ノスタルジーなベージュ色の壁に、所狭しと並んだヴィンテージ家具がしっくりと馴染むM邸。愛着のあるモノに囲まれて過ごす、Mさん一家を取材しました。
こだわりのカタチ
一点ものを扱うヴィンテージショップのような、“唯一無二“の雰囲気を放つM邸。ここに暮らすのはご夫婦と、一歳半の娘さんの三人家族です。当時住んでいた賃貸の更新を機に、ご自宅の購入に向けて動き出したお二人。新築も検討していたそうですが、「学生の頃からインテリアが好きだったので、自由度の高い家づくりに憧れがありました。リノベーションならそれが叶えられると思って」とご主人。そんな背景から、設計打合せ回数が無制限で、とことん家づくりに向き合えると感じた点が決め手となり、nuリノベーション(以下、nu)に依頼することを決めたそう。さっそくnuと一緒に物件探しを開始し、当初は職場に近い世田谷区で探していましたが、中々ピンとくるものに出合えず、お隣の目黒区までエリアを拡大。すると、学芸大学駅が最寄りのとある物件に巡り合ったそう。「ここはとにかく眺望が良くて、窓からちゃんと空が見えるというか、抜け感があるんです。それに築年数(当時で築40年)を感じさせないくらい共用部が綺麗だったのも好印象で。アドバイザーの方が『物件選びは、管理状態の見極めが大切です!』と言っていたので、そこも重要視しました」と奥様。実は学芸大学駅に降りたのは内見の時が初めてだったそうですが、街には定番のチェーン店からお洒落な個人店までたくさんのお店が軒を連ねており、「生活に不便はないです!」とにっこり。自転車に乗れば駒沢など緑が多い方面へも気軽に遊びに行くことができるので、休日は家族で公園を訪れることも多いそう。
家具で彩るハコ
家具はリノベーションを機に新調したものがほとんど。その大半を占めているのは、ご主人が大好きなブランド『ACME Furniture』のオリジナルとヴィンテージ家具の数々です。そしてそれらを一層引き立てているのは、柔らかなベージュの壁と無垢オーク材をアンティークゴールドに塗装した床が醸すノスタルジーな雰囲気。「デザインで一番こだわったのは、壁と床です。家具で彩っていく前提だったので、空間自体はシンプルに仕上げたくて。そうなると壁と床がすごく重要だなと。池袋に『Baro(ベロ)』という行きつけの古着屋さんがあるのですが、そこのヴィンテージライクな内装を参考に壁と床の素材を決めていきました」とご主人。壁の一部は「左官の仕上がりが好き」という夫妻の要望で、珪藻土を使用。塗り方ひとつで表情が変わる左官仕上げの中でも、M邸では少し荒っぽさを残したランダム仕上げを採用しました。ざらっとしたテクスチャーは職人の手仕事ならではの風合いが感じられ、素材感を大切にした家具とも相性抜群です。特にソファの上部に飾られたシャドーボックスは、M邸のアイデンティティーのひとつ。これは大阪の『WANT ANTIQUE』から取り寄せたという一点もので、横幅は2m弱と圧倒的な存在感を放っています。他にもアートピースのような『Point No.39』のシャンデリアなど、様々なインテリアが同居するM邸。約25Jの開放的なLDKは、物件の構造上壊せなかったという壁でDKとリビングが緩やかにゾーニングされていて、個性ある家具同士がケンカせず調和しているというのもまたM邸の特徴です。
インテリア好きのご主人が中心となり、設計デザインを進めていったという今回のリノベーション。その中でもキッチンスペースには、奥さまのこだわりが詰まっています。「nuの施工事例に、腰壁にモールディングを施したキッチンがあって。それを見て我が家にも取り入れました」と話すように、限りなく白いに近いベージュのモールディングの腰壁が、家具に劣らずクラシックな美しさを放っています。また、「当初天板はステンレスを検討していたのですが、毎日の掃除を考えると悩ましい部分もあって。最終的には比較的お手入れのしやすい人工大理石の天板を選んで、家事が少しでも楽になるよう食洗機などもカスタムしました」と奥様。キッチンに立つとダイニングはもちろん、リビングで遊ぶ娘さんの様子まで見渡すことができ、家族の顔を見ながら料理がしたいという奥様の要望をカタチにしました。キッチンと同じく白系で統一されたバックカウンターは、置き家具で対応。家具の一部はご主人の行きつけの古着屋『Baro』でディスプレイとして使われていたキャビネットだそうで、「ちょうど設計中に、建物の老朽化で『Baro』が改装することになって、色々と安く譲ってもらったんです。空間にもマッチしているので、結構気に入ってます。電子レンジが置いてあるキャビネットは『journal standard』で購入したものなんですが、キッチンに馴染むよう自分で白っぽく塗装して、取っ手もシルバーのパーツに付け替えました」とご主人。その徹底したこだわりは家全体にも現れていて、洗面スペースやトイレもリビングと同じヴィンテージテイストで統一。上品なベージュのタイルに、一つひとつ吟味して選んだ味わいのあるパーツが雰囲気を掻き立て、毎日何気なく立ち寄る場所を“気分の上がる場所”へと昇華させています。
育むヴィンテージ
Mさん一家がここに暮らし始めて約一年半が経過。入居と同じ頃に娘さんが誕生し、よりにぎやかな毎日を送っているそう。DIY以外にも手仕事が好きなご主人は最近、バジルやケールなどの植物を育てることにハマっていて、「ベランダでサクッと摘んだものを料理にトッピングして、おうち時間を楽しんでいます」とにっこり笑う奥様。例外でなくインテリアも順調に増えていて、そのラインナップは沖縄旅行で出合った大きなミラーなど一期一会のものから、馴染みのショップで買い揃えたアイテムまで多岐にわたります。「インテリア選びのコツはありますか?」と尋ねると、「…んー。好きなものを集めていったらこんな感じになりました」とはにかむご主人。壁と床にとことんこだわり、そのほかは必要以上に飾り立てない“シンプルなハコ“としてあつらえたM邸。自由にコーディネートを楽しめる余白を残したこの空間は、家具を愛するご主人と、そのこだわりを尊重する奥さまにとっての最適解であることをひしひしと感じます。
クラフトな素材が織りなすあたたかみが、愛着のある家具を、そしてそこで暮らす家族3人をそっと包み込んでいるM邸。これから先、どんな風に住まいを育み続けていくのか、数十年後のM邸の様子が楽しみです。