アートやグリーンが控えめに並べられ、それでいてとても居心地の良い、日差しのたっぷり入ってくるギャラリー。ラジオの音が遠くからふわりと聞こえてくるその空間は、初めて来たのに寝転がりたくなるような感覚でした。
キーステーションは三宿
賑やかな三軒茶屋と閑静な池尻大橋の間に位置し、どちらの良さも併せ持った町、三宿。大通りから外れ、細かい道路を進んで行くと、Hさん宅にたどり着きます。どちらもグラフィックデザイナーのH夫妻の以前のお住まいは、都立大学の八雲。都内の主要地域ならどの場所へもアクセスの良いことと、落ち着いた雰囲気が気に入っていたそう。しかし、約10年八雲で暮らし、このまま家賃を払い続けても、”自分の家”として心から落ち着いて暮らせないのではと気になり始めたH夫妻。それならば家を購入し、自分たちの思い通りの住まいを手に入れようと決意。思い立ったが吉日で、2人の家探しをスタートします。Hさんは、もともとお住まいだった都立大学から、生活圏をあまり変えたくありませんでした。さらに、賑やかな雰囲気が好きなご主人は、商店街が近くにあるような場所も視野に入れていました。そうなると、新築では希望を叶える物件に巡り会えません。ちょうど物件探しを始めた時期に、 奥様の会社でも家探しを始めている方が多く、「中古マンションでリノベーションをする」という話を耳にしたそう。社内で毎日のように「こんな方法もあるよ」とか「リノベーションって楽しそう!」という声が上がっていて、そこで自然と、自分たちにはリノベーションが合うのではないかと感じ、社内でも話題になっていたnuに問い合わせをしたそう。もともと気になっていた物件があったHさんは、その物件がリノベに向いているかどうかを診断して欲しいと来社されました。早速一緒にその物件に行ってみると、実はその物件は壊せない壁が多く、H夫妻の望んでいた空間をつくれないという事実が判明。「あの時、あらかじめnuさんに聞いておいて良かったです。nuでは物件探しから相談出来たのですごく頼りになりました。実際、その後見た物件は私たちの要望を満たすものが多かったので。」とご主人。その後実際にnuアドバイザーと内見した物件は、6~7件。その中でも、最後に見たこの三宿の物件が気に入りました。ご主人の要望通り周りに商店街も多く、前の家と生活圏が重なっているので、暮らしやすそうと感じられたお二人。「ここは築38年。nuアドバイザーの方から、古い物件を選ぶ際は、管理体制のチェックが重要ですよ、と言われたんです。このマンションはエントランスもキレイだし、常駐の管理人さんもいてくれて、とても気持ちよく住めています。」とにっこり。 そんな理由で、43㎡のこの物件に決めました。
ひだまりのパーソナリティー
H夫妻のもともと持っていたイメージは、とてもシンプル。「ヨーロッパにある、庶民的でマニッシュな雰囲気のホテルみたいにして下さい。」それは意訳すると、シンプルでキレイ、且つ機能的で余計なものがない居心地の良い空間ということ。 そこにさらに、黒い窓枠、オリジナルの本棚、仕事が出来るデスクなど、細かい要望をヒアリングを通してプラスしていきました。その後、デザイナーは現地調査に出向き、物件の状態を確認。初めて行った場所なのにとても寛げ る雰囲気で、且つL字に窓がある角部屋のため、昼間は照明の必要のない位明るいことに驚いたそう。 そんな物件のポテンシャルから、Hさんに提案したプランのコンセプトは「ひだまりのイエ」。黒鉄の窓枠や、塗装仕上げのざっくりとしたアクセントはヨーロッパの雰囲気として取り入れつつ も、二人が日向ぼっこをしながら安らげるようなプランを3案提案しました。収納を廊下に沿わせて水回りを一カ所に集めたプラン、キッチンを中心に導線が計画されたプラン、 そしてLDKを一番広くとったプラン。「どれにしようか、本当に悩みました!どれもとても良かっ たので!」と奥様。どれも全く違ったプランでしたが、二人で悩みに悩んで、たっぷりと日が差す LDKで寛ぐ時間を重視し、LDKを一番広くとった1LDKプランに決めました。