京町屋からヒントを得てつくり込んだ理想の家。和の空間に映える、デザイナーズ家具や照明…自分だけのコレクションを自分の感性で飾っていく楽しさが伺える住まいです。
物件探しは恋愛と一緒!?
JR南武線。府中本町の駅から、生い茂る緑や、ゆったりと散歩する人とすれ違いながらしばらく歩くと、Iさん宅にたどり着きます。 Iさんは、照明関係の仕事をするシングル男性。 年齢的なタイミングも含め、そろそろかと感じ引越を決めました。引っ越すならば、この先ずっと暮らす家だから賃貸ではなく持ち家が良いと考えていたIさん。 元々友人がリノベーションを経験していたこともあり、新築の決まりきった仕様ではなく、自由に空間をつくれるリノベーションを選択しました。友人も物件探しから施工までをnuにお願いしていたこともあり、まずは話だけでも聞こうかと、nuの合同セミナーに参加。 それからも、数社を検討しましたが、施工事例の豊富さから、自分の理想の空間を実現してくれそうだという理由でnuに依頼することを決めました。まずは物件探しからスタート。実家の府中近辺で探すこと、そして通勤に便利な沿線ということを条件にnuアドバイザーに相談していたIさん。nuでリノベした友人と同じアドバイザーが担当だったため、安心して任せられたと言います。図面上で何件も検討しましたが、実際に見に行ったのは3件のみ。最初に見たこの物件は、とにかく明るくて、足を踏み入れた瞬間「陽当たりが良い」と感じたとか。 他の2件と比較して、落ち着いた印象で、自分の雰囲気にマッチしたと言います。「雰囲気で少しでも違うと思ったら、違うじゃないですか。男性と女性みたいなものですよ(笑)」 とIさん。なるほど。確かに物件との出会いは一期一会。男女の出会いのようなものかもしれませんね。 実家からも近く、通勤にも便利な、築22年のこの物件に決定しました。
モダンと町家のMIX
昔から、奥行きの感じられる京町屋の空間に憧れを持っていたIさん。リノベーションで理想の空間をつくるとしたら、町家の要素でもある、”格子””障子””畳”は必ず取り入れたいと考えていました。 また、1人暮らしを始めてから約10年間かけて集めたデザイナーズ家具を活かしたいということも要望のひとつでした。そんなIさんにデザイナーが提案したコンセプトは「町家FURNITURE」。伝統的な和の要素を取り入れながらも、そこに各国の名作家具が映えるようなモダンなデザインの空間です。提案したプランを基に、デザイナーと一緒にディテールを詰めていきました。出来上がったのは、和室を設けた1LDK。余計な扉を設けず、奥へ奥へと続く空間は、町家をイメージしたつくり。 玄関を開けると、ベランダから差し込む光が家中に届き名作家具を気持ち良く輝かせます。すぐ左手にはモルタルのアトリエスペース。ここは、自転車や製図用の机、そして紙で組み立てられた名作家具のミニチュア模型。 さらに、思い出に残っている展示会やイベントのフライヤーやチケットまでが、ずらっと並びます。造作したアッシュグリーンの棚には、使い込んだレトロな棚を置いて、その中に昭和時代のおもちゃなどをディスプレイ。 余白もない位、所狭しと色んなアイテムがディスプレイされているのに、”Iさん”というフィルターを通されただけで統一感ある集まりに見えてくるから不思議です。アトリエスペースの反対側に取付けた格子引き戸をカラカラと引くと、そこは洗面スペース。格子から微かに見える洗面化粧台の黄色×白で市松張りにしたタイルが、日本人の和の心をくすぐるデザインで心躍ります。そして、こだわりのお風呂には、大きな窓。 その窓からは、自慢の部屋や家具が常に見られるため、いつもついつい長風呂になってしまうとか。 そしてお風呂から見えるLDKには、ミッドセンチュリーの家具や、天童木工の椅子やソファ、フランク・ロイドの照明、Iさん手づくりの行灯までが空間にピタッとはまるように飾られていました。 「モノを捨てるということがあまり好きではなく、手放すときも捨てるということはしないんです。 」とIさん。全てのものに同じ様に愛情を注ぎ、一緒に歳月を重ねているからこそ、全体の雰囲気に統一感が出るのだと納得しました。そんなIさんが一番こだわったのは、格子の引き戸。格子のピッチ(間隔)やディテールを決める打合せ日にはとても悩んだそう。「ちょっとしたことで印象が変わってしまうので、バランスには気をつけました。 デザイナーさんと打合せを重ねながら、洗面スペースの格子と寝室の格子は全く別のデザインにしたんです。」というこだわりよう。 デザイナーは、引き戸として使用する洗面の格子と、空間の間仕切りとして使う和室の格子を、それぞれ用途に合わせて提案。 和室の格子は、空間の真ん中に位置するため、全体の雰囲気と馴染むようスッキリとした印象に。また洗面スペースの方は、引き戸として使いやすくデザイン。 その提案にIさんも満足しているとか。格子や畳と海外デザイナーの家具を合わせるというアイディア。 参考にしていた雑誌やお店などはありますか?との質問をすると「うーん、特にありません。これまでに自分が良いと思って来たものたちを思い出しながら、取り入れました」とIさん。 長年かけて集めた名作家具や、旅した場所、毎日持ち歩く丁寧なつくりの日用品を通して、良いものの選び方が、自然と身に付いているのだと感じました。普通、収納として使いがちなデッドスペースをIさん宅では、中庭に。そこに小石とお手製の行灯を置き、格子とのバランスを楽しんでいるIさん。 収納よりも、好きな家具を楽しめるスペースとして 有効活用する方が、自分らしい空間になるのだとIさんから学びました。
変わり続ける家と風景
昨年11月末。完成して初めて理想の空間に足を踏み入れたIさんは、とにかく目に映る風景がキレイだと感じたそう。 「ここはマンションの周辺に高い建物もないので、天気が良い日には富士山も見えるんです。初めて見えた時には、本当に富士山だよね?!と驚きました(笑)」 朝陽や夕日も、なんの遮りも無くまっすぐに届くこの家では、心から寛ぐことが出来るそう。「とにかく、リノベーションをしてから生活が格段に楽しくなりましたね。 好きなものに囲まれているし、嬉しいです。今まで賃貸では出来なかったことも出来るようになりましたので。」 そう言う通り、竣工時にはなかった棚やオブジェが壁の至るところに飾られていて、どこを見渡しても素敵なものに溢れているのです。 見ても見ても見切れない空間に、スタッフも、取材中は終始キョロキョロしてしまっていました。まだ、部屋は6割しか完成していないというIさん。「仕事から帰って来た後も休みの日も、ずーっと家具をどこに置くか考えたり、実際に置いてみては変えてみての繰り返しです。 しばらく家の外で休日を過ごした記憶がありません(笑)」今後も家具を色んな場所に置いて試してみながら、部屋をつくり込んでいくそうです。自分だけのオリジナル町家に、名作家具を詰め込んだ家、町家FURNITURE。次はどんな家具が置かれるのでしょうか。