
窓から差し込む自然光と、本物の素材が生み出す陰影。修道院を思わせる空間には、家族の穏やかな日常が流れていました。
本物にこだわる
神奈川県内の住宅地に立つ、1982年竣工のマンション。この一室をフルリノベーションしたKさんは、クリエイティブ関係の仕事をしているご主人、衣装制作の仕事をしている奥様、1歳の娘さんの3人家族です。以前は世田谷区内の賃貸に住んでいましたが、娘さんが生まれて手狭になったこと、娘さんが小学校に上がる前に転居を済ませたかったことから、マイホーム購入に踏み切りました。
「新築マンションも2軒ほど見たんですけど、画一的で面白味がなくて。木目調のシートなどが使われていましたが、建材は本物にこだわりたいと思いました。でも、注文住宅は予算オーバーなので、中古リノベーションが一番ハマる選択肢かなと」と、ご主人。新建材が使われた新築マンションは購入時が品質のピークで、そこからは古びて行く一方なのに対し、本物の素材を使った家は経年美化や深まる味を楽しめる点が魅力的だったと言います。リノベーション雑誌を見て、nuリノベーション(以下nu)含めた4社に相談したKさん。そのうち、nuともう1社と一緒に中古物件探しをしましたが……。
「もう1社の方は、リノベ会社のスタッフではない人が物件探しを請け負っていて、リノベ会社側にいまいち情報が共有されていなかったんです。一方、nuはワンストップだから、nuのアドバイザーさんが物件探しから内見同行まで一貫して担当してくれたし、情報が社内にちゃんと共有されていたので、安心感がありました。進行ペースも絶妙で、私たちは焦ることも不安になることもなく、気持ちよく進められました。そもそも、最初のメールのやり取りから丁寧さが伝わって来たし、資料もたくさんいただけたし、そういう小さい積み重ねが信頼につながっていきました」と、ご夫婦は振り返ります。
このマンションはnuのアドバイザーが探し当てた物件で、3路線が使えて便利なこと、窓から緑が綺麗に見えること、61.50㎡の広さと物件価格が予算に合っていたことが決め手に。そのままnuにリノベーションも依頼することを決め、いよいよ設計打合せが始まりました。
簡素な美
Kさん夫婦が描いたのは、ゆっくり落ち着いた暮らし。賃貸時代は生活の全てを同じ空間でしていてゴチャゴチャしていたので、新たな住まいではメリハリのある暮らしをしたかったと言います。間取りは、2LDK+WICを希望。在宅勤務が中心の奥様と、週3在宅勤務のご主人のために、それぞれのワークスペースも必要でした。そこでデザイナーは、玄関~LDK~寝室までがひと続きの開放的な空間を設計。個室やWICの造作建具の上部にガラスの欄間を設え、連続性と抜け感を創出しました。
内装面は、「2人ともアンティークの雰囲気が好きで、元々持っていた照明もアンティークなので、もうゴリゴリなアンティーク空間に」とリクエスト。ご夫婦がデザイナーに共有したイメージ画像には、素材の風合いや陰影の美しさが際立つ質感を大切にした空間が多く含まれていたことから、デザイナーは「修道院」というキーワードを閃き、“silence”というコンセプトを提案。簡素さからくる静寂さと美しさのニュアンスを追求することにしました。
モールテックスなどの無機質な素材感と、オークフローリングの自然の風合いが心地よく溶け合う空間。修道院の石や煉瓦の壁を模倣して、タイル部分以外は艶を落とし、壁の一部には左官材のシリカライムでしっかりとムラ感を出しました。LDKの天壁は程よいムラを出せるEP塗装を採用し、色はオークフローリングと馴染みが良い薄ベージュに。ご主人は「クロスよりも普遍的な美しさがあり、汚れても上から塗りなおせるので安心です」と満足そうに話します。
