
こっくりとした木とやさしいベージュに、それを引き締める直線美が共存する空間。
隅々までこだわり抜いた住まいには、家族の穏やかな時間が流れていました。

熱量の共鳴
埼玉県の住宅地に建つ、丁寧に手入れされたマンション。この一室に住むIさんは、会社員のご主人と奥様、そして3歳の娘さんの3人家族です。ご夫婦ともにこの街で育ち、それぞれの実家も近いことから、この街への定住を決めたといいます。
以前は賃貸で暮らしていたものの、「自分たちの好きな家で暮らしたい」という思いはずっとあったというご夫婦。そのため、建売住宅や新築マンションではなく、注文住宅か中古リノベーションが候補でした。
「でも、いざ注文住宅を調べてみると、意外と自由度が高くないんですよ。もちろん限りなくお金があれば自由にできるんでしょうけど、私たちが実現したいことを予算内で叶えるとなると、やっぱり中古リノベーションだなって。それに、うちは3人家族だから部屋数もそんなにいらないし、戸建て育ちの私はメンテナンスの大変さも知っているので、規模も手間もコンパクトに暮らせるマンションがベストだなって」と、奥様は振り返ります。
不動産会社と内見を進める一方で、リノベーション会社探しも並行したIさんは、物件探しからリノベーションまで一貫して依頼できるワンストップサービスの存在を知りました。早速それが可能な会社を探し、nuリノベーション(以下、nu)を含む4社を比較したといいます。
「他の会社さんはテイストがほっこりしすぎていたり、物件探しへの熱量があまり感じられなかったりしたのですが、nuさんはすごく熱心で。説明も分かりやすいし、テンポよく進めてくれて、これはお願いしたいなと思いました」。
nuのアドバイザーと共に3軒を内見し、その中で決めたのが、築34年・76.16㎡の角部屋物件。決め手は、窓が多く風通しがよいこと、周辺が閑静で買い物にも便利なこと、公立学校の質が高いこと。さらに、一部屋分ほどの広さのルーフバルコニー付きという好条件も揃っていました。
「内見中は、アドバイザーさんが“リノベーションではどうにもできない部分”を明確に教えてくれたのがありがたかったです。例えば、カビがある物件を見たとき、『カビ自体はきれいにできても、元々そういう要因があるのでまた生えやすいですよ』とか…。そういうことは私たちには分からないし、将来のことまで一緒に考えてもらえたのは心強かったです」とご夫婦。
こうして納得の物件が決まり、いよいよ設計打合せが始まりました。

モダンなのに温かい
「3人で食事をしたり、リビングでゆっくりしたりする時間を大事にしたいー」。そんな暮らしを叶えるべく、全体的な内装はモダンなホテルのイメージで、白の壁とベージュのカーペット張りに。実はこのマンション、床を全面カーペット張りにしなくてはいけない規約がありましたが、奥様がホテルのカーペット床にあこがれていたこと、スリッパが苦手で素足で過ごせるようにしたかったことで、むしろ好都合だったと言います。間取りは、1LDK+WICを希望。北側の洋室とバス・トイレ・洗面室の位置は既存のまま、その他の生活スペースに手を入れることにしました。南側で隣接し合っていた和室・洋室・居間の壁を取り払い、廊下の一部も取り込んで、21.1畳のLDと3.6畳のキッチンを創出。また、「壁のラインが揃っていて、無骨さがない空間が好き」という奥様の声から、ノイズを極力排除したシャープな空間に設計しました。この家のアイコンは、キッチン空間。「壁に向かって集中して料理したいのと、キッチンのゴチャっとした感じをリビングからの視線を気にせず楽しめるようにしたくて。もともと私が直線や直角のデザインが好きなので、それを取り入れてもらいました」と、奥様は話します。キッチン台はL型を採用し、キッチンエリア全体をシナ合板で囲い、セミオープンの箱のような設えにして、リビングから死角の位置に調理家電用の収納を造作。床はブラウンのタイルを採用して、クラシカルな雰囲気を演出しました。

