ノイズレスな空間に映える、表情豊かな無垢フローリング。端正な空間に流れるよどみない日々には、所有とは対極の「真の豊かさ」がありました。
家族の土台
歴史的建造物が多く残る、埼玉県川越市。この街に立つマンションに住むのは、Oさんご夫婦と愛犬のトトちゃんです。長らく長野県に住んでいましたが、ご主人の転職を機に、ご主人の地元であるこの地に移住しました。
「長野でも土地や改装できそうな古民家を探していましたが、ピンと来る所がなくて。そうこうしているうちにコロナ禍になり、今後の生き方を見つめ直して転職を決めたんです」と、ご主人。移住当初はご主人の実家に同居していましたが、これからの家族の土台を整えたいと、マイホーム取得に踏み切りました。
「長野で素敵な平屋をたくさん見てきたからか、2階建てよりも平屋にキュンとしていて。この街で平屋は難しいけれど、平屋のように住むならマンションかなって」と、ご主人。あまり手を入れないつもりで築浅の物件を10軒ほど内見したものの、平均値に揃えられている間取りや建具にはグッと来ず。平屋で感じた開放的な間取りや木のあたたかさを思い出し、「いっそゴッソリ変えよう」と、フルリノベーション前提で築古物件も視野に入れることにしました。
ここで耳を澄ませたいのが、Oさん流・リノベーション会社の選び方。奥様は白金にあるYAECA HOME STOREが大好きで、そこから逆引きしていったと言います。
「YAECA HOME STOREの建物は、外国人が住んでいた邸宅をリノベーションしたものなんです。そこからインスピレーションを受けて家づくりした人っていないのかなと思って、検索してみたら、いた(笑)。それが、nuリノベーション(以下nu)さんの『tone』という事例でした」と、興奮気味に話す奥様。nuなら共通言語があるはず、自分たちの言葉の意図を汲んでもらえるはずだと、光が差したのだそう。
早速、nuの完成物件見学会に参加したOさん。LDKの中央部にステンレスキッチンがドンと置かれた間取り、壁沿いに造作されたギャラリーのようなベンチなど、ユニークな空間を見て驚いたと言います。nuのアドバイザーからお客様が希望したことやデザインの背景を聞き、住む人がしたい暮らしをちゃんと落とし込んでくれることを確信。早々に、アドバイザーと共に物件探しをリスタートしました。購入したこのマンションは、なんと内見した1軒目なのだとか。
「すごかった、早さが(笑)。耐震基準もギリギリ満たしていたし、正面に富士山が見えるし、南西向きだから日当たりもいいし、風の抜けもいい。色んなことが絶妙に叶っているし、アドバイザーも『この物件はリノベのやり甲斐がありますよ』と言ってくれたので、安心して即決しました」と、ご夫婦は笑います。こうして、築39年、68㎡の中古マンションを購入し、念願の“家族の土台づくり”が始まりました。
スンとする暮らし
埼玉のビールメーカーに勤めるご主人が持つクラフトマンシップと、ヨガ講師の奥様が持つ研ぎ澄まされた感性。お二人にはそれぞれの価値観が融合した独自の哲学があり、家づくりにもそれを全面的に落とし込みました。
「YAECA HOME STOREに行くと、スンとするんです。そのスンとするような暮らしをしたいって、ずっと思っていました。一日の始まりと終わりが整って、家に帰ってきたら自分に戻る。外の世界は頑張らなくてはならないことが多いから、家ではリセットするような息遣いが必要で…」とは、奥様の言葉のノーカット。デザイナーは早々にYAECA HOME STOREを訪問。奥様が話す“スン”の意図をキャッチし、『端正』というコンセプトをOさんに贈りました。
