クリームのようなベージュに、Rを描いた角や壁。人にやさしいデザインにこだわった空間で過ごす、身も心もととのったゆとりのある暮らしとは。
グッと来ました
都心を静かに流れる川沿いのマンション。この家に住むKさんは、ご主人がプロダクトデザイナー、奥様がマーチャンダイザーというクリエイターご夫婦です。以前は賃貸にお住まいでしたが、新型コロナウィルスの影響でそれぞれのワークスペースが必要になったことなどから、家を持つことを考えたと言います。
「以前からリノベーションには興味がありました。数年前にインテリアにこだわり出してから、どんなに良い家具を賃貸の床や壁の中に置いても、どうにもならないことに気づいてしまって(笑)。やっぱり、リノベーションで好きな空間をつくるしかないと思いました」。
偶然にも奥様のご友人がnuリノベーション(以下、nu)でリノベーションをしていたことから、nuのオンライン個別セミナーと完成見学会に参加してみることに。そこでご主人は、意外なポイントに心をつかまれたそうです。
「nuさんのWEBサイトやパンフレットがどれも綺麗で。書類を持ちかえるためのエコバッグのデザインもよくて、グッと来ました(笑)。私はデザインの仕事をしているので、そういうものの綺麗さも気になってしまうんです。その他にも、nuさんの施工事例はデザインテイストの偏りがないこと、フルオーダーメイドでパッケージ化されていないことも良かったですね。私たちは箱のデザインにこだわるのではなく、中に置くもので個性を出したかったので、シンプルで綺麗な空間をつくりたくて。だから繊細な部分にまでこだわってくれるリノベ会社が良かったんです」。
共働きのKさんは時間に制約があるので、物件探しからリノベーションまでワンストップで依頼できること、サポートが手厚いこともnuの魅力の一つだったと言います。
「完成見学会でアテンドしてくれたアドバイザーの方々が、ものすごく丁寧で。住宅ローンのこと、物件探しのこと、その他私たちが知らないこと、すべてにおいてメリットもデメリットも教えてくださいました。誠実で、信頼感がめちゃめちゃあって、この方々なら大丈夫だなと思いましたね」と、奥様は笑顔で振り返ります。
リバービューの住まいにあこがれていた奥様の要望どおり、築41年、72.09㎡の川沿いに位置するこの中古マンションを購入。こうして、Kさんご夫婦とnu、二人三脚でのリノベーションが始まりました。
細部に宿る繊細さ
この家の特徴は、壁・床・天井すべてがベージュであること。実はこれ、ありそうでなかなかない配色です。
「素材にはこだわりたいと思っていて、人工的なものやフェイクっぽい表現は避けたいと思っていました。ちゃんと素材が生きている、肩肘張らない雰囲気にしたかったですね。そうなるとシンプルな見た目の空間になりますが、真っ白だと緊張感がある。そこで、ベージュにすることにしたんです。そもそも、私は王道からちょっと外れているものが好きで。白い空間って皆やるから、人と違うという意味でもベージュは良かったですね」とご主人。設計デザイナーの提案で、天井の躯体もベージュに塗装し、やや黄味が強いオークフローリングはオリジナルで彩度が落ちるように塗装しました。実際にものを置いてみてもベージュは色んなものを受け入れてくれて、お気に入りの「Vitra」の家具、賃貸から持ってきたインテリア、ヴィンテージの家具、「IKEA」や旅先で購入したカラフルな置物など、あらゆるアイテムがしっくりと馴染んでいます。
間取り面では、LDKを広く取ること、広々とした壁付けキッチンをリクエスト。たまたま見つけた海外の壁付けキッチンの写真にインスパイアされたのだとか。そうして完成したのが、オーダーメイドでつくった全長約6mの壁付けキッチンです。キッチンの延長線上に小ぶりなパントリーを設け、冷蔵庫を収納してLDKから見えないように。使い勝手は良いままに、生活感をなくすことに成功しました。
モノが多いKさんご夫婦は、WICと土間もリクエスト。「単純に土間へのあこがれがあって」設けたものの、自転車、キャンプギア、シューズなどをすっきり収納できて助かっているそうです。そして、日の光が家の端から端まで届くよう、LDKの建具をガラス戸にしたり、寝室は回遊できる間仕切り壁で仕切ったりすることで、光の通り道を確保しました。
そしてK邸を語る上で外せないのが、要所に施したRの意匠。リビングやキッチン、玄関の間仕切り壁のコーナーは、角が出ないよう、半径が5cmの円を描くカーブに設えました。
「すごく細かいんですけど、私、角が出るのが嫌で。日頃から製品のデザインをしているので、手触りの良い雰囲気を出したかったんです。動線の中にある角はすべて丸めてもらって、とがった要素をできる限り取り除いてもらいました。Rの大きさもいやらしい感じではなく、気が利いているなと思える塩梅で(笑)」と、ご主人は笑います。
プロダクトデザイナーであるご主人だからこそできる、細部まで繊細さを宿す心づかい。直線とシャープな曲線の絶妙なバランスは、感覚が研ぎ澄まされたKさんご夫婦をあらわしているかのようです。
ゆとりと自然を感じて
この家に住みはじめて2カ月。賃貸から持ってきたソファ、チェア、サイドテーブルも、すっかりリラックスしているよう。
「どこに出かけても、帰ってくるたびに『かっこいい家だな』と思います。感激しているのが、家の中に何も置いていない空間があること。賃貸時代は隙間さえあれば棚を置いて収納場所にしていたのに、今は収納にメリハリを持てているので、何も置かない場所が確保できています。すごく綺麗な空間をつくってもらったので、何も置かない場所すら映えるんですよね。そこに何か置いてもいいんですが、あえて置かないようにしているかな」とご主人。
照明は建築照明をなるべく避けて、ダイニングやテレビ横の「FLOS」、赤いコードの「PLUMEN」など、こだわりの間接照明を採用しました。おかげで夜はとてもリラックスして過ごせるそうで、そこにはK邸のコンセプト『ととのい』を体現したような憩いの時間が流れています。料理好きなお二人は一緒にキッチンに立つことも多く、広々としたカウンターやガスオーブンを使いこなして、色んなレパートリーの調理を楽しんでいるのだとか。
「何より、朝がいいですね。窓から川を眺められて、窓を開けると風が通って。こんなに都心なのに朝は意外と静かで、木がワサワサする音や鳥のさえずりが聞こえるんです。その中で一緒に朝ご飯を食べて……良い暮らしになったなと思いますね」と奥様。朝食づくり担当はご主人で、毎朝豆からコーヒーを淹れているそうです。
すでにこの家での暮らしを満喫しているKさんご夫婦。これからの展望を尋ねてみると、「……ぱっと思いつかないですね。すでに相当満足しているので(笑)。図面やパースの時点でも良かったけれど、実際に住んでみて色々置いてみたらもっと良く感じています。良い家に住むと気分がいいなと改めて思いましたし、リノベーションして本当に良かったですね。期待を上回って120点です!」とほほ笑むご夫婦。自分たちの感性に合った環境と住まいを手に入れ、ますます仕事のクリエイティビティが高まりそうです。
Interviewer & text 安藤小百合