コンクリートや木、タイルなど素材の持ち味が調和した1LDK+WICプラン。リノベーションならではの“既存を活かした設計”が生み出した、フレキシブルな暮らしを楽しむA邸を訪ねました。
最高のフィーリング
埼玉県蕨市。ここに住むA夫妻は、半年ほど前にリノベーションした築35年のマンションに暮らしています。家を買うことを考え始めたのは、当時住んでいた賃貸の更新を1年後に控えていた頃だったそう。「ちょうど結婚をしたタイミングだったこともあり、どうせ家賃を払い続けるなら家を買ってしまった方が良いよね、と元々興味のあったリノベーションについて調べました」と奥様。リノベーション専門誌『中古を買ってリノベーション』を購入し、そこに載っていた気になる数社に話を聞きに行ったそう。nuリノベーション(以下、nu)もそのうちの一社で、「nuの個別セミナーに参加した後、『この会社がいい!』とすぐに主人と意見が一致して(笑)すんなりとリノベ会社が決まりました」と当時を振り返る奥様。「フィーリングが合ったというか、nuなら自分たちの理想を叶えてくれそうな予感がしたんですよね」とご主人が続けます。そんなA夫妻が最終的に購入したのは、蕨市の75㎡の物件。ターミナル駅へのアクセスも良く、出張が多いご主人にとっても好都合な立地です。「実は最初、同じマンションの違う部屋を申し込もうと考えていたら、直前で埋まってしまって。でも、その少し後に別階のこの部屋に空きが出たとアドバイザーの方が連絡をくれて、無事に購入することができました。よく不動産は巡り合わせと言いますが、本当にその通りですね」とA夫妻。アットホームな雰囲気が漂うこの街で、A夫妻の新しい生活がスタートします。
“活かす”という贅沢
「『全て壊してゼロから作り上げる』よりも、せっかくリノベをするなら『既存を上手く活かした家』にしたかったんです。素材そのものを活かしたシンプルで素朴な雰囲気を目指して、作り込みすぎない加減を夫婦で良く話し合いました」とA夫妻。そんなお2人の要望に対しデザイナーは、既存の壁を解体するだけで、新規の壁を一切立てないという選択でプランニングを進めて行きました。そうして出来上がったのが、総面積約75㎡の内、個室は約10㎡の予備室のみ。残りの広々とした面積を可変的で自由度の高い空間に設えた1LDK+WICのプランです。玄関扉を開けた先に広がるのは、洋室1部屋分の開放的な土間。「田舎から土付きの野菜が届くので、室内で気兼ねなく作業できる場所が欲しくて土間をリクエストしました。夫はキャンプチェアに座ってお酒を飲んだり、夫婦それぞれの趣味を楽しんでいます」と奥様。土間の一部に設えた収納は、洋室にあったクローゼットを再利用したものなんだとか。そして土間とリビングを仕切るのは、まるで“動く壁”のようなH2500の木の引き戸。引き戸を開閉すれば土間→リビング→廊下の回遊が可能になり、「家事中はバタバタするので、回遊性が欲しかった」という奥様の願いを叶えました。回遊性は動線のショートカットだけでなく、光と風の抜け道にもなり、A邸には清らかな空気が流れています。この木の引き戸のデザインはアルヴァ・アアルトの自邸から着想を得てデザイナーが提案したもの。「デザイン打合せの時に、新婚旅行で訪れたアアルトの自邸の雰囲気が好きだとお伝えしたら、デザイナーさんがこの木の引き戸を提案してくれて。戸を閉めて両端の2枚がぴたっとハマると、木の表情が全面に現れてガラリと雰囲気が変わるんです。重厚感のある佇まいもカッコよくて、すごく気に入っています」とにっこり笑うご主人。
木の引き戸の先に広がるのは、約23畳の開放的なLDK。思い切って新調したというハンス・ウェグナーのハイバックソファが、素材感を大切にした空間に馴染んでいます。「実家もそうなんですが、個室があっても結局みんなリビングに集まるんですよね。だから必然的に広いリビングだと良いなと思い、和室を壊してリビングを拡張しました」と奥様。バルコニー側からはたっぷりと光が注ぎ、広々としたリビングを明るく照らしています。梁から引き戸までのスペースが元和室で、梁に設置したカーテンを閉めれば個室化することも可能です。そしてリビングと隣り合うのは、セミオープンなダイニングキッチン。奥まった場所に設えたキッチンは、どちらかと言えば“台所”という言葉が似合う、落ち着きのある佇まいです。深い藍色のような釉薬を塗ったタイルと、シンプルなステンレスキッチンの組合せが、ノスタルジーな雰囲気を掻き立てています。「趣味の和食器や調理道具が映えるよう、シンプルでラフな設えのキッチンをリクエストしました。収納もオープンで、使い勝手が良いですよ」と奥様。タイルの色は、白と迷ったそうですが、「ダークな色味のタイルを選んだことでキッチン全体がまとまった印象になって、とても気に入っています」とにっこり。「今は家で食事をすることが多いので、妻と一緒に夕飯を作ることもあります。旅行先で買った器が沢山あるので、料理に合わせて選ぶのが楽しいです」とご主人が続けます。キッチンには洗面スペースに通じる扉を設け、キッチンとリビングの二方向から洗面スペースにアクセス可能。回遊性があるおかげで家事効率も良くなり、日々便利さを実感しているそうです。
移りゆく暮らし
「あの時は〇〇〇でしたね!」と、取材に同席していた担当アドバイザーやデザイナーとなごやかに談笑するA夫妻。物件探し、設計デザインそれぞれにエピソードがあり、沢山のことを話してくださいました。今回のリノベーションではご自分たちで手を加えた箇所もあるそうで、フローリングのオイルはご主人がDIYで塗ったのだそう。「面積が広くて大変だったんですが、良い思い出です!コストカットにもなり、一石二鳥ですね。木の引き戸も素地のままにしてもらうなど、家が出来上がった後も手を加えて楽しめるよう余白を残してもらいました」とご主人。間取りの可変性も含め、自由度が残されたA邸。作り込まれた空間で決められた生活をするよりも、「壁の色を塗ってみたり、家具の配置を変えたり。例えば10年経っても新鮮味を感じられるような、変化を楽しむ暮らしをしていきたいです」と、笑顔で締めくくってくださいました。
丁寧な足し算と引き算でつくり上げた、今回のリノベーション。コンクリートや木など、素材の質感を活かしたラフなA邸には、気取らずに過ごせる心地よい空気が漂っていました。