間取りは1LDK+フリースペース+土間、基調色はナチュラルな白と木に。床は絶対に譲れなかった無垢フローリングで、90cm幅のオーク材を採用しました。「幅広の床材だとリッチ感が出ちゃうから、90cm幅くらいがちょうどいいかなって。一枚ごとの木の風合いが引き立つし、自分たちでオイルを塗るときも楽しめそうだから」と、奥様は目を細めます。天井は解体した実物を見てから、躯体現しの無色塗装に決定。以前天井を押さえていたと思われる木材の茶色味が残っていて、せっかくならそのまま活かしたいと思ったそう。「なんでも面白がる。私たちってそうなんです」と、ご夫婦は目を合わせます。
キッチンは、リビングダイニング(LD)から流れるような位置に隣接。LDの美しい四角形を保てる上に、料理中も孤独にならない絶妙なレイアウトです。作家モノの食器が多いこと、ワンプレート盛りが多くお皿をあまり使わないことから、食洗機は入れず、壁面に飾り棚も付けませんでした。
「まだ住んでいないのに、『便利そうだから』という理由で棚を付けても結局ダレるので(笑)。最初はなるべく無い状態で、ちょっとずつエッセンスを足していきたい」と、奥様は話します。
モノが少ないOさんは、当初考えていたWICの代わりに、リビングに壁面収納を設けることにしたのだそう。「いかにも収納って感じではなく、見ていてうっとりするような見た目がいい」と、大判のシナ合板を引き戸に採用。天井がなるべく高く見えるように、天井高ギリギリのH2.3mで造作しました。さらに、自邸をリノベした経験を持つアドバイザーからの提案で、壁面のスイッチパネルを通常より10cmほど低い位置に設置し、視界のノイズを極力カットしました。こうしたちょっとした工夫の数々が、スンとした気持ちを完璧にキープしてくれています。
「それと、パントリー入り口のR開口。この角度、めちゃめちゃ悩みました(笑)。北欧っぽくなりすぎたくないし、ほっこりしたくないから、緩いアーチではなくて…。スタッフの方々とあーだこーだ言いながら、この絶妙な角度を追求しました。空間に少し曲線があるだけで、全体のバランスが取れていると感じます」と、奥様は頷きます。
ここから始める。
この家に住んで11ヶ月。無垢床の肌触りや、スンとする暮らしを存分に楽しんでいると言います。玄関土間から一続きのフリースペースでは、コーヒーを飲みながらギターを弾いたり、本を読んだりと、特別な時間を満喫中。フリースペースに置いた北欧ヴィンテージの本棚は特にお気に入りで、日々愛でていると言います。将来的には子ども部屋にできるよう、土間とフリースペースの間に壁を後付けできる設計を施しました。
広々とした土間収納は、アウトドア好きなご主人の救世主。このおかげで、お出かけ前の準備や土がついたキャンプギアの片付けがスムーズになったそうです。
「当初、私にはフリースペースの魅力が分からなかったんですけど、夫が熱望していて。アドバイザーやデザイナーも『そういう余白ってロマンがあります!』と共感してくれて、すごく盛り上がっていました(笑)」と、奥様。ご主人が続けます。
「そんな風に話を聞いてくれたら、気持ちが上がっちゃいますよね。nuの皆さんは、私たちの発言の全てを肯定的に受け止めてくれたし、ただ頷くのではなく、ちゃんとイメージした上で共感してくれているのが分かりました。リノベはもちろん大変でしたけど、納得いくまでディスカッションできたから、納得できる着地点が見つけられましたね」。
この家での暮らしは、朝から晩まで流れに一切よどみがなく、完全にストレスフリー。何かがあるからいいのではなく、何もひっかからないからいい。その小川のような日々の積み重ねが、伸びやかさを生み、マインドにも大きな変化をもたらしたそうです。
「この2年はドラマチックで、以前は考えられないくらい何もかもが変わりました。賃貸ベースでは積み上げられなかったものが、確固たる土台ができたことで瞬時に積み上がっていって…。ヨガの先生を始めることを決めたのも、リノベの最中なんです。『もうここなんだ、私たちはここから始めればいいんだ』って」と、奥様。
移住から一連のリノベーション体験を振り返りながら、何度も目を合わせるご夫婦。どうやら、リノベーションされたのは住まいだけではないようです。
Interview & text 安藤小百合