家族でゆったりと寛げる、全長4mのヌックが特徴的なプラン。清々しい眺望、厳選したテクスチャー、北欧の名作家具など、お気に入りで満たされた建築士の自邸を取材しました。
一目惚れした眺望
都心から電車で40分ほどの東京郊外に暮らすYさんご夫妻は、坂の上に建つ見晴らしのいいマンションの一室を購入し、リノベーションしました。南西に大きく切り取られた窓からは、富士山が望める美しいロケーションが広がっています。
「せっかくマンションに住むなら、眺望を重視したくて」。そう話す奥様は、戸建の設計職に従事する建築士。当初は戸建でゼロから自邸をつくることを検討していましたが、予算など総合的な条件が合わず、中古マンション購入+リノベーションにシフトしたといいます。「こういう家に住みたい、こんな暮らしがしたいといった理想のライフスタイルがあったので。それを叶えるためには、既に出来上がった新築マンションを買うのではなく、リノベーションで自由に家をつくりたいと思ったんです」と、当時を振り返ります。
ネットやSNSを通じてリノベーション会社を探す中で、nuリノベーション(以下、nu)を見つけたという奥様。「マンションの設計は経験がなかったので、リノベーションの専門知識のあるリノベ会社を探しました。nuさんはいいなと思う施工事例が多かったことや、物件探しから依頼できる点も魅力的で。担当してくださったアドバイザーの方は知識が豊富で、そのベテラン感が信頼につながりましたね」。
ご主人の地元である立川エリアを中心に、日当たりや眺望を重視して物件探しを開始。トータルで5軒ほど内見し、今のお住まいである築24年・約78㎡の物件を購入しました。「夫婦揃ってここに即決だったんです。建物の前がひらけているので、眺望も日当たりも十分すぎるくらいに良くて。その代わり駅までの坂道は少ししんどいけど、いい運動になります(笑)」と、奥様。また、落ち着いた生活環境にも満足しているといい、「駅にはショッピングモールがあって便利だし、近くには大きな自然公園もあって。賑わいと落ち着きがちょうどいいバランスなので、暮らしやすいですね」と続けます。
実はYさん、これからワンちゃんをお迎えするための準備をしているそう。ペットにとってもうれしい緑豊かな環境で、家族の新たな暮らしがスタートしました。
陽光を活かす
ご夫婦ともに、明るく朗らかな雰囲気の内装が好きだというYさん。集めていた家具も北欧ブランドのものが多かったことから、北欧の美学に則ったシンプルで明るい空間をベースに打合せを重ねていきました。
そうして出来上がったのは、ナチュラルなモクの色味で纏め上げたシンプルな空間に、ブリックタイルや石目調のタイルを装飾した上質なLDK。なかでも目を惹くのは、南向きの腰高ほどの窓辺に約4mに渡って設けられたヌックです。実際に腰を掛けさせてもらうと、想像以上の居心地のよさに思わず気持ちがほころびます。
「大人2人が寝っ転がってゴロゴロできるような場所が欲しくて、ヌックをオーダーしました。ソファだと、1人が横になったら占領してしまうので。ただ、全長4mとかなり広いので、このプランを提案していただいた時は『斬新!』と少し驚きましたが(笑)、実際使い心地がすごく良くて、さすがHデザイナーだなって」と、にこやかに話す奥様。
冬真っ盛りのいまはヌックで編み物をしたり、時折り望遠鏡を使って窓から富士山を眺めたりと、ゆったりとした時間を楽しんでいるそう。まるで木の下(KONOMOTO)で寛いでいるようなリラックスした気持ちで過ごすことのできるヌックは、ご夫婦のお気に入りスポットへと仕上がりました。
また、白い壁・天井を基調としたLDに対し、ヌックの内部の壁・天井は薄いベージュのクロスが貼られ、ブラインドもベージュ色のものが採用されています。これはデザイナーからの提案だったそうで、「さりげなく色を変えることで、領域が区切られるんです。空間にメリハリをつけるという意味でも、取り入れてよかったなと思います」と、奥様。
2面採光の窓から差し込む陽光の恩恵をたっぷりと受け、まるで部屋全体がサンルームのようにぬくぬくと暖かいY邸。そこに北欧らしい柔らかな雰囲気が相まって、ずっとここに留まりたくなるような心地よさが漂っています。
シンプルな空間の中でフォーカルポイントとなっているのが、リビングのアクセント壁。パントリーとお風呂を覆うL字の壁に、ざっくりとした風合いのブリックタイルを装飾しました。これは奥様がいつか使ってみたいと考えていた素材だったそうで、「やるなら大胆にやりたいなと思って、思い切ってL字の壁に採用しました。外壁にも使えるタイルなので少しゴツゴツしているのですが、それが逆にいいなと思って気に入ってます」。少し荒々しいテクスチャーながらも、広めの目地のおかげでやさしくタイルが浮かび上がり、Y邸の雰囲気にもしっかりとマッチしています。
キッチンは造作の壁付けキッチンを採用。「色々なショールームで既製品のキッチンも見たのですが、オープンな場所にレイアウトするからこそ造作でこだわりたいなと思って。ビジュアルもそうですが、食洗機やグリルなど自分にあったものをカスタムしているので、使い勝手も抜群です」と、奥様。リノベーション後はグリルを活用して、ラムチョップやチキンのオーブン焼きを作るなど、「料理の幅が広がりました!」と笑顔で話します。
また、キッチンの隣にはパントリーを配置。パントリーは隣接するWIC、脱衣室とも繋がっていて、キッチン→パントリー→WIC→洗面室→LDKと1ストロークで廻れる回遊性を確保し、家事動線を快適にデザインしました。「パントリーとWICを繋げて欲しいとお願いしたら、水回りまで回遊できるこのプランを提案してくれて。共働きで仕事の日は忙しいので、裏動線のあるこの間取りに本当に助けられています」。
朗らかさを紡ぐ
この家での暮らしがスタートして、約1年が経過。今回の家づくりを経て、奥様は建築士ならではの目線でこう振り返ります。「自分も設計の仕事をしていて感じるのは、家づくりはあまり細かく考えすぎない方がうまくいくなと思っていて。最初に細かく決めてしまうと、すごく窮屈になっちゃうのかなって。大枠だけざっくり考えて、あとは住みながら整えてくのが1番いいのかなと」。
その言葉通り、リビングには当初は予定していなかったというハンモックが吊り下げられています。アウトドア好きのご主人と会話を重ねる中で設置することを決めたといい、今では欠かせないお気に入りの場所になっているそう。「大人が昼寝できるくらい快適で、友人の子供にも人気です。ヌックもいいね!と褒めてもらえることが多くて、友人たちが遊びに来た時に自分の家のように寛いでくれるのがすごく嬉しいです。この先も家具や植物を少しずつ増やして、大切に住んでいきたいですね」。
住まい手もゲストも心が晴れやかになるような、明るく朗らかな家。そんな空間で紡がれる何気ない幸せを、Yさんはこれからも積み重ねていくことでしょう。