
入った瞬間に、上質さと静けさを感じる住まい。ベージュを纏ったシームレスな空間には、自立した女性と愛猫とのやさしい時間が流れていました。
自立のかたち
川崎市の丘の上にある大型マンション。この家に住むのは、新聞社で事業開発職をしている30代のKさんと、愛猫(メインクーン)のこゆきちゃんです。
「一昨年に父が実家の階段から落ちて大けがをしたんです。そのときに、親はずっといるわけじゃないから、私ももっと自立しなきゃと思って。私なりに自立の方法を色々考えてみて、その一つが自分の家を買うことでした」と、Kさん。美術大学出身のオシャレなお兄様の影響で、20代の頃からインテリアに興味を持ち、最初は現行品のアルテック、徐々にチーク材などのヴィンテージ家具にハマっていったと言います。
「そんな感じで経年変化が好きなので、住宅も新築は好みではなくて。元々リノベーションには興味があって、色々と情報サイトを見ていました。直近は賃貸マンションに住んでいたんですけど、そこも簡単にリノベーションされていて、こうやって自分の住みやすいようにデザインできたらいいなと思っていたんです」。
こうして中古リノベーションを選択したKさん。会社探しは、nuリノベーション(以下nu)を含む2社に話を聞いて検討しました。nuに問合せをしたところ、年末にも関わらずすぐにレスポンスをくれたことに驚いたと言います。
「nuの施工事例をたくさん見ていたので、アドバイザーさんに私の一番好きな事例の話をしたら、目をキラキラさせながらすごく嬉しそうにしてくれて(笑)。最初は真面目な印象の方だったのでギャップに驚いたんですけど、私は自分の仕事にプライドを持って一生懸命やっている人が好きなので、すごく良いなと。そこがnuの決め手になりました」と、Kさん。こうしてアドバイザーと中古物件探しを始めて2軒を内見し、さらにご自身で探した2軒も内見。トータル1ヶ月半ほどでスピーディーに進めていったと言うから、さすがの行動力と決断力です。
この築37年、75.60㎡の部屋の決め手は、ご実家が徒歩圏内であること。出社する回数もそこまで多くないため、いつでもご両親のサポートができる立地を選んだそうです。
「マンション購入時にも、nuのアドバイザーさんには本当に助けられました。初めてのことで要領が全く分からないし、金融リテラシーが低くてローンのことも全く分からなかったのですが、必要なポイントをスピーディーにフォローしてくださって、とにかく安心でした。早いけど丁寧、そこがすごく好きでしたね」。
こうして、安心と信頼の中でいよいよ設計打合せが始まりました。
ゆらぎを纏う
料理好きなKさんが思い描いたのは、人と会話しながら料理を振る舞える空間。こゆきちゃんは11歳とシニア期に入っているため、猫の体に負担が少なく、自由に走り回れることも必要条件でした。そこで、LDK+寝室+WIC+パントリーを、建具が最小限のワンルーム仕様でプランニングすることにしました。
内装は白・グレー・ベージュを基調に、やわらかく落ち着いた空間に。塗装・モルタル・タイルなどの素材感にこだわりつつ、ノイズレスながら“ゆらぎ”のある空間を希望しました。この“ゆらぎ”には、Kさんなりの定義があるそうで…。
「設計打合せ当初、自分がどんな空間をつくりたいのか上手く言語化できなくて。それなら逆に、何が嫌かを考えてみたんです。私は集中しているときに気が散るのが嫌なので、例えば赤や黄などの強い色、ボコボコした壁材など、目に入ったときに刺激になる要素を入れたくないなと。でも、それだとノッペリしてお行儀が良すぎるので、ちょっとズレた感じも欲しいと思って。それが私の意味する“ゆらぎ”だったんです」。
そこで、ベージュの塗装や左官材のシリカライムを施し、素材ごとの質感の違いをあえて残すことで、穏やかな陰影と静かなコントラストを表現。床は廊下からLDKまでベージュのタイルでつなぎ、ノイズを抑えながらも、Kさんの求めた“ゆらぎ”を空間に生み出しました。
