壁一面の大きな本棚が印象的なお部屋に暮らすのは、大学で講師として勤めるご主人と奥様、そして元気いっぱいな2人のお子さん。間取りをほとんど変えないまま、家族にぴったりな新しい空間が生まれました。
“ あの場所” の、すぐ近く
品川区の高台に位置する住宅街。“閑静な”という言葉がぴったりなこのエリアに、S家族の暮らすマンションがあります。引っ越す前に夫婦2人で住んでいた時も、その前にそれぞれが1人暮らしをしていた時も、およそ20年に渡ってこのエリアで暮らしているというS夫妻。ここに住み続ける理由を伺うと「特に理由は…」と笑いながら顔を見合わせます。具体的な理由を聞かなくても、周辺を少し歩くだけで住み心地の良さをひしひしと感じるこのエリア。低層住居専用地域に指定されていることもあり、日当たり抜群で景観的にもゆったりとした広さを感じられる上、住戸それぞれに手入れの行き届いた「きちんと感」が漂っています。「賃貸マンションで暮らしている時から、同じエリアでいい物件があれば購入したいと考えていたんです。」とご主人。とは言っても、最初からリノベーションを検討していた訳ではありませんでした。「リノベーション自体に興味があって、一度モデルルーム見学だけでもと思って軽い気持ちで相談会に伺ったんです。」と奥様。初めてnuリノベーションに来社したのは今から3年ほど前。その時はまだ具体的なイメージが湧かず、『いい物件を見つけたらこちらからまた連絡します』と言って一度保留にしたんだそう。それから1年。WEBサイトを使ってコンスタントに物件探しを続けるなかで、ついに今暮らすお部屋に出会いました。もともと住んでいた場所からもほど近い上、とある美術館のすぐ近くに建つこのマンション。その美術館は、奥様が年間パスポートを購入するほど頻繁に通っていた場所でした。「住み慣れた場所であることだったり、階層が高くないことなど、色々な条件にも合っていたんですが、やっぱり美術館のすぐそばにあるっていうのが大きかったです。」と奥様。狭いエリアに限定しながらもじっくりと物件探しを続け、理想以上の物件との出会いを果たしたのでした。
家族をつなぐリビング
物件の購入を本格的に検討し始めたS夫妻は、1年前に担当だったnuのアドバイザーに連絡。一緒に内見に向かい、その場でリノベーションで出来ることの説明を受けました。「最初はリノベーションしなくてもいいかな、くらいの気持ちでいたんですが、アイデアを聞いているうちに、確かにリノベーションしたらもっと暮らしやすくなるかもと思うようになって。最終的にはアドバイザーさんの営業力に負けたってことかもしれません(笑)」とご主人。条件にぴったりなこの物件を、家族の暮らしにもぴったりにするため、リノベが始まりました。 内見時から分かっていたのは、このお部屋の構造上、間取りを大きく変更することが難しいということ。そのなかでも一番大きく変えたのはキッチンです。元々のプランでは行き止まりになっていて、リビングの光も入らず圧迫感を感じたというキッチン。壁を抜き、通路を設けることでオープンになった動線の先に、洗濯機や洗面台など水回りを集約させることで家事動線が短くなり、作業効率も格段と上がりました。キッチンは無垢材が特徴のシステムキッチン。「デザイナーさんに言われて気づいたんですが、シンクの下がくり抜かれているシステムキッチンってこれ以外にあまりなかったんです。ゴミ箱を見えない場所に隠せるのがいいなと思って。」と奥様。無垢材の見た目や肌触り以上に、意外なポイントが決め手になったのでした。そんなこのお部屋のコンセプトは『smooth house』。「いつの間にかこのコンセプトがついていて(笑)やり取りをする中で、私たちが無意識に動線を意識してるのを感じ取ってもらえたんだと思います。」と奥様。続けて「夫婦揃って『動線』っていうワードを度々発してたのかもしれません。」と笑います。
このお部屋の特徴は、備え付けの収納が多いこと。大学講師のご主人は、資料や本を多く所蔵されています。「とにかく収納をたくさん確保しなきゃと思って、最初は中を収納にできる小上がりを作ろうって話していたんです。」と話すお2 人。プランを詰めていくうちに小上がりの案はなくなり、その代わりに壁面の随所に棚を設けることになりました。リビングドア正面の壁には、ゆったりとした高さと幅のある本棚、そしてワークカウンターを造作。窓の上の細長いスペースにも、C D を並べて収納できる高さの棚を設けました。キッチン側の壁と、ドア側の壁にはアイアンのブラケットが印象的な飾り棚が。棚の上はカラフルな雑貨やグリーンで彩られています。「主人のスペースを確保するのにも、結構模索したんです。」と奥様。家でお仕事をする時間が多いというご主人のワークスペースをどんな風に設けるか、デザイナーと一緒に頭を悩ませました。最終的なプランでは、家族が集まるリビングの一角に、一面の本棚に囲まれるようなカウンターを造作。集中したい時、すぐ後ろは引き戸で仕切れる仕組みにしました。ワークカウンターの後ろの部分は、引き戸を全て閉めると小さな個室になります。ここは将来2 人のお子様が大きくなった時、夫婦の寝室として使えるようプランニング。既存の間取りをほとんど変えないまま、S家族仕様のリビングが誕生しました。
ぼくたちの図書館
ダイニングのテーブルはこのお部屋に引っ越す少し前に、奥様が代官山のヴィンテージショップで一目惚れして購入したというデンマークのもの。部屋全体のトーンより少し濃度の高い赤褐色が、あたたかい団欒の空気を醸します。そんなテーブルにしっくりと馴染んでいるチェアの入手先を聞いて思わずびっくり。この椅子は、ご主人が以前勤めていたという図書館でもらってきたものなんだそう。奥様に言われてよく見てみると、座面の後ろにナンバーが割り振られたシールが付いていました。「『天童木工』というメーカーのものなんですが、図書館の建て替えで廃棄になる予定になっていたんです。勿体無いなと思って見ていたら、自分で手配するならいいよ、と持って帰らせてくれました。」とご主人。日本のメーカーの技術力を再確認させられるような美しい曲線を持つチェア。自然と背筋が伸びるような品の良さと、体を包み込むしなやかさを感じます。おとうさん、おかあさん用の図書館の椅子の隣には、カラフルな子ども用チェア。ここに座るのは、取材中元気いっぱいにスタッフと遊んでくれた息子さんと、常におとうさんの側で恥ずかそうにしていた娘さんです。まるで図書館のような大きな本棚に、ご主人の資料とお子さんの絵本やおもちゃが同居する様子が、S 家族をそのまま表しているようです。家族4 人、これからも同じ時間を共有していくこのリビング。棚を埋め尽くす家族色は、これから時間とともにより色濃くなっていくのでしょう。