貼るというアイデア。デザイナーは奥様にnuオフィスと同じ恵比寿駅にある輸入壁紙専門店の『WALPA(ワルパ)』を紹介しました。打合せ終わりにお店を覗きにいった奥様。初めて足を運んだその日に、当時新作として入荷していたあるクロスに一目惚れをしたんだそう。「店員さんに驚かれるほどテンションが上がっちゃって。『これに決めました!』くらいの勢いでデザイナーさんにメールしたのを覚えてます。」とその時のことを振り返ります。大胆な花柄のクロスはすでに購入してあったヴィンテージの鏡とも相性抜群。クロスが決まったことで洗面室全体のイメージはどんどん固まっていったのでした。最終的に作られたのはクロスの花柄がよく映えるオープンな作りの洗面台。この場所は家の中でも奥様が特にお気に入りの場所なんだそう。最後に話を伺ったのはキッチンについて。この場所で奥様が最も悩んだのは、他の箇所との取り合わせでした。フローリングはAさんのDIYをそのまま残し、ワークトップはステンレスに。その間にあるカウンターはどんな素材でどんな風に仕上げよう…?と、最終的に奥様が選んだのは、框のある腰壁と人工大理石のカウンターという組み合わせでした。仕上がったカウンターを見てご主人は「こうやってみるとキッチンっぽくもあって、ダイニングの一部な感じもして馴染んでるね。」と話します。既存の要素と新しく加えた要素がミックスされた、ただ1つのキッチン。これからも日々手を加えながら、より愛すべき場所に仕上げられていくのでしょう。
「この家が一番いい!」
取材の締めくくりに伺った「新しい家で幸せを感じるのはどんな時ですか?」と言う質問。その答えとして、ご主人は先日2人で行ったという京都旅行の話をしてくださいました。「旅のメインの目的として古民家をリノベーションしたホテルに行ったんです。リラックスできてすごく良かったんですけど、帰ってきた時に『あれ、うちの方がいいな』って思ったんです(笑)」と話します。奥様によるとご主人は、外から帰った時に「この家が一番いい!」と度々言っているんだそう。そして奥様の答えはお友達を招いた時。すでに何人ものお友達を招き、料理を振る舞ったと言います。「全部自分で考えて決めたことが空間になってるから、それを褒められると自分が褒められてる気分になるんです。」そんな風に話す奥様に対しご主人は、「僕の友達も妻の友達も、みんな口を揃えて『妻っぽい空間だね』って言うんです(笑)僕の要素はここだけ。」と、ご主人が即決で買ったというリビングのシンボルのような大きな照明を見上げながら話します。そんなS夫妻と打合せを重ねたデザイナーは2人の関係性について、「ご主人は奥様が迷った時にYES/NOの答えを出したり、奥様の背中を押す役割をされていました」と話します。仲睦まじい2人の関係性から流れる穏やかな空気は、奥様がこだわりを尽くしたこの空間をいっぱいに満たしていました。住まいへの愛情をたっぷり注ぎ込んだこの部屋は、これから時が移ろう度に新しい表情を見せてくれそうです。