S夫婦は築25年の戸建てをSOHOとしてフルリノベーションをしました。生活とクリエイティブが共存した空間はデザイナー夫婦のセンスで心地よく彩られました。
住居+事務所+ギャラリー
S夫妻の職業はグラフィックデザイナー。事務所兼住宅として東高円寺の賃貸に13年間住んでいました。「出版の仕事も本格的になっていくこともあり、ギャラリーが欲しかったんです。将来的には個展を開きたいと思って。」S夫妻は住居+事務所+ギャラリーというSOHOの住まい方を求めて物件探しを始めました。エリアは住み慣れた高円寺の街。それまで住んでいた賃貸は75平米のメゾネットタイプで部屋が細かく仕切られていました。「賃貸の家ではキッチンの近くにプリンターがあったりして生活と仕事がごちゃごちゃでした。とにかく広い箱が欲しかったんです。」中古マンションも考えたものの、ギャラリーとして不都合な上に、広さを満たす物件はありませんでした。住宅ローン控除との兼ね合いから築25年までの鉄骨造の戸建てに絞っていきましたが、高円寺で売りに出される戸建てはごくわずかだったと言います。「いい物件が出て、悩んでいたら売れてしまったんです。もう出てこないかと思ったら、もっといい物件が出てきてすぐに購入を決めました。」この物件にはアスベストが使用されていました。しかし、173平米で3階建て、築25年の鉄骨造と条件が揃った物件だった為、除去する費用がかかる事を前提で購入しました。nuを知ったきっかけは知人からの紹介。知人はnuでリノベーションをし、竣工写真がウェブサイトに公開された時でした。173平米の広さやアスベスト除去など、予算の兼ね合いが不安だったものの、”どうしたら予算内でできるのかを考えていきましょう”という前向きな一言で決めたと言います。
作り込み過ぎないこと
プランニングの要望は”なんにもしなくていい”。作り込みすぎた空間ではなく、素材にもムラのあるようなざっくりしたテイストを求めていました。ヒアリングをもとに1階をギャラリーと事務所、2階をLDKと水廻り、3階を居室としてランを煮詰めていきました。この家にはエントランスが2つあります。ひとつは道路沿いにギャラリーのエントランス、もうひとつは少し奥まった住居のエントランスです。仕事と生活のすみわけを考慮し、ギャラリーと事務所は土足、住居に入る時に靴を脱ぐようにしました。ギャラリーのエントランスには木製の建具を製作。道路に面した大きなガラスからは、ディスプレイされた作品を見る事が出来ます。ギャラリーと事務所の床は黒いモルタルで仕上げ。壁面収納には大量の本を収納し、パネルを閉じるとプロジェクターで映像を映せる白いスクリーンとなります。事務所には、大型のワークデスクの他にコピー機やスキャナーを置くスペースを確保しました。ガラスブロックから明かりが差し込む階段を上ると2階は26畳のリビングダイニング。バーナー加工したナラ材のフローリングを使用しました。幅広でムラのあるフローリングは、集めてきたヴィンテージ家具にもよく馴染みます。壁は躯体表しと木毛セメント板の白塗装で仕上げました。キッチンはパントリーも含めて約6畳。リビングダイニングからは独立する位置ですが、開口をあけてリビングを見通せるように設計しました。4000冊のマンガをお持ちのS夫妻。マンガを読みながらゆっくりくつろげる空間を希望していました。そこで3階はマンガラウンジと寝室、収納スペースに。将来は寝室の一部を子供室に間仕切りを増設することができます。マンガラウンジのブルーの壁はS夫妻自身の手で塗装をしました。「自分達で手を加えられる部分をあえて作ってもらいました。楽しみながら塗ってます。」ブルーの壁にオレンジの光が照らされ、ゆったりとした時間が流れる空間です。
“White Base”余白のある家
リビングに置かれた2つの置き時計は手巻き式。片方は1ヶ月に1回、もう片方は1週間に1回、手動で巻く作業が必要ですが、少しの手間にも愛着があるといいます。他にもセンスよく置かれている小物は動物のモチーフが多く、S夫妻のあたたかい人柄を表しているようにも感じられました。グラフィックデザインをされているSさんでも、図面に記されていた素材や工夫が思いがけない効果を生んでいたことに関心したと言います。「住んでからもずっと手を加え続けていきたいと思っています。 それをこれからも楽しんでいきます。」“WhiteBase”とs名付けられたこの家は、クリエイティブの源となる空間です。作り込み過ぎない事でS夫妻自身で手を加えていく余白も一緒に創りだしました。これから創造されるS夫妻の作品と一緒に”WhiteBase”も彩られ、成長していく事に大きな期待を感じます。