キッチンとLDをまたぐ箱型カウンターは、リノベーションならではのエピソードから急遽追加されたもの。というのも、解体工事中にこの位置にインターネットのLANが通っていることが判明したため、それを隠すものを造る必要が生まれたのだとか。白いタイルをあしらってデザイン性と撥水性を持たせ、料理中に作業台としても使えるように。さらにリビング収納の機能も持たせたので、「むしろ追加されてよかった」と奥様は笑います。
WICは、キッチン壁と一体的に造作し、素材の継ぎ目を極力なくしたシームレスな美を追求。内部の棚は引渡し後にDIYすることで、コストコントロールに寄与しました。北側の寝室は将来的に娘さんの個室にするため、シンプルな箱に仕上げて可変性を残しました。
玄関はモルタル下地にグレーの磁器質タイルで、カーペットと対照的な印象に。バスルームは購入時リフォーム済だったため既存を活用し、トイレは設備とクロスを交換しました。
奥様が最もこだわったのが洗面室。ホテルでよく見ていた埋め込み型の楕円形ボウルを採用して造作し、鏡は壁一面の大面積にして端正さを演出しました。
また、LDKの入り口のテンパードア(全面強化ガラスのドア)も譲れなかったポイント。「とにかく高価だったのですが(笑)、廊下と玄関にも自然光を入れたかったので」と、奥様。
こうして、モダンな印象を与えつつも、どこか懐かしさを感じる凛とした佇まいの空間が誕生しました。

楽しみが続く家
入居して3ヶ月、すでにこの家での幸せを存分に味わっているIさん。リモートワーク中心のご主人曰く、日中は照明をつけなくても十分明るく、風もぐんぐん抜けて気持ちいいのだとか。
お気に入りのインテリアは、アルテックのダイニングテーブル。125cmと3人家族にはかなり大きいサイズですが、このダイニングにはベストなバランスで、親戚が集まる際も持ち寄った食材を広げられて便利だと言います。
「インテリアショップの店員さんが、『本当にこのサイズでいいですか?』ってすごく心配して(笑)。私たちも不安になったけど、nuのデザイナーさんが『極限まで大きいサイズがいい』と言い切ってくれたのが良かったです」と、奥様。HAYのダイニングチェアとハーマンミラーのバブルランプとも相性が良く、完璧なダイニング空間に仕上がっています。
TOUS LES JOURS(トレジュール)で購入したローマンシェードのカーテンもお気に入り。全体の凛とした印象の中に、一部優しい要素を与えています。
時間によって差し込む陽の角度が変わるのが美しくて、一日に数回フォトフレームの置き場所を変えて楽しんでいると言う奥様。休日は家で過ごすことが増え、娘さんと一緒にクッキーを焼くことも多いそうです。
「なんというか、ゆとりのある暮らしができている感じがします。朝陽が入るダイニングで家族揃って朝食を食べたり、リビングに毛布を持ってきてゴロゴロしながら映画を観たりする時間が最高に幸せ。これからの展望は、装飾品を増やしていくことと、食器を集めて食器棚に飾ること。この家に愛着があるし、シンプルにつくってあるから、インテリアを変えながらおばあちゃんになるまで楽しみ続けられそうです」と、奥様。ご主人も「マジで快適です(笑)。風が抜ける、光が入る、そういう条件も良かったし、実際に住んでみてもマンション住人の皆さんも感じがすごく良い。これはアドバイザーさんの目利きのおかげです」と、笑います。
こうして、あこがれのホテルライク空間での暮らしを実現させたIさん。最後に、最も印象に残っているエピソードを教えてくれました。
「実はあの洗面台、予算の都合で造作は諦めてセミオーダー製品にしようとしていたんです。でも、デザイナーさんが私の本音を察して『奥様、本当は納得していないですよね?』と確認してくれて…。結局、デザイナーさんが全体のコストコントロールを頑張ってくれて、造作にできました。少し予算オーバーしちゃったけど、本当にやりたいことは全部叶いました。感謝、感謝、それに尽きますし、リノベーションして本当によかったです」。

Interview & text 安藤小百合