最もこだわったキッチンは、その他の面積を広く取れるように壁付け型で造作。正面壁はベージュのタイルを縦張りにして、どこか和の雰囲気も漂うようにしました。正面の壁は大きく掘り込み、タイルと躯体の対比を愉しみながら、うつわや料理本をディスプレイできるデザインに。食器は作家モノしかないので食洗機は入れず、そのぶん下部の収納量を最大にしました。キッチン横にはウォークイン型の広々パントリーを設け、冷蔵庫・調理家電・食器棚がまるっと収まるように。床面積にゆとりを持たせ、こゆきちゃんの食事スペースも設けました。
リビングには美術館さながらの大きなニッチ収納を設え、アートやうつわを余白を持ちながら飾れるように。玄関横の寝室は、建具なしの開かれた空間にしつつ、オープンになりすぎないように垂れ壁を設けました。玄関は猫用カートを広げられるように広く面積を取り、使うと決めていた
その他、洗面台もゆったり身支度ができる寸法で造作。天板はモールテックスの代わりにモルタル調のフレキシブルボードを用いて、コストコントロールにも成功しました。
こうして、整っているのにどこかホッとする、計算し尽くされた“ゆらぎ”の空間が完成しました。
暮らしを整える
この家に住んで丸1年。広いキッチンでは、今まで以上に料理がはかどるそうです。その腕前はご両親を週2回招いてご飯会を開催するほどで、お気に入りのうつわに盛りつけて、インスタグラム(@gohan_numako)に写真を投稿するのも楽しみなのだとか。
「賃貸時代はあまり掃除をする気になれなかったり、体調不良を起こしたりしがちでしたが、この家は綺麗に保ちたいから、今はほぼ毎日掃除しています。タイルの床は掃除しやすくて、綺麗を保ちやすいのが嬉しいですね。それと、早朝に目が覚めるようになったので、ジムで一走りしてから仕事に取り掛かって、終業後もジムに行っています(笑)。自分にとって良い暮らしができているから、心身ともに健康になっています」と、Kさんは笑います。
お気に入りのインテリアは、人生で最初に買ったヴィンテージのストレージベンチ。カイ・クリスチャンセンのダイニングテーブルとハンスオルセンの三角チェアは、シンプルなダイニングのフォーカルポイントになっています。その他にも、ヴィンテージのデイベッド、コンスタンチン・グルチッチのソファテーブル、ハンス・J・ウェグナーのGE290、イサム・ノグチのakariもお気に入り。nuのインテリアスタイリングサービス<decoる>で購入したシモンズのマットレスも良い買い物だったと言います。
幸せを感じる瞬間は、ちょうど良い朝日で気持ちよく目覚めるときと、帰宅時に玄関から景色が抜けて見えるとき。こゆきちゃんがお尻をフリフリしながら走り回る姿もたまらないのだとか。
「この家に住んでから、色々と達観できるようになったと思います。以前は完璧主義でオーバーフローしていたけど、今は本当に必要なことを取捨選択できるようになりました。リノベーションって無限にコストをかけられるわけではないから、限られた条件の中で自分にとって必要なものや優先順位の高いものを考えて……。この経験が大きく影響していると思います」。
今後の展望は、未購入のワークデスクをはじめ、家具をじっくり選びながら増やしていくこと。この家は猫ファーストで設計したので、できるなら残りの人生でもう1回リノベーションして、今度は自分ファーストの家をつくってみたいと言います。
「デザイナーさんは察し力が高くて、私が最初にお伝えした“ゆらぎ”を最後まで意識した提案をしてくれました。したい暮らしから逆算して、私では思い浮かばないアイデアをたくさん出してくれて、さすが建築のプロだなと感心でした。スタッフの皆さんがとにかく丁寧で、正直で、誠実で、常にベストを尽くそうとしてくれたのが良く分かりました。働き方を見ればその人と会社のことがよく分かりますし、nuさんにお願いして大正解でしたね」、そう振り返るKさん。
ご自身の価値観と自立心が詰まったこの空間で、Kさんのより良い人生は始まったばかりです。
Interview & text 安藤小百合