スピーカーから耳馴染みの良いリズミカルな音楽が流れる休日の午後。
カフェで寛ぐ一コマを切り取ったような、ゆったりとした時間が流れるお宅にお邪魔しました。
“この街”に住まうことの意味
「等々力という場所にこだわって物件を探しました。都心ぽくない、のんびりとした時間が流れているこの街が好きです」と話すK夫妻は、昨年、等々力にある築18年のマンションをリノベーションしました。以前も今の家から徒歩圏内に住んでいて、ご主人は独身時代も含めると等々力に暮らし始めてもう10年以上が経つのだそう。夏には近所の人と神輿を担ぐなど地域のイベントに積極的に参加し、すでにこの地域での関係性を構築していたこともあって、“等々力で家を購入する”という選択は自然な流れだったと言います。しかし、家を買うといってもこのエリアで新築というのは予算に合いません。それに新築では好きな間取りや内装には出会えないと感じていたため、リノベ済み物件やリノベ会社を重点的にリサーチし始めます。そしてHPに掲載されていた豊富な施工事例に目が止まったnuリノベーション(以下、nu)の個別セミナーに参加。「リノベ済み物件も検討していたけれど、やっぱり100%自分たち好みに仕上げるには自分たちでリノベするしかないと思って」と奥様。「それに、担当の仲介アドバイザーの人柄も好印象で。単に、営業と顧客というかんじではなく、『一緒に家づくりをしていきましょう!』というスタンスが感じられて、nuさんにお願いしたいと思ったんです」とはにかむご主人。
それから等々力エリア一択に絞り、物件探しを開始。絶対条件である立地はもちろんのこと、部屋の階数や比較的築浅だという希望条件も満たしていた今のマンションを購入し、馴染みのある街で新たな暮らしをスタートさせました。
キーワードは「つながり」
設計期間中、好みのテイストや叶えたい要望のイメージを纏めたPinterestのアカウントを設計デザイナーに共有して打合せを進めていったというK夫妻。『ちょっぴり荒々しくて、前から持っているアイアンのインテリアと調和するような空間にしたい…』と、頭の中で膨らませていたイメージは打合せを重ねるごとにより明確になり、最終的にはブラックを要所に取り入れ、素材の質感が活きた無骨な空間をリクエスト。そして夫妻のもう一つの要望は、どこにいても家族の雰囲気が感じられるつながりのある空間にするということ。「以前の家はLDKと寝室が隣接していたので、各々が別の場所にいてもお互いの気配を感じられる空間でした。その距離感を心地よく思っていたので、新しい家でもそういう暮らし方がしたいと思ったんです」とご主人。そんなお2人の想いに設計デザイナーは『hammon』というコンセプトをご提案。水面に幾重に広がる波紋(hammon)のように、お互いの空気感が空間全体に伝わっていくような、つながりのある家をイメージしました。
こうして完成したのは約18畳のLDKと、その隣に寝室を配置した1LDKのプラン。以前の家から継承したアイアンのシャンデリアがよく似合うリビングは、コンクリート現しの天井やあえて剥き出しにしたダクトなど無骨な要素を取り入れつつも、アッシュ色に染まったヘリンボーンの床が気品のある印象を演出。LDKに最大限のスペースを割いたのには友人を招いてホームパーティーを開くことが多いという理由もあったといいます。「多い時で8人くらいが一度に遊びに来ましたが、大人数でも窮屈を感じずに寛ぐことができるのでうれしいです」とご主人。来客時は奥様がおつまみなどを作ることが多いため、調理中でも会話が楽しめるようキッチンは対面式に。壁に施したライトグレーのタイルは夫婦で良く訪れる近所のワインバーの内装が気に入り、同じタイルを探して選んだのだそう。
そしてLDKに隣接するのは、扉を取り払った開放的なベッドルーム。緩やかにゾーニングされているため、キッチンに立つ奥様が『朝ごはんできたよ!』と、寝室にいるご主人に呼びかければ声が届く。そんな風にいつでもコミュニケーションが図れる間取りになっています。さらに廊下に面した壁2面には内窓を設け、空間全体とのつながりも意識。通風や採光を確保するという目的はもちろんですが、内窓のビジュアルをデザインとして空間に落とし込みたいと考えていた奥様は、たっぷりと時間をかけて仕様や形状を決めていったのだとか。「枠の色をブラックにすることは決めていましたが、形はとても悩みました。『真四角すぎると学校ぽくなっちゃうね。これはイメージと違うかも?』など話し合いをしながら何パターンか提案していただいて、今の形に落ち着きました。黒枠にゴールドの取っ手という組み合わせも可愛くて、気に入っています」とにっこり。また一部を開閉式にしているため風通しも良好だそうで、「リビングの窓から入る風が寝室まで届くので、快適に気持ち良く過ごせています」とご主人。
爽やかな風と共に夫妻の醸し出す穏やかな雰囲気が空間全体に波紋し、そこに心地よい時間が流れていることを感じさせてくれます。
リノベの波紋
2人掛けの小さなテーブルが2つ置かれたダイニングは、まるでカフェの店内のよう。実はこのインテリアはご主人のこだわりで、「完璧に作り込まれたような空間は好みではないけれど、生活感が全面に出るのは嫌で。だからあえてスパンの短いテーブルを2つ配置したり、カフェのような雰囲気が出せるようコーディネートしました」とご主人。実際に遊びにきた友人からも好評で、『リノベってこんな風にできるんだ!お店みたいでおしゃれ!」と声を掛けられたのだとか。「この前のホームパーティーでは、プロジェクターを使ってジブリ上映会をしました。リノベしたら大画面で映画やF1鑑賞をするのが夢だったので、やっと現実になってうれしいです!」と、この家での新たな暮らしを楽しんでいる様子が存分に伝わってきて、K邸にはすでにお2人のこだわりや想いが波紋してきているのだなぁと感じました。