L字型の物件の特徴を活かし、美術館×博物館のコンセプトでつくり上げた好きなゲームやアニメを自然に感じられる空間。明確なテーマを持つ二つの世界観がテンパードアを境に表裏一体となった、唯一無二の自邸での暮らしとは。
直感と冷静な判断
「本格的に家づくりを検討し始める前から設備メーカーのショールームを見て回るくらい、家のことを考えるのが好きだったんです」。
そう話すのは、約1年半前に購入した中古物件をフルリノベーションして暮らすY夫妻。ご夫婦共にゲームクリエイターという、生粋のものづくり好きのお二人です。
ご結婚を機に福岡県から上京した当初は、中目黒の約32㎡の賃貸にお住まいだったY夫妻。
「利便性だけで急いで探した家だったので、キッチンは狭いし、趣味のアートやフィギュアを飾る場所もなくて。職場へのアクセスが良ければエリアにはこだわらないから、とにかく広い家に住みたい、やりたいことをとことん追求してリノベしたいと思ったのが、家づくりのきっかけでした」。
そんなお二人が購入したのは、都内ではなかなか出会うことのできない99.96㎡の物件。nuリノベーション(以下、nu)の担当アドバイザーと物件を探し始めて、一番最初に案内された物件でした。
内装は新築当初からほぼそのままの状態。奥様は『面白いことができそう』と直感しつつも、即決することには躊躇いがあったそう。
「主人はビビッときていたようなんですが、流石に1軒だけでは判断できなくて。その後数日かけて4軒ほど内見させてもらいました。その間も、主人が3Dパースをつくって物件の魅力をプレゼンしてくれて。この物件だったらこんなことができるよ、こんな家になるよと、楽しそうに話す姿を見ているうちに『そこまで惚れているなら』と決意が固まりました」と、奥様。「物件的な魅力もありましたが、1番の決め手は主人が気に入っていたことですね。リノベ会社を選ぶ時もそうでしたが、どちらか一方がものすごく気に入っていれば、その判断に間違いはないだろうと思っていて」と続けます。
実はリノベ会社を選ぶ決め手になったのも、ご主人の直感だったそう。
「何社か相談しに行きましたが、一緒に家づくりをしたいと思ったのはnuのTアドバイザーだけだったんです。『色々やりたいことがあるならnuは相性がいいと思うし、自信を持ってお勧めします。でも、他社さんもぜひ検討してみてください』と言ってくれて。普通であれば『うちでどうですか?』が前提の中で、一歩引いてくれたのが逆に心に残ったんです」とご主人。
ご自身たちもクリエイターだからこそ、クリエイター同士でいい空間をつくりたかったというY夫妻にとって、「なんでも思いをぶつけてください」というアドバイザーの姿勢に安心感があったと振り返ります。
会社選び・物件選びともにご主人のインスピレーションと奥様の冷静な判断が掛け合わさり、最善の選択ができたというお二人。
いよいよ、念願の設計デザインミーティングが始まります。
一生分のディスカッション
担当デザイナーとの初めての打合せでは、物件探し中から練り上げていた3Dパースをブラッシュアップさせた資料を持参して思いを伝えたというY夫妻。
「やりたいことがありすぎて、要望を一通り伝えるのに何時間もかかってしまいました。一生分話させてもらったので、その後の満足感はすごかったです(笑)。担当デザイナーさんも親身になって聞いてくれて」と、奥様。
まず、お二人が大きなテーマとしたのが、室内を白と黒の空間にわけ、それぞれ“アートを飾る美術館”、“オブジェを並べる博物館”とすること。ファーストインプレッションで魅力を感じたL字型の物件の特性を活かし、躯体壁を境に世界観を分断しようと考えたと言います。そんなお二人の要望を、設計デザイナーは『conceptArt』というコンセプトで表現。明確なテーマを持った2つの空間にアートを詰め込み、お二人の個性が感じられるユニークな空間をつくるという思いが込められています。
また、Y夫妻が絶対に譲れなかったというのが、ショールームで実物を見て惚れ込んだというクリナップのシステムキッチン<セントロ>を導入することと、美術館・博物館を切り替える建具をテンパードアとすることでした。
「二人とも料理が好きなので、キッチンは妥協したくなくて。真四角のシンクとブラックステンレスの質感もすごく魅力的だったので、このキッチンを入れられる家をつくろうと決めていました。テンパードアは、躯体壁の質感と絶対に合うと思って。この要望も、最後まで貫き通しました」。奥様念願のテンパードア越しには奥に続く博物館ゾーンがうっすらと見え、扉を開ける前からワクワクするような高揚感を掻き立てます。
そのほかにも、フィギュアを飾るスペースは必須、ゲームや音響機材がしっかり置けて配線が見えないテレビ周り、インナーテラスも絶対にほしい!など、次々と溢れ出すアイデアをプランに詰め込んでいったお二人。