玄関を開けてすぐ左には、お二人の寝室とウォークインクローゼット。寝室はホテルライクな模様 のカーペットを敷いて、柔らかな雰囲気に。寝室とひとつながりになったウォークインクローゼットは、お二人の好きな布を買ってつくったお手製のカーテンで目隠しをしています。 そして、寝室とリビングを仕切る壁には、二人のこだわりだった黒枠の窓をデザインしました。ここからもリビングの光が差込んで、どこまでも明るい空間が続きます。 リビング側の内窓の下には、ご主人の仕事が出来るデスクカウンターを造作。右手の壁沿いには本棚も造り付け、手を伸ばせばすぐに資料を取り寄せられるように計画しました。 「出勤前にここでメールチェックをしたり、帰ってきてから少し仕事をしたりするのに最適なスペースです。控えめな本棚も欲しかったので、とても満足しています。」とご主人。また、Hさん宅は、ダイニングテーブルもオリジナル。約11畳のLDKをうまく活かすために、デザイナーはアッシュの集成材で造作した可動式のダイニングテーブルを提案しました。横幅が80センチのテーブルは、キッチンバックカウンターにつなげて使うことも出来、それだけを好きな位置に動かして気分を変えることも出来る、二人暮らしに丁度良いサイズ。どんな時に動かすのですか?と質問したところ、 「しょっちゅう動かして使っています。テレビを見たい時は、テレビの真正面に動かせますし、 人が来たときには、端の方に置いておけますし、とっても便利です。」と奥様。なるほど、当時はデザイナーも思いつかなかった使い方が、”暮らし”の切れ端からぽろっとこぼれてきて、そんなときは、私たちが嬉しくなる瞬間です。一番気に入っている場所は、「このオークのフローリングかもしれません。薄すぎず、濃すぎない、 どんな家具にもしっくりする色にこだわったので。」とご主人。そのこだわりは、工事中の現場にも足を運び、デザイナーと色打合せを重ねたというほど。 出来上がりには、とても満足して頂きました。「裸足で歩いても気持ちが良いですし、ここにいつも寝転がっています。ソファを買う予定でしたが、 ソファを置くと寝転がれなくなってしまうので、当分はいらないかも(笑)」と笑うご主人。パッとリビングを見渡してわかるように、Hさん宅には木の素材がたくさん。しかもオークやウォルナット、そしてチークなど様々な木がバランス良く調和しているのです。「木の優しい質感が好きなのかもしれません。だからというわけではないですが、トイレのドアだけ木に合わせて緑にしたんですよ。どちらも落ち着く色合いです。」リビングには、白いブラインドを設置し、ブラインドから漏れる光がフローリングを気持ち良く照らします。ひだまりのイエというコンセプトが、実際にお邪魔したことで、実感出来ました。
ラジオからスタートする朝
「ここに引っ越してから、午前中の過ごし方が変わりました。起きたら近所をランニングし、帰ってきたら二人分の朝食をつくり、ゆっくりと味わいます。そして妻を見送ってから、ラジオをつけて、コーヒーを淹れながらメールチェックをするのが毎日の日課になりました。」とご主人。 ご主人は、もともとアクティブで好奇心旺盛なタイプだと言いますが、リノベをしてから家のインテリアや小物、そしてお茶請けまでも自転車であちこち飛び回って探しに出ているのだとか。 「私はインドア派なので、主人が買ってきたものを楽しんでいます。たまに自分が飾りたいものは、必ず買う前に相談するんです。引っ越してから私のものを飾るスペースなんて、ほとんど無いんですから~」と言いながらも、どこか楽しそうな奥様。 この日も、ご主人が見つけたというオーガニックのクッキーを振る舞って下さいました。どんなに小さいスペースにも、”間に合わせ” のものを買わずに、作り手の背景が見えるモノをきちんと丁寧に飾っているお二人。ラジオからいつもの音楽が聞こえてきたら、コーヒーの最後の一口を飲み干して、新しい一日のスタートです。二人のひだまりのイエで、これからも良い意味で変わらずに、暮らしの積み重ねを楽しんで欲しいと感じました。