
艶が美しい深緑のタイルに、上質さを感じさせる赤味のある木。現代的に再解釈されたクラシカルな住まいには、ご夫婦の豊かな時間と音楽が流れていました。

感性への信頼
東京都文京区。賑わいのすぐそばにありながら、静けさを保つエリアでマンションをリノベーションしたSさんご夫婦。ご主人は会社員、奥様は医師で、共通の趣味は音楽という感性の高いお二人です。以前は九段下の賃貸に2年半ほど住んでいましたが、会社の家賃補助制度の変更に伴い、マイホーム購入を決意。結婚してまもなく3年、ちょうどいいタイミングだったと言います。
「家族構成の変化やそのときの暮らしに合わせて住み替えていきたいと考えていたので、新築より中古の方が良いだろうなと。試しに新築も2軒見たんですが、価格はしっかり高いのに希望の間取りじゃないことに違和感があって。もともと全部にこだわった空間に住んでみたいと思っていたので、やっぱり新築ではなく中古リノベーションだなと」。
ヴィンテージ家具が並ぶ家で育った奥様は、インテリアへの感度が高く、以前からインテリア系のYouTubeを見ることが多かったそう。色々なチャンネルを見る中で、インテリアにこだわっている人の家はリノベーションが多いことに気づき、なんとなく中古リノベーションが頭に浮かんでいたと言います。
中古物件探しはご自身で。駅近、できれば70㎡以上、スーパーが近くにあること、ご主人の職場に通いやすいことを条件に検索し、半年かけて10軒を内見しました。この築25年、67.15㎡の物件の決め手は、都心のマンションなのに1階に店舗が入っていないこと、エントランスの雰囲気が良かったこと。70㎡には少し足りませんでしたが、広々と設計してもらえばよいと思ったそうです。
nuリノベーション(以下nu)に問合せしたのは、この物件を買うか迷っていたタイミング。「色んなリノベーション会社を見たところ、物件探しを一からワンストップでやってくれる会社は多いんですけど、自分で探した物件に内見同行してくれる会社はnuさん以外に見つからなくて。そもそもリノベーションできる構造なのかを購入前に確認したかったので、nuさんに出会えて助かりました」、とご夫婦。
内見では、水回りの移動の可否と動かせない梁があることの確認、構造的にできそうなリノベーションのアイデアなどを、アドバイザーが丁寧に説明してくれたそう。おかげで、安心して購入に踏み切れたと言います。また、nuを選んだのは、デザイン面への期待も大きかったそうで…。
「事例を見たら、デザインのジャンルに偏りがなく、色んな好みを叶えているなと。ピンポイントでコレという事例はなかったんですけど、nuさんにお願いすれば私たちの希望が絶対に叶うだろうなと確信がありました」。こうして、期待の中で設計打合せが始まりました。

新たな解釈で
「家で過ごす時間が限られているからこそ、その時間を豊かにしたい」と願っていたご夫婦。共通の趣味である音楽と奥様の趣味の生花を楽しめる空間で、人を招けることも望んでいました。
将来的な売却を考慮して、間取りは1LDK+書斎+WICという普遍性のある構成に。奇をてらった間取りではなく、当面の暮らしにフィットしつつ資産性とのバランスも取れる間取りにしました。
内装は「クラシカル過ぎない海外住宅のような空間」という奥様の希望から、デザイナーはクラシックを現代的に再解釈した“classic contemporary”をコンセプトに設定。
持ち込み予定だったデンマークのビンテージ家具と内装が調和する空間にデザインしていきました。
LDKは16.0畳で、床はベージュの塩ビタイル、天井は白で上品に整えつつ、造作キッチンの面材からリビング壁面に連続して赤味のある木を貼ることで、空間全体を一体の家具のように仕上げました。
さらに、構造上動かせない梁はあえて躯体現しの白塗装で無骨さを出し、異なる質感を楽しめるように。大通り沿いの立地のため、防音対策に内窓を設置し、静かな室内環境を確保しました。
キッチンは幅約5mの壁付け型で造作。収納の取っ手は、意匠に溶け込むようあえて存在感を曖昧にし、静かに整えています。前面の壁には、ロエベの店舗内装をイメージしたグリーンタイルを採用し、アクセントに。「デザイナーさんが30種類くらいサンプルを取り寄せてくれて。おかげで、家具と調和する色味を選べました」と、奥様。また、動かせないパイプスペースも同じグリーンタイルで包み込み、象徴的な存在へとアップデート。冷蔵庫や調理家電を収められるパントリーも設け、リビングから生活感が見えないように工夫しました。

