独立壁とカーテンで仕切られた、まるでワンルームのような扉のない1LDK。慎重に創り上げた大胆な空間を思いのままに楽しむ、K夫妻を訪ねました。
慎重派夫婦のリノベ
神奈川県川崎市。賑やかな駅前を抜けて10分ほど歩くと見えてくるマンションの一室に、K夫妻がリノベーションして暮らすお宅があります。「夫婦揃ってわりと慎重派で…」というK夫妻は、家づくりのスタートを切る前にも、じっくりと時間をかけて計画を練ったそう。
「リノベーションという選択肢は5〜6年前から頭にありましたが、なかなか一歩踏み出せずにいて。そんな中で、近隣で開催されていたnuリノベーション(以下、nu)さんの完成見学会に参加したんです。当時リノベーションをあまり知らなかった妻とも『すごい!かわいい!』と興奮して(笑)。それでもやっぱり、すぐに物件を探し始めるというわけではなく、そこから更に1年間、自分たちで情報収集をした上で計画をスタートしました」とご主人。
情報収集の際にはSNS、Pinterest、雑誌などを駆使し、物件探しとリノベーションをワンストップで頼めること、そして何より自分たちの求める家づくりができることを重視して会社選びをしたといいます。「まずは夫婦でそれぞれ好きな空間の画像を集めよう、ということになって。お互いに保存した画像を見せ合ってみると、ほとんどがnuさんの施工事例だったんです。検討期間をじっくり設けた分『nuさんにお願いしよう』と決めてからは、nuさん一択でした!」と嬉しい言葉をかけてくださった奥様。こうして、まずは理想の物件を求め、アドバイザーとの物件探しがスタートしました。
1年の物件探しを経て巡り会った今のご自宅は、「実はこのエリアにも特に馴染みがあったわけではないんです。職場へのアクセスが良かったので、たまたま内見してみようということになって。LDKの窓がちょうど目の前の公園の木と同じ高さなので、部屋に入った瞬間に緑が一面に広がっていて『気持ちのいい物件だな』と思ったんです」と奥様。また、当初から壁や天井の躯体現しを希望していたK夫妻は、「この物件は躯体の状態もきれいに出てきそうです!」とアドバイザーから背中を押されたことも、物件購入の決め手になったんだとか。
大きな余白を彩る
K夫妻が購入した物件は、フルリフォーム済み。当初はスケルトンからのリノベーションを検討していましたが、物件価格との兼ね合いで設備を生かした部分的なリノベーションにシフトチェンジしたといいます。「基本的に扉はいらないなぁと思っていて。回遊性をもたせた開放的な間取りにしたいというイメージを持っていました」とご主人。また、子供服のパタンナーをしている奥様の仕事場をゆったり設けること、大好きな服や靴が仕舞い切れる広々とした収納を確保することが絶対条件でした。
「打合せ期間は、正直結構長く感じました。決めることもたくさんあるし、自分たちもなかなか決められない性格なので宿題として持ち帰ることが多くて(笑)。それでも、担当デザイナーさんが私たちの好みに合わせてサンプルを取り寄せてくれたり、私たちもショールームに足を運んで、気に入った素材をデザイナーさんにお伝えしたり。一緒に少しずつ、理想の空間を創り上げていくことができました」。
そうして完成したのは、コンクリートやモールテックスのグレーと、オークを基調とした木のラフな質感が融合した1LDK+WICプラン。ただ、1LDKといっても完全に個室化された空間はなく、リビングから玄関やWICなど家の隅々まで見渡せるのはK邸ならでは。ご主人が当初からイメージしていた開放的な大空間となりました。
扉の代わりに空間を仕切るのは、リネン素材を織り込んだ手触りのいいテキスタイル。躯体天井から直にレールを吊るし、天井とカーテンの間に抜けをつくることで軽やかな余白を表現しました。玄関側からカーテンを開けていくと、まず出現するのは土間収納。お気に入りのシューズが満載されたスチールラックを横目に突き当たりを進んでいくと、WIC・寝室を通じてLDKまで回遊できます。さらにカーテンを開けていくと、廊下に面した幅約3mのワークスペースがお目見え。ミシンやPC作業をするための造作カウンターの隣には、トルソーやバッグを収納できるスペースも設けました。「生地や完成した作品などは処分してもすぐに結構な量が溜まってしまうので、カーテンを閉めるだけでスッキリと片付くのは助かっています」と奥様も嬉しそうな表情。
既存利用したというキッチンは、本体を脱着して少しLD寄りに移設。キッチン背面の空間を拡大することで、冷蔵庫などもすっぽりと収まるパントリーを設けました。キッチンを囲う腰壁の仕上げにはモールテックスを採用し、既存部分とリノベーション空間をバランスよく調和しています。
また、当初ご主人は床を全面モールテックス仕上げとすることも検討していましたが、「リビング・ダイニングは“休む場所”としてデザインしたい」という奥様たっての希望で、LDのみラフで温かい木目のオークフローリングを採用。「集めていたイメージ画像にもこういった張り分けをされている事例が多くて、色々と参考にさせていただきました」とK夫妻。リノベーション後、一番最初に購入したという「TRUCK FURNITURE」のソファやダイニングテーブルとも相性が良く、居心地のいいホリスティックな空間を創り出しています。
そんなLDKやワークスペースを含め、K邸を見渡していて印象的なのは備え付けの収納がほとんどないということ。「造作収納なども検討しましたが、コストなどの都合もあり一旦断念することにしました。だから入居した際は本当に空っぽという感じで(笑)。リビングに置いている棚なども、入居してから少しずつDIYしたり気に入ったものを買い足していったりして、次第に今の形に落ち着いていきました」。「仕事関係の資料も、今は寝室のラックに収納していて使うときに持ってくるスタイルですが、ゆくゆくはワークスペースの壁に棚をつけたいなと思っていて…」と、今後の展望を少しずつ教えてくださったK夫妻。
まずは暮らすための土台として不可欠な部分をしっかりと造り込み、住みながらその余白を彩っていく…。丁寧に決断するK夫妻だからこそ、一つ一つの空間が心地よく共存する大空間が実現するのだと感じさせられます。
やさしい距離感
家で過ごしていて一番幸せな時間は?という質問に、「えー、たくさんあって難しいなぁ(笑)」と笑い合うK夫妻。その表情からは、この家での暮らしを存分に楽しんでいる様子が伝わってきます。なかでもご主人が一番幸せを感じる瞬間としてあげたのは、意外にも奥様がワークスペースでお仕事をしている姿をLDKから眺めている時だそうで、「仕事柄、ミシンやトルソー、PCを並べて作業をしないといけないので、結構スペースが必要なんです。数年前にリモートワークが増えてからは以前の賃貸で狭そうに作業している姿を見てきたので、今、専用のワークスペースで生き生きと仕事をしている姿を見ると、リノベーションして良かったなぁって思うんですよね」。
「初めて聞いた!本当にー?(笑)」とツッコミを入れる奥様も「ひと繋がりの空間ではあるんですが、リビングとワークスペースを離してレイアウトしたおかげで、お互いに気兼ねなく自分の時間を過ごすことができます。それぞれが別のことをしているけど、何をしているのかは感じ合える、この距離感が心地いいですね」と続けます。
緩やかにゾーニングされた大空間。お互いを尊重し合うK夫妻のやさしい空気感に包まれ、これからもK邸は進化を続けていきます。