キッチンの作業台は、残りの空間を広く使える壁付け型で造作し、天板には壁と相性が良いベージュ寄りの人造大理石を採用しました。正面の壁には石材を思わせるライトベージュの磁器質タイルをあしらい、作業台の横には冷蔵庫とたっぷりの食器が収まる深めのニッチを造作。収納扉や余計な装飾は取り払い、壁と一体化したシンプルな設えに。無駄を削ぎ落としたその佇まいは、修道院を思わせる簡素なイメージに寄与しています。
ご主人のワークスペースはリビング横の寝室に設け、深夜まで作業に没頭することもある奥様のワークスペースは独立した個室に。工業用ミシンやトルソー(胴体だけのマネキン)が無理なく収まり、将来娘さんの部屋として使えるように、程よい広さの3.0畳で設計しました。
その他、洗面台は玄関入ってすぐ左手に設置し、奥様が気に入った海外事例をモデルに、モールテックスとブラック水栓で造作しました。玄関エリアとトイレの天井はRを採用し、グレーで無機質な空間に丸みを差しました。
K邸のコンセプトである“silence”の通り、本物以外余計なものがない、しんしんとした清閑な空間が完成しました。
向き合う時間
この家に住んで2カ月半、早速新生活を楽しんでいるようです。
「すごくゆっくりできます。以前はずっと家事に追われていたけど、今は料理も洗濯も掃除もスムーズに片付くから後回しにしなくなって、時間的にも精神的にもゆとりが生まれました。目覚めも良くなって、朝が来たことを実感できるようになりましたね。ワークスペースもしっかり確保されて作業しやすくなったので、作品の仕上がりが綺麗になりました」と、奥様。ご主人も、ワークスペースが広くなったおかげで肩回しやストレッチができるようになり、身体の不調が減ってきたと言います。
「前はカフェに行きたいと思うことがすごく多かったけど、今はこの家よりおしゃれで寛げるカフェがないので、『じゃあ家でいいじゃん』って(笑)。お菓子を買ってきてコーヒーを淹れて食べるときがすごく幸せです」。
お気に入りのインテリアは、ICCA STOCK ROOMで購入したダイニングテーブル、nuのインテリアスタイリングサービス<decoる>で購入したNEW LIGHT POTTERYの照明。カーテン・廊下の本棚・洗面ミラーなど、まだまだこれから揃えたいものがたくさん。中でも、洗面ミラーは作家ものを予約済みで、3ヶ月後の納品を心待ちにしているそうです。
幸せを感じる瞬間は、夜、静けさに包まれながらぼーっとしている時間。同じ5分でも、この家で過ごす5分は長く感じるのだとか。
「リノベーションは大変だったけど、今までの生活を振り返ったり、持ち物を把握したりすることで、色々と整理できました。自分のことを突き詰める機会ってなかなかないけれど、『私ってどういうものが好きなんだろう?』『これから何を大切にしていきたいんだろう?』と考えることで、自分のことを深く知れた機会になりました」と、ご夫婦。中でも、クリエイターであるご夫婦にとっては、リノベーションを通じてモノづくりの顧客体験ができたことは良い勉強になったと言います。
「日頃はお客さんから要望を聞いて制作する側ですが、今回は逆の立場。専門知識がないことへの要望を伝える難しさを改めて痛感しました。その分、『双方が同じ方向を向けたときはこんなに嬉しいんだ!』という発見もありましたね。これからは、今まで以上にお客さんの要望を親身に聞こうと思いました」。
こうして、人生における多くの収穫があったKさん。最後に、リノベーションを検討中の人へアドバイスをくださいました。
「はじめはもっとバチバチに要望を決めて行かないといけないのかと思っていたけど、nuのスタッフに心のままに話していくだけで、やりたいことが明確になっていきました。たくさん提案していただけたので、逆に自分たちで決めすぎなくて良かったです(笑)。気構えずに楽しむのが一番だと思います」。
Interview & text 安藤小百合