LDの一角には3.6畳のワークスペースを設け、将来子ども部屋としても使える柔軟な空間に。ダイニングと仕切る建具の上部はガラス戸にして、音を遮りつつ光と気配は通うようにしました。
洗面台は廊下に造作し、帰宅時にも来客時にも使いやすい動線に。ドライヤーの音がリビングに響かないように、ドライヤー兼メイクスペースを脱衣室に設置し、互いの静かな時間を邪魔しないように配慮しました。
寝室は4.3畳とミニマムに設計し、寝室内にWICを設置。トイレはWALPAで購入した深緑の海外製アクセントクロスを採用し、森の中のように落ち着く空間に仕上げました。
「当初はトイレのドアの内側やスイッチプレートは白だったんですけど、私がこの壁紙を選んだら、デザイナーさんが黒に変更してくれました。確かに白のままだと浮くのに、自分では気づかなかったので、やっぱりそこはプロだなと」。
また、「モザイクタイルで有名なイタリアのファエンツァという街が好き」という奥様の声から、玄関の床は白・ベージュ・茶のモザイクタイルでオリジナルのデザインに。壁面収納とシューズボックスも造作し、ゴルフバッグや靴が収まるようにしました。
こうして、ヴィンテージ家具と現代の暮らしが重なり合う、理想の空間が完成しました。

可能性を広げ続ける
クラシカルな重厚感と、軽やかで洗練された開放感。二つの要素が静かに溶け合う空間は、望んでいた海外邸宅そのもの。暮らし始めて約6カ月、過ごし方には少しずつ変化が生まれていると言います。
以前は気分転換を兼ねてホテルに滞在する“ホカンス”を楽しむことも多かったそうですが、今は自宅で過ごす時間そのものが特別になったので、ホテルに泊まる機会が激減。
その反面、「料理をする機会が増えました。キッチンがとにかく広くて使いやすいし、『このキッチンだったら立ちたい』という気分になったので。人が来ることも増えて、来客前はローストビーフを仕込んだりしています」と、ご夫婦は笑顔を見せます。
休日の夜にはペンダントライトの灯りだけを残して映画を楽しむ時間も増え、「土曜の夜に家にいることが多くなりました」と、ご主人。休日にはご主人がギターやチェロを奏で、それに合わせて奥様が歌う。そんな何気ない時間の重なりが、この家での暮らしの豊かさを形づくっているそうです。
ずっと大切にしてきた家具たちも、すでにしっくり溶け込んでいます。ダイニングにはデンマークのヴィンテージエクステンションテーブルを据え、その上部には&Tradition(アンドトラディション)のフラワーポット。現行品のピエール・ポランのワークデスクもお気に入りです。
「ソファに座ってLDK全体を眺めているとき、毎日同じ景色なのに、見るたびに『改めていい家になったな』って思います」と、ご主人。奥様の趣味である生け花を飾るスペースが増え、暮らしに華が添えられるようになったことも嬉しい変化だと言います。
「まだまだ余白があるので、今も現在進行形でアップデートを楽しんでいます。これから家具やアートを少しずつ増やしていきたいし、フロアライトも欲しいですね。現状でもちろん満足はしているんですけど、また違うテイストでリノベーションしたい欲がすごく高まっています。あと3回くらいしたいですね(笑)」、そう奥様は笑います。
最後に、ご主人が今回のリノベーションの総括を聞かせてくれました。
「リノベーションする前のこの家を知っているからこそ、『こんなに変わるんだ』という感動がありました。僕は妻に比べるとリノベーションに対する解像度が低かったので、余計そう思いましたし、梁とかパイプスペースとかのどうしようもない制約をプラスに変えちゃうのもすごく面白いなって。やっぱりプロの技ですね」。
こうして、新たな暮らしを満喫しつつ、すでに次回のリノベーションにも思いを馳せているご夫婦。リノベーションは人生の可能性を広げ続けてくれることを、お二人とこの家が教えてくれました。

Interview & text 安藤小百合