ホテル巡りが趣味の夫妻が創り上げた、オリジナルテイストのホテルライクな自邸。グレーをベースにしたシックな空間に、選び抜かれた家具やグリーンが並ぶA邸を訪ねました。
実家をアップデート
東京都足立区。活気のある下町情緒と、都心部からのアクセスの良さが魅力的な北千住エリアに暮らすA夫妻は、約1年前に奥様のご実家だったマンションの一室をリノベーションしました。「家族の引っ越しのタイミングが重なって実家が空くことになり、そのタイミングで父からここを譲り受けて、6年ほど主人と住んでいました。ただ、築30年超えということもあり、一部リフォームが必要になるなど不便を感じることも多くて。一度はこの近辺で新築マンションの購入も検討していたんです。でも主人がリモートワークに切り替わったこともあり、ある程度の広さが欲しいなと思うと、予算に見合う物件が中々なくて」と当時を振り返るA夫妻。そんなお二人が最終的に選んだのは、住み慣れた自宅をリノベーションするという選択肢でした。「大人になっても地元を離れたことがないくらい、このエリアが気に入っていたこともあって、せっかくなら譲り受けたこの家を活かして全面的にリノベーションしようと考えました。リノベなら主人のリモートワークにも対応した自由度の高い家づくりができそうだなと思ったので」と奥様。まずはネットでヒットしたリノベ会社に資料請求をしたり、モデルルームを見学してイメージを膨らませたりするなど情報収集をして、リノベ会社を選定したそう。その中でnuリノベーション(以下、nu)に依頼することを決めたのは、スタッフとのフィーリングだったと教えてくださいました。「なんとなくこういう空間にしたいというイメージが固まっていたからこそ、感覚的に理解してくれそうな方だと嬉しいなと思っていて。nuのスタッフさんたちは自分たちと同年代の方が多いというのもあってか色々と話しやすかったし、イメージや好みを理解してくれそうだなと感じていました」とA夫妻。幼い頃から家族と共に過ごした家に、今度はA夫妻の価値観を反映させて、新しいカタチで住み継いで行きます。
二人色のホテルライク
玄関扉を開けた先に広がるのは、明度と彩度を限りなく落としたグレイッシュな廊下とガラス張りのベッドルーム。まるでホテルの一室に足を踏み入れたような、非日常の高揚感に包まれています。「ホテル巡りが夫婦共通の趣味で、これまでに色んな旅館やホテルを訪れました。それもあってかホテルライクな空間に憧れていて、リノベーションにもそれを全面的に反映させました」と奥様。オリジナルカラーの幻想的なブルーで塗装した引き戸を開けると、全面タイル張りのシックなLDKがお出迎え。今までに訪れた中で特にお気に入りだというホテルからインスピレーションを受け、床全面と壁の一部をグレーにすることを決めたと言います。グレーのアクセント壁はソイルペイントというドイツ生まれの自然塗料で塗装し、表情のあるテクスチャーに仕上げました。「本当は壁全面をグレーにしたいくらいだったんですが、それだとさすがに部屋が暗いなぁと思って。ホテルライクは好きだけど、日常生活のことを考えて一部は白壁にしておいてよかったです(笑)」と奥様。それから、この家を語る上で外せないのが、クールな空間を彩る選りすぐりの家具の数々。特にダイニングに吊り下げたババグーリのペンダントランプは、奥様が一番大切にされているアイテムで、A邸のアイデンティティでもあります。「京都のホテルマルタという所でこのガラスランプが使われているのを見て、一目惚れしてしまって。このカラフルなランプが似合う内装にしてください!と、設計当初からデザイナーさんに伝えていました」。そんな奥様の想いを受け取り、担当デザイナーがA夫妻に提案したのは“カグトイエ”というコンセプト。ホテルライクな雰囲気を大切にしながらも、ランプをはじめとするお気に入りの家具が映える空間デザインを念頭に置き、家具と家の両方が引き立つ絶妙なバランスで整えられています。
今回のリノベーションで一番こだわった点を尋ねると、奥様から「キッチン!」というアンサーが。造作で創り上げたA邸のキッチンは、スペースを有効活用したL字型で、家族との会話も弾むオープンな仕様。腰壁はリビング壁面と同じグレーで塗装したことで、空間に統一感が生まれています。「リノベ前は独立型キッチンで閉鎖感があったので、こういうリビングに開けたキッチンにしたかったんです。デザインにもこだわっていて、特に壁面のタイルが海外のホテルみたいで気に入っています。当初は単色のタイルで市松模様にするのもいいなと思っていたのですが、パキッとしすぎないように大理石のようなマーブル柄のタイルをランダムに配置してもらいました」と奥様。また、ホテルライクなLDKの雰囲気を崩さないよう、キッチンはできるだけスッキリとした見た目を保つようにするのがA邸のルール。例えばワークトップに置くのは、洗練された最小限のキッチンツールのみ。冷蔵庫や家電はリビングから見えないパントリーに収納することで、生活感を軽減しています。そして、キッチンの隣にはご主人のワークスペースをレイアウト。「完全在宅ワークなので、置き家具ではなく造作でデスクをつくって集中できる環境を確保しました。リビングに対してオープンな仕様ですが、両サイドに壁があるのでほどよくこもり感があります」とご主人。チェアは見た目も座り心地も抜群だというハーマンミラーのヴィンテージをコーディネートし、サイドにはシンプルで美しいUSMハラーのワゴンを設置。「リビングにあるワークスペースなので、雰囲気を壊さないようインテリアを選びました」と奥様が続けます。また、廊下や寝室もホテルライクな世界観で統一されていて、ガラスの引き戸で仕切られた寝室はまさにホテルの客室のよう。引き戸の内側にはカーテンレールを設置しているため、来客時は目隠しをすることもできます。床材にはA邸唯一のフローリングを採用し、スタイリッシュさの中にも木の安らぎを感じられるデザインに。寝室の家具にもA夫妻のこだわりが反映されていて、ジョージ・ネルソン作のバブルランプが優美な雰囲気を掻き立てています。
心地よさの秘訣
リノベーション後は、休日の過ごし方にも変化があったと教えてくださったA夫妻。「以前は外でしか飲まなかったのですが、リノベで居心地のいい空間になったので、夫婦で家飲みをする機会が増えました。親しい友達を招いて、みんなでお酒を飲んだりご飯を食べたりもします」。楽しそうに話すその姿からは、リノベ後の暮らしを存分に楽しんでいる様子が伝わってきます。また、リノベ前の部屋にも遊びに来たことがあるご友人や妹さんは、A邸の変貌ぶりにとても驚いていたそう。「みんな『リノベするとこんなに変わるんだね!』って本当にびっくりしていました(笑)『ここに住んだら楽しそう』とか、友達の子供が『自分の家もA家みたいにしたいから、自分の部屋の片付け頑張る!』って言ってくれたり。大人だけじゃなくて、子供からもそんな風に言ってもらえるって嬉しいですよね」と笑顔で語る奥様。A邸にはまるで本当のホテルのように、訪れた人の心を掴む心地よい空気が漂っていることをひしひしと感じます。
空間そのものはグレイッシュなクールさがありながらも、物語性のある個性的な家具や鮮やかなグリーンで彩りを加えることで独自の輝きを増しているA邸。“カグトイエ”の両方が引き立つ空間づくりが、お二人にとってのベストプレイスを創り上げました。