真っ白な箱の中に配された、モルタル調の床と木素材のインテリア。家全体にベールをかけたように、隅々までやさしく回る自然光。無機質なのにあたたかい住まいで送る、夫婦の洗練された暮らしとは。
同じ感覚
「夫婦ともに建築を見るのが好きで、いつか自分たちに合った家に住みたいと思っていました。賃貸の更新のタイミングで住宅購入を検討して、新築も見ましたが、ちょっとイケてないなと。ここに棚いらないよねとか、扉のデザインが気になるとか、床材が好きじゃないとか。いくつか見ましたが、しっくりくる物件はありませんでした」
そう話すのは、神奈川県の閑静な住宅地に住むOさんご夫婦。大学で建築を専攻していた奥様は、以前から家づくりには様々な選択肢があることも、リノベーションの魅力もご存じでした。住宅やインテリアに重きを置いている以上、妥協できないことも多く、その解決策を身の丈に合った形で探りたかったと話します。
リノベーションを始めるにあたり、リノベーション会社のインスタグラムをいくつかチェックしましたが、奥様の直感で瞬時にふるいがかかり、nuリノベーション(以下、nu)だけが候補に残りました。
「素材の使い方と統一感が、ものすごくしっくり来ました。nuさんと私たちは、同じ意識や感覚を持っている気がしましたね。この会社の方だったら話が早そうだと思いましたし、私たちの希望がすぐに実現できるんじゃないかと思って」と、奥様は振り返ります。
早速nuにコンタクトを取り、仲介アドバイザーと打合せを開始。早々に物件探しに取りかかり、5軒ほど内見しました。重視した条件は、夫婦ともに通勤30分圏内、治安、暮らしの利便性、駅から徒歩圏内、広さ、そして価格。すべての条件をクリアする、この築22年、61.88㎡の中古マンションに出会い、購入を決めました。
「仲介アドバイザーさんは、私たちが実現したいイメージを事前に分かった上で内覧に同行してくれたので、心強かったですね。『この壁は抜けるので大丈夫ですよ』『この家の形ならこんなこともできます』と具体的な提案をしてくれたので、判断しやすかったです。その他にも、物件の探し方や正しい選定方法、ローンの実情など、いいことも悪いこともちゃんと教えてくれて。nuさん的にはプラスにならないであろうことまで、全部教えてくれました。対お客さんというより、対人間として親身に寄り添ってくれて、すごく信頼できましたね。普通の不動産屋さんとはできないような話ができたのが、ものすごくよかったです」と、ご夫婦は話します。
ゆだねてくれるデザイン
「基本、家から出たくない(笑)」というインドア派のご夫婦は、おしゃれな場所に行かなくても満足できる空間に住みたかったと言います。『ブルーボトルコーヒー』や『%Arabica Kyoto(アラビカキョウト)』の店舗のように、おしゃれだけど肩肘張らずリラックスできるインテリアをイメージしていました。
そこでテーマにしたのは、「無機質で落ち着いた空間」。壁や扉は全面白で統一し、マンションならではの低い天高を高く見せるために、躯体をむき出しにして白く塗装しました。床は全面モルタルを希望していましたが、コストと生活利便性を考慮して、モルタル調のPタイルをチョイス。モルタルさながらの雰囲気を楽しめるのに、モルタルのように割れる心配がなく、汚れたらサッと拭けて快適です。
間取り面は、広いLDK、ベッドルーム、未来の子ども部屋、WIC、玄関土間の5つをリクエスト。「収納家具を置きたくない」という奥様の希望で、家族全員分の洋服が余裕で収まるWICを設けました。
「インドア派ながら、今後はハイキングやキャンプデビューをしたいと思っていて。土間があればアウトドア用品や泥モノも安心して置けるし、玄関が広く見えていいですよね」と、ご夫婦は話します。
