2013年6月。今から約5年前に竣工したこちらのお部屋は、清澄白河の駅から少し歩いた場所にありました。
いたるところに飾られたグリーンが彩る開放的な空間で、当時の想いを伺いました。
5年で感じた街の変化
この部屋に暮らすのは、設計コンサルタントのご主人と設計事務所勤務の奥様、そして今年5歳になる息子さん。S家族のリノベは息子さんの誕生とともにスタートしました。もともと夫婦が2人で暮らしていたマンションは、子どもを迎え入れるには少し手狭。奥様の妊娠が分かったのと同時に、家族で暮らせる住まいを手に入れる計画を始めました。新築はお子様が生まれるまでに竣工が間に合わないことから断念。中古マンションをあたり始めますが、デザインに納得のいく物件が見つかりませんでした。計画が難航している時、ふと奥様の頭にリノベーションという選択肢がよぎります。「リノベーションを考え始めてから気持ちも条件も全てがスムーズに進んで。この選択は間違ってない!と確信が持てました。」と奥様。5年前というと「リノベーション」という言葉の認知度も低く、周りに経験している人もいないという状況。それでもどんどん大きくなるお腹に「産まれるまでに完成させたい!」とリノベーションに突き進んだと言います。nuリノベーション(以下nu)の個別セミナーに訪れてから物件の契約まではわずか2週間。「アクティブ妊婦だったんです!」という奥様は、nuの仲介アドバイザーに勧められる物件以外にも自ら進んで物件探しを行っていたんだそう。清澄白河はもともとご主人の馴染みのあったエリア。たまたま空いていたという今のお部屋はマンション全体の雰囲気もよく即決だったと言います。当時の街の印象を伺うと「年配の方が多いイメージ。”清澄白河”っていう響きがいいよねっていうくらいだったかな。」と話す奥様。実はS夫妻が初めて内見に訪れたその週にブルーボトルコーヒー日本一号店がオープン。それから瞬くうちに清澄白河は若者がこぞって訪れる街になり、奥様にとってそれは嬉しい誤算だったと言います。マンションの周辺でも、訪れる人の変化による新しい空気と古き良き下町のあたたかさが調和する街の様子が伺えました。
扉のない家
建築関係のお仕事をされるS夫妻。物件の契約を終えると、すぐにデザインについて計画