コンクリート現しの壁に幅広の無垢オークフローリング。そこにヴィンテージの家具や思い出の写真を飾ることで自分たちの色を足していくラフスケッチ…
キャンバスを探して
荻窪駅から徒歩10分程。ローカルな雰囲気漂う街に、S一家のお宅があります。S一家は、インテリア業界で働くご主人と、カメラが趣味の奥様、そして4歳の息子さんの3人家族。以前住んでいたお住まいは、同じ荻窪近辺で賃貸。お子様が生まれてからも約40㎡の家に3人で暮らしていたため、早く引っ越しをしたいと考えていたそう。昨年の消費税増税のタイミングで、家の購入を決断。お子様が既に保育園に入っていたのでエリアは限定し、長年住んでいた杉並区エリアで物件探しをスタートしました。リノベーションという方法は、4~5年前から知っていたS夫妻。杉並区で家を購入するのであれば、新築では予算が合いません。そのため中古マンションを購入しようと自然に考えておりました。また内装は自分たちの思い通りに造りたいのでリノベーションしたいよね、と話し合っていました。ご夫妻共に、実家は戸建。しかし、管理環境の良さと平屋のような動線という利点から迷わずマンションを選択されたそう。リノベ会社数社に問い合わせをし、数社の相談会にも参加したというS夫妻。参加した中で、nuは相談会でのプレゼンテーションの丁寧さと熱さに心を打たれ「ここにしよう」と決めたと言います。改めて、荻窪近辺で70㎡以上、南向きで日当りの良いところを条件に、nuアドバイザーと物件探しを再開します。もともとリノベについて知識もあったため、築年数が古くてもリノベーションでなら内装はどうにでもになるという考えがありました。そのため築年数についてはそれほど気にしていなかったそう。探しているうちに、実は当初から気になっていた築35年の荻窪の物件に再びたどりつくS夫妻。実は90㎡以上の部屋にも空きがあったと言いますが、その部屋だと壊せない壁が多かったり、南向きではなかったりと、Sさんの希望通りのリノベーションが出来るか不安がありました。nuアドバイザーからも「Sさんの希望通りのリノベーションをするなら70㎡の部屋の方がよいと思います。こちらならば完全にスケルトン状態に出来ますので、広いリビングと、理想のキッチンを実現可能ですし、南向きで気持ちが良いですよ。」と後押しされたそう。更に、今までの家にはなかった眺望の良さも決めてとなり、70平米のこのお宅に決めました。
空間はラフで、動線はすっきり
モルタルやラフな塗装が施されたような、ざっくりした雰囲気の空間が好きなS夫妻。二人でカフェや雑貨店を巡るときも、自然とそんな印象のお店を選んで入っているのだとか。物件探しのときから希望していたのは、とにかく広いリビングと大きなキッチン。そして、無駄な動線をつくらないということでした。そんな要望をデザイナーに伝え、デザイナーから返って来たアンサーは「DRAFT(ドラフト)」というコンセプト。ざっくりとしたスケッチのような空間に、少しずつ色を重ねていく…そんな楽しみ方の出来るイエです。間取りも3案提案されましたが、やっぱりお二人が選んだのは一番リビングの広い案。玄関を入ってすぐに黒いフレームのガラス戸があり、幅広のオークフローリングが敷き詰められたリビングが奥まで見渡せます。そのドアを開ける手前には、左右にご夫妻の寝室と、お子様の寝室を用意。それ以外は、全てドアの向こうに計画しました。ドアを開けるとまずは左手にオープンな洗面スペース。「扉を付けて”部屋” にしてしまうとどうしても無駄なスペースが出来てしまうと思って。しかも帰って来てすぐに手も洗えて、目に入るところなのでいつもキレイを保てるし、とっても気に入っています。」と奥様。その横には、もっともこだわった大きな作業台のあるキッチン。以前の家のキッチンは壁向きでとにかく狭く、もっと明るい場所で楽しくお料理がしたい!と考えていました。そのため、リノベ後は広い調理スペースで作業をしながら、家族の顔が見えるようにしたかった奥様。ざっくりとした雰囲気に合うように、キッチンもモルタルのような素材で造りたかったと言います。しかし、キッチン全体をモルタルで造るとなると、どうしても予算が合いませんでした。そこでデザイナーが提案したのは、フレキシブルボード。見た目はモルタルのような質感で、普段は外壁に使われる素材なので、モルタルよりも水や汚れにも強いという素材!これはまさにキッチン向き!と即決だったそう。完成してみても、素材に違和感もなく空間に馴染んでいて、良い選択でした。そして念願であった、家族の顔が見渡せる対面式のオープンキッチン。作業台の奥行きも90センチで、料理のしやすさはピカイチです。また、このお宅で特徴的な点はバスルームの位置。通常洗面スペースやトイレの隣に位置していることが多いバスルームですが、S宅ではリビングの一角に配置されています。「前の家は、顔を洗ったり着替えたりと、リビングで身支度が完結するような間取り。それがとても便利だったんです。だから、そのアイディアはどうしてもを取り入れたくて。」洗面スペースにも通じることですが、それぞれをあえて別の部屋につくらず、同じ空間の中に納めることで廊下が減って効率的な動線が実現します。Sさんは、これまでの生活を通じて自然とそれが快適だということを感じていたんです。しかしリビングに突如としてバスルームがあるのも、少々違和感があります。そこで思いついたのは、バスルームへの入口の扉を工夫するということ。木で出来たルーバーの開き扉をつけて脱衣スペースも湿気がこもらないようにしてあります。訪れて最初に見たときは、そこに収納があるかと勘違いしたほど。こういった暮らしのアイディアがそのままSさんのセンスに結びついているのだと感じました。
少しずつ塗り足されて行く色
塗装のされていない未完成状態での引き渡し。それは、S夫妻が「家の塗装は、自分たちでやります!」と提案されたから。一歩足を踏み入れると「広い!」と思ったもののまだまだ完成には程遠く、これから塗装が待っているんだ…と「気合いを入れ直さなければなりませんでしたね(笑)」とご主人。しかし、これぞDRAFT!ラフな下書きの状態に、自分色を重ねるという作業がコンセプト通りでした。引越し前に毎日のように現場まで通い、約3週間程度で完成。自分たちの思うままに塗装していくその作業は達成感があったと言います。完成した空間に、二人で見つけたという地方のヴィンテージショップで見つけた家具を少しずつ足して行くと、S一家だけのオリジナル空間が見えてきました。「引越し後に変わったことは、夜の過ごし方です。前の家には、子供部屋とリビングを遮る壁がなかったので、子供が寝た後にはヘッドフォンで静かにTVを見ていたんです(笑)。でも今は、気にすることなくお酒片手に夫婦で会話を楽しんでいます。」とお二人。でも、それにもまさって一番HAPPYな時は、家族で食卓を囲んでいるときなんだとか。みんなが心地よい空間だと感じられる場所で過ごす、大切な時間。まだまだラフな下書きの空間に、今後どのような色が足されていくのでしょうか。