また、設計デザイナーは、この家に「daylight(日光)」というコンセプトを贈りました。直接的な照明が苦手なので自然光で暮らしたい、という奥様の希望を叶えるために、壁にスリット窓を設けたり、建具をガラス戸にしたりして、LDKの窓から入る光を奥の部屋まで届ける工夫を随所に施しました。LDKの中心部を避けて間接照明を設置したり、刺激が少ないように場所によって光色を変えたりするなど、照明計画も入念に行いました。
「晴れの日なら、日中は電気をつけなくても十分明るいです。私は家でリモートワークですが、自然光の中で仕事していると、気分が全然違いますね。今の時期は外にウグイスがいるんですけど、ストレスフルなときにチュンチュンと鳴き声が聞こえると、『はぁぁ~最高~!』って(笑)」と、奥様は両手を広げて笑います。
この家の主役の一つ目は、奥様熱望の「業務用みたいな」オールステンレスキッチン。シンク・天板・フレームだけのミニマルなオーダーフレームキッチンを探し当て、表面は光沢を抑えるバイブレーション仕上げにして、空間の落ち着きを邪魔しないよう配慮しました。対面式ではなく壁付けにすることで、リビング・ダイニングを広く確保。すぐ横に冷蔵庫やストック食材を隠せるパントリーを設け、生活感を一掃しました。
2つ目の主役は、設計デザイナーが提案したTVボード兼ベンチ。マンションの限られた空間を有効活用する、スペシャルなアイデアです。TVや雑貨をディスプレイできるだけでなく、床座でデスクとしても使用可能、来客時には皆で腰掛けられるベンチにもなるなど、使い道は無限大。天板にはモールテックスを採用したことで、当初から使いたいと思っていた素材をすべて使うことができたのだそう。
「私は何にでも使えるようなもの、使い方をこちらにゆだねてくれる建築物が好きなので、このTVボード兼ベンチの提案は一目で気に入りました。シンプルな空間だからこそ、アクセントになるものが欲しいと思っていたので、その点もぴったりでしたね」と、奥様は目を輝かせます。
欲しい未来を先取り
この家に住んで9カ月。飴色の木が美しいアクメファニチャーのリビングソファ、作家ものの陶器製のペンダントライトが、無機質な空間にあたたかみを添えています。自分たちに合った空間での暮らしはストレスがなく、100点では足らないくらい満足していると言います。
「動線もめちゃめちゃいいですね。洗面台を廊下につくってもらったので、帰宅後すぐに手を洗えるし、歯を磨きながらWICに行って、その日着る服を選んだりしています」と、ご夫婦。すべての扉を天井に届くハイドアにしたおかげで、廊下が高く見えるのも気持ちがいいそうです。
今後は、プロジェクターを購入したり、犬か猫を迎えたりしたいというOさん。そのために、すでにTVボードの背面にプロジェクタークロスを採用してあります。床材にPタイルを使ったのも、犬や猫の足腰に負担がないようにという配慮から。今の暮らしに合わせた家ではなく、欲しい未来を先取りした家をつくれるのも、リノベーションの魅力です。
「これからどんなものを置いていこうか、日々考えるのが楽しいですね。賃貸時代は、いつか引越すのにこの部屋に合わせても仕方ないと思っていましたから。休日の朝、朝日の中でゆっくりコーヒーを飲む時間が至福です」と、ご主人はうっとり話します。
こうして、おしゃれだけど肩肘張らずリラックスできる空間をつくりあげたOさん。予定どおり、カフェにいく回数は減った?
「格段に減りました。このエリアはおしゃれなカフェがたくさんあるんですけど、どこも結構にぎやかで落ち着かなくて。家を超えるカフェが見当たらないので、『じゃあ家でいいか』って(笑)。自宅が一番落ち着くカフェになりました」と、笑うご夫婦。
これからもこの無機質な空間に、たくさんのあたたかさがあふれていくことでしょう。
Interview & text 安藤小百合