
バーチフローリング・タイル・畳など、異素材が同居する1LDKの住まい。インナーテラスで仕事したり、小上がりでのんびり本を読んだり……。ゆるやかにつながる大空間には、家族の穏やかな日常が流れていました。
我らの城
Sさんは、ご夫婦と生後9か月の娘さんとの3人家族。以前は横浜エリアの戸建賃貸に住んでいましたが、奥様の妊娠を機にマイホームを購入することにしました。
「ずっと『いずれは我らの城を』と考えていて。中古マンションをリノベするか、戸建の注文住宅にするかで悩んでいました」と、ご夫婦。手始めに某リノベーション会社に話を聞き、その後注文住宅の住宅展示場などを回ってみたと言います。
「結局、注文住宅でこだわると高額になってしまうし、メンテナンスも大変だなと。今って良い立地に空地がなかなか無いし、やっぱり中古リノベかなと思いました」。まずリノベ会社選びに着手し、インターネットやSNSを見たり、同僚のリノベ経験者に話を聞いたりしたそうです。
「実は、nuリノベーション(以下、nu)さん以外で1社、すごく悩んだ会社があって。そこは大手なだけあってプロセスがすごく整っていて、安心して任せられる印象を受けました。でも、施工事例の良さはnuさんには叶わなかったし、『やっぱり腕がいい会社にお願いしたいね』って、夫と帰りの電車で話して」と、奥様。ほとんどの家具を買い替える予定だったことから、nuのインテリアスタイリングサービス<decoる>も魅力的だったと言います。
「インテリアには詳しくなかったのですが、<decoる>はnuさんが厳選したブランドが揃っているし、設計段階から家具に合わせて内装を決めることもできる。これはすごくいいなと」。
こうしてnuに依頼することを決めたSさんは、中古物件の内見に慣れるために、まず自分たちで2軒内見に行き、その後nuと一緒に3~4軒を内見したと言います。物件の条件に置いたのは、十分な広さと新耐震であること。ご夫婦ともにリモートワーク中心のため、都心へのアクセスは重視しておらず、郊外でも価格と広さが合えば問題ありませんでした。
バイクが趣味の奥様は、「ツーリングで高尾や奥多摩に行けたらいいなと思って」と西東京エリアも候補に入れ、最終的に東大和市に建つこの築30年のマンションに出会いました。96.20㎡と十分な広さで、周辺が緑豊かで空が広く感じることも決め手になったそうです。
「リビングを広くしたかったので、内見ではそれが叶うかを確認しました。nuのアドバイザーさんはその構造でどんなリノベが出来るか教えてくれたし、『この物件は扱いづらいですね』など、懸念点も教えてくれました。何より、不動産会社へのアポ取りから交渉まで全部してくれて、私たちはローン周り以外nuさんとしかやりとりしていないくらい。どんな質問にも分かりやすく答えてくださったし、面倒なアレコレも要約して説明してくれて、すごく助かりました」と、ご夫婦。
こうして、いよいよSさんご家族の城づくりが始まりました。
本の虫
Sさんが描いたのは、家族の時間が淀みなく流れ、互いの気配を感じられる暮らし。そのために、広大なLDK、建具で分断しない空間を希望しました。
「以前戸建に住んだ理由は、一度戸建の暮らしを体験したかったからなんです。いざ住んでみると、分断された感が強くてイヤだなと。家を持つときは、パーソナルスペースもありつつ籠らない間取りにしたいと思っていました」と、奥様。
そこでデザイナーは、家族の穏やかな日常がつながり合い、心地よい循環が生み出されていく『CYCLE』というコンセプトを提案。間取りは、【LDK+WS(ワークスペース)+寝室+ユーティリティ+土間】で、LDKは圧巻の31.2畳と、最大面積を確保しました。奥様曰く「本の虫」であるご主人の本を飾りながら収納するために、リビングには全長約6700mmの大壁面収納を造作しました。