「想定はしていましたが、やりたいことを全部やるとかなり予算オーバーで(笑)。コスト調整の打合せにかなりの時間がかかったんですが、デザイナーさんのアイデアがとても豊富で、私たちのやりたい要素をしっかり残しながら減額していける方法を提案してくれました」。
「アシスタントデザイナーさんも毎回たくさんのサンプルを用意してくれて。みんなでイメージ共有がしっかりできていたから、それぞれがしっかり提案しあえる、そんな空間でした。本当に、安心して任せられたよね」と、打合せを振り返ります。
世界観を徹底してつくり上げつつも、住みやすさを追求することも忘れない。その軸を決めたらあとはひたすらブレないように、意見交換しながらディテイルをつくり上げていったというこの空間に身を置いていると、Y夫妻と担当デザイナーの意識下でつくりあげたい正解感が徹底的に共有されていたのだということをひしひしと伝わってきます。
飾られているアートも、すべてゲームの世界観で統一されているY邸。二人ともゲーム好きなことから、「二人らしいね」といってもらえる空間がつくりたかったと言います。二人らしさを出しつつ美術館というテーマがブレないように、飾るアートやインテリア一つ一つにもこだわりが。
リビングの躯体壁にかけられた3枚のアートはゲームの背景画をシルクスクリーン技法でアート化した作品で、ゲームの中の街並みや森などの風景が立体的に描かれています。これは、本物のグリーンを飾ると美術館っぽさが薄れてしまうと考えた末に行き着いたアイデアだったそうで、クリエイターであるお二人らしいユニークさが感じられます。
「スーパーファミコン世代の私たちが子供の頃に一番ハマったゲームの背景画なんです。<ほぼ日>の糸井重里さんが手がけたもので、完全受注生産。この家ができて、やっと日の目を見ることができました(笑)」と愛おしそうに見つめます。
美術館というテーマを貫くために、見せたいアート以外は白いボックスに収納して生活感を隠すのがマイルールだというお二人。玄関廊下にもフィギュアを飾っているため、廊下沿いのオープン収納は白で統一したボックスに日用品や食料品を収納し、世界観をキープしています。
対照的にダークな雰囲気でまとめた博物館エリアは、テンパードア越しの見え方にもこだわったそう。
「ドアからまっすぐ奥まで続くパーケットフローリングは、この家の準主役とも言えるポイントで。デザイナーさんが『私たちもこれはやりたいです!』といって、予算調整の中でも必死に守り抜いてくれたんです。おかげで視界に入るたびにニヤニヤしています(笑)」と、奥様。フィギュアの飾り棚もテンパードアのすぐ脇にレイアウトし、LDKからいつでも視界に入るように計画。仕事から帰ったご主人が趣味を楽しんでいる姿をドア越しに眺めるのも、奥様の幸せな時間なのだと言います。
クリエイティブを詰め込んで
満足度の高い家づくりの秘訣を伺うと、クリエイターであるお二人らしい、2つの答えが返ってきました。
1つ目は、コンセプトを決めたらブレないこと。オーダーリノベーションは自由度が高い分目移りしてしまいがちですが、最初に決めた『美術館×博物館』のテーマにマッチしているかを基準に、夫婦で意見しあったそう。
「nuさんの事例を見てると、どれも良くてどんどんブレちゃいそうになるんです(笑)。けど、いやいや、私たちの方向性はここだよねと軌道修正するようにして。魅力的な建材もたくさんあるけど、お互いに『そのテイストは浮気だ!』と指摘しあったりして(笑)」。
お二人の家づくりのエピソードを聞いていると、夫妻の家づくりへの好奇心や情熱につられて、自然とこちらまで笑みが溢れてしまいます。
そして2つ目は、質問や意見を言いやすい環境。実はご親族に新築の注文住宅を建てた方がいらっしゃるそうですが、『思ったことをもっと言えば良かった』としきりに後悔していた姿が印象に残っていたのだとか。
「要望を言っていいタイミングがわからなくて遠慮してしまって、でも計画はどんどん進んでいく…。そんな話を聞いていたので、自分たちは思ったことを何でも言おうと決めていました。打合せの時間はコミュニケーションが取りやすい雰囲気でしたし、全てに納得感があって。今回実現できなかったことも含め、後悔は一切ありません!」とY夫妻。
お話を伺っている間、ご自宅をたびたび「宝箱」と表現されていた奥様。その言葉には、Y夫妻とnuだからこそ実現できた、熱量の高い空間づくりへの達成感や幸福感が現れているようです。
今後も買いたい家具や飾りたいアートがたくさんあるという夫妻。特に博物館エリアはまだまだ発展途上で、「乞うご期待です!」と楽しげに微笑むお二人。
たくさんの思い出と二人の好きなものを詰め込んで、Y夫妻の宝箱はこれからも進化を続けていくことでしょう。