モールテックス・タイル・木・ガラスの異素材が共存する、ラフでありながら上質な空間。そこには、料理を愛する夫婦のおいしい暮らしがありました。
空想も、現実も
都心から電車で約20分、穏やかな住宅地に立つ中古マンションに住むMさんは、ご主人は調理師、奥様は会社員のご夫婦。賃貸に住みながらずっとマイホーム探しをしていましたが、すでに出来上がっている家は、好みでない部分がたくさん目についてしまい、気が進まなかったと言います。「そんな感じで色々と見ていたんですけど、たまたま何かでnuリノベーション(以下、nu)を見つけて、なんかいいな!と。ホームページのつくりもリノベーションのスタイルも、洗練されていてカッコよかったんですよね。こんな風にできるなら、絶対リノベーションがいいと思って。妻はすでに他のリノベーション会社に目をつけていたようですが、『絶対nuさんの方がいい』って説得しました(笑)」と、ご主人は振り返ります。nuに相談に行ったところ、まったく押し売り感がなく、その安心感から依頼を即決。早々に仲介アドバイザーとの中古マンション探しがはじまりました。都心のレストランに勤めるご主人は、終業時間が遅く、お店から自宅まで終電で帰って来られる場所が必須条件。そのため、最初は都心部の物件を探していました。やるからには、nuのサービスの中でも『MARUGOTO』(スケルトンからの100%オーダー型フルリノベーション)でしっかりつくり込みたいと考えていたため、全体予算におけるリノベーション費用の割合は下げたくない。そこで譲歩案として都心部から少し離れたエリアまで視野を広げ、物件費用を抑えることにしました。10軒ほど内見した結果、この築26年、65.76㎡の中古マンションに到達。駅からの道が歩きやすかったこと、管理状態がよかったこと、自分たちでは手が入れられない共用部の状態もよかったことが決め手になりました。「どこかのマンションを内見したとき、カビている壁があって。私はリノベすれば平気だと思ったんですけど、nuのスタッフさんが『ここはそもそもカビる要素があるから、リノベしてもまたカビます』と教えてくれました。その他にも、『この壁は抜けないから、希望する間取りはできません』など、素人目には分からないことをプロの目線で教えてくれました。空想だけではなく、現実的なことも具体的に伝えてくれたし、nuさん的には言わない方がいいであろう情報も正直に伝えてくれて、私たちに寄り添ってくれている安心感がありました」と、奥様は振り返ります。
ユニークを求めて
休日は夫婦で料理を楽しみ、友人を招いて腕を振るうことも多いMさん。設計デザイナーはデザイン初期、この家に「trattoria(トラットリア)」というテーマを贈りました。trattoriaは、イタリアの家庭的なレストラン。気取らず過ごせるフランクな空間をイメージしました。
キッチンは、ご主人の熱烈な希望でモールテックスの腰壁に。水や油の染みを気にせず使えて、熱い鍋も置けるように、ステンレスの天板を採用しました。長身のご主人も体に負担なく料理できるように、一般的なキッチンより高さのある90cmで造作。パントリーも備え付けて、日々の料理を格段にラクにしました。
間取りは、友人を招けるようにLDKの面積を広く確保し、生活音や料理の香りを気にせず休めるように寝室はLDKから一番遠い位置に。仕事に忙しい夫婦のために、間取りで“動と静のメリハリ”をつけました。
「nuさんの事例を見ていたら、グレーの壁がいいなと思って、基調色はグレーにしてもらいました。白い空間より雰囲気があるし、洗練されていて生活感が出ないなと。実際に見てみたらグレーだと暗かったので、やわらかい印象のグレージュにしました。床ははじめから無垢材のフローリング希望でしたね。タイルやコンクリートだとショップみたいで、私たち的には落ち着かないなと。オーク無垢材をホワイトオイルで仕上げてもらっているんですけど、雰囲気があっていいですよね」と、ご主人。たまに素足で過ごして、木肌の気持ちよさを楽しんでいるそうです。
この家の特長は、玄関入ってすぐの、土間とWICを兼ねたユーティリティな空間。収納棚・作業台・ベンチの3役を兼ねた、存在感たっぷりなモールテックスのキャビネットが主役です。実はこのキャビネットが誕生するまでには、リノベーションならではのこんなエピソードが。
「実は、はじめからつくろうとしたわけではなく、ああしましょう、こうしましょうって相談していった結果なんです。というのも、せっかくnuさんに依頼したので、当初は奇抜な家にしようと思っていたんですね。でも、生活のことを考えていくうちに、いい意味で普通の間取りになっていって、ただの住みやすい家になっちゃったんです(笑)。これは面白くない、ちょっとどこかアレンジしたいよね!と考え直した結果、LDK以外ならやってもいいんじゃないかと。ちょうど玄関寄りにオープンタイプのWICをつくる予定だったので、それなら収納にも作業台にもなるキャビネットをつくろうかって」と、ご主人。こうして、設計デザイナーと二人三脚、暮らしやすさと遊びゴコロを両立した住まいをつくり上げていきました。
「WICとキャビネットのおかげで、収納はだいぶ助かっています。以前は一人ひとつのタンスを置いて、すぐ使わないものはスーツケースに詰め込んだり、かさばる冬物は実家に預けたりしていましたから。今は全部余裕で収まるし、以前より服が増えちゃいましたね(笑)」と、奥様。WICと洗濯機がある脱衣所が隣接しているので、“使う・洗う・仕舞う”が数歩で完結し、圧倒的に家事がラクになったそうです。
キャビネットは、帰宅後にバッグや買い物袋を一時置きするのに便利。バッグはそのまま土間空間に置けて、リビングに持ち込まなくて済むから衛生的です。玄関を開けた瞬間に素敵な空間が広がることで、帰宅するたびに気分が上がるのだとか。
まもなくオープン
リノベーションから1年6ヶ月、この家での暮らしにすっかり馴染んできているというMさん。
特に壁に造作棚やニッチを設けたことが大正解で、棚は入れるものに合わせて設計しているから見た目も美しく、収納家具を置かなくて済むので床が広々使えています。
「こんな家がほしい、こんな暮らしがしたいと明確な理想があるなら、絶対にリノベがいいと思います。設計デザイナーさんは『こんなこともできるんだ』と驚くような提案をたくさんしてくれて、私たちが考えていたことは全然たいしたことじゃなかったと分かりました。やっぱりプロ、すごく勉強になりましたね」と、奥様。
それぞれの仕事柄、休日が合わないものの、ご主人は読書やネットサーフィン、奥様はお掃除と、思い思いに家での休日をエンジョイ中。世情の影響で友人を呼ぶ計画はまだ実現していませんが、ようやく落ち着きを取り戻しはじめた昨今、“家なかレストラン”のオープン日も間近の予感です。
「以前は『こんなインテリアいいな』と思っても、どうせ賃貸の空間には合わないと思って買えなかったけど、今は欲しいものが買えるようになりました。こだわりって際限がないから、まだ満足していないですけど、確実に幸せになっています。新しいものが仲間入りしたら、よさそうな場所に置いて写真を撮って、俯瞰目線でチェックするんですよ。もっとこうした方がカッコイイなとか。あ、インスタグラムはやってないですけど(笑)」と、ご主人は笑います。
これからはこの空間に友人の笑い声や料理の香りも加わって、ますますMさんらしい家に育っていくことでしょう。
Interview & text 安藤小百合