
こんにちは。
今日は香川県にある「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」について書きたいと思います。

「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」は1991年に完成し、建築家・谷口吉生氏によって設計されました。
谷口吉生氏といえば、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、豊田市の豊田市美術館、金沢市の鈴木大拙館、そして以前ブログでも紹介した長野市の東山魁夷館など、数多くの美術館建築を手掛けています。
「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」は東山魁夷館とほぼ同時期に設計・竣工しています。

まずは外観から。
駅前広場に面した「ゲートプラザ」は、この建築のファサードを印象付けています。
門型に張り出した屋根や壁が、まるで絵画の額縁のように作用し、建築全体が一枚の絵画のように見えます。
ちなみに…
このファサードに「どこかで見たことある」と思う方もいるかも知れません。
東京都上野にある法隆寺宝物館となんとなく似ているような?
それもそのはず。設計者が同じ谷口吉生氏です!

プラザにはアートワークも点在。
中でも特徴的なのが、猪熊弦一郎氏による壁画です。
最初は幾何学的な図案を構想していたそうですが、最終的には現在の絵画に落ち着きました。
ファサードのデザインを進めていく中で、猪熊氏が製作した壁画の一部を、谷口氏が削った(消した)とも言われています。
驚くべきは、この巨大な壁画がすべてが象嵌(素材の表面に異なる素材をはめ込み模様をつくる技法)でつくられていること。

現地で思わず「え………?」と声が出るほどの物量と迫力でした。


エントランスに入ると、受付の脇に高天井の吹き抜け空間が広がります。
天井の低い部分と高い部分を対比的に配置し、空間にリズムを生み出しているのが秀逸。
開放感とくつろぎを巧みに両立させていました。


また、受付背面の壁の裏にスロープを忍ばせたり、エレベーターシャフトを建築のボリュームから飛び出させてブリッジで接続させたり、細部の設計も面白かったです。
(筒状のボリュームがエレベーターシャフトです。)

エレベーターで最上階へ上がり、ブリッジを渡った先のホールへ向かうと、展示室の吹き抜け空間に出ます。展示室の壁上部スリット越しに街並みがチラリと見え、光が明るく室内を照らします。


展示空間にはハイサイドライトやトップライトを配しており、
自然光の取り入れ方がキレイだなと思いました。

入口脇にあるシンボリックな大階段は上階のカフェや屋上広場へと繋がります。
屋根にはスリット状のハイサイドライトが配され、ここでも光の演出がかっこいい。

階段を登る途中で振り返るとエレベーターシャフトと展示室をつなぐブリッジが見えます。


屋上には水盤と石の広場が広がるカスケードプラザがあります。
カフェやショップも隣接。
谷口氏といえば、ボイド空間を巧みに扱う建築家というイメージがあります。
東山魁夷館やMoMAにも中庭・水庭があり、空間に軽やかさと奥行きを与えています。

訪れてみて感じたのは「導線の美しさ」。
当たり前のことですが、展示を見て回っていても行き詰まったり、引き返すことがない。
加えて、日本庭園のように「見えるけどすぐには行けない」場所を設け、そこへどうやってたどり着くのかを思案する楽しさがあります。
「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」は、建築そのものが巨大なアート作品のようでありながら、訪れる人をワクワクさせる仕掛けに満ちていました。
猪熊氏の壁画と谷口氏の空間デザインが響き合い、唯一無二の場をつくり出しています。
香川に訪れる機会があれば、ぜひ立ち寄ってほしい美術館です。