「本ってその人をつくるから、娘が何かに興味を持ったときに、それに関する本を気軽に手に取れる環境にしたくて。本棚があることで私たちの家が成り立つ、そう考えました」と、奥様。隠す収納にしなかったのは、ご主人の「背表紙からエナジーを感じたい」という思いからでした。
くつろぎスペースと収納の役割として、リビングの一画に小上りを造作。ぐるりと囲うようにカーテンレールを設置し、カーテンを付ければ個室として使えるようにしました。キッチンは会話が弾む対面型で造作し、清掃性の良いステンレス天板とセンサー水栓を採用。BOSCHの食洗機も入れ、圧倒的な家事ラクを叶えました。奥様のリクエストで、カウンターの立ち上がり部分に調味料を仕舞える凹部を設けたことも大正解だったと言います。
ご主人の仕事場として半個室型のWSをリビング横に設け、奥様の仕事場としてインナーテラスの一画にデスクを配置。ゆるく繋がりながらも、それぞれの作業に集中できる環境を実現しました。ご主人のWSには全長約2.5mのデスクを造作し、リビング側の壁には長方形ののぞき穴を設けて、視線・光・風が抜けるようにしました。
「親が仕事している姿を娘にも見てほしかったのと、生活と仕事を完全に分断したくなかったので」と、奥様。奥様のデスクは造作ではなく既製品にしたことで、気軽にレイアウトを変えられるようにしました。
また、洗面室も扉のないオープン設計で、壁付け水栓の洗面台を造作。玄関土間は、壁面にクローゼット、中央にシューズ用の吊り棚を造作し、吊り棚の下部に自転車を収納できるようにしました。土間は、ご主人の楽器ケースや季節家電も収納できる広さです。
全体的なデザインは、異素材の組み合わせを希望。LDの床にはバーチ材、キッチンとインナーテラスの床には塩ビタイル、キッチンの腰壁には磁器質タイルなど、多彩な素材を配しました。
「親が転勤族で色んな土地に住んできたので、多様性というか、異なるものが同居する場所が好きなんです。この家にもそれを再現したかったし、それが自分たちらしさだなって」と、奥様。中でも特にこだわったのは、キッチンの柱のデザイン。木材の型枠で木目模様を転写する「浮造り(うづくり)」という技法で、モルタルに趣深い表情を付けました。
淀みない日々
この家に住んで5カ月。賃貸時代は家に合わせて暮らしていたのに対し、今は自分たちの暮らしに合った空間で思い思いに暮らせる快適さに驚いていると言います。
「『ここはこうした方がもっといいな』と、クリエイティブな思考になっています。賃貸時代は諦めて放置していたぶん、より良い暮らしを追求する時間がすごく楽しいです」と、ご夫婦。インナーテラスは、グリーンを置いたり、絨毯を敷いて娘さんのプレイエリアにしたり、様々な用途で活躍中。デザイナーが設計した奥行き1700mmの広さが絶妙で、とても使い勝手が良いのだそう。また、脱衣室にユーティリティを設けたことで、日用品のストックや掃除機を収納できて便利だと言います。
「それと、LDに吊り下げタイプのライティングレールを付けてもらったんですけど、おかげで梁の主張が軽減されたし、気分に合わせて照明を好きな位置に動かしたり、新たに足したりできてすごくいいです」と、奥様は笑います。
お気に入りのインテリアは、<decoる>で購入したカリモクニュースタンダードのソファ、KITのワークデスク、flameの照明mousseとAPROZ(アプロス)のDAN、&Traditionのフラワーポット。賃貸時代は「どうせ賃貸だし」と諦めていたインテリアへのこだわりが、思う存分開花しています。
幸せを感じる瞬間は、娘さんがリビングで本を引っ張り出していたり、床におもちゃを広げたりしているのを発見したとき。Sさんご家族は、当初描いた以上の淀みない時間を満喫しているようです。
「一度体験すると色々分かるから、2回目のリノベをやりたくなります(笑)。家やインテリアにこだわる理由と大切にしていく理由ができたので、賃貸時代と違って隅々まで綺麗にメンテナンスしています。『我らの城は我らで守りぬくぞ!』、そんな気持ちです(笑)」。
Interview & text 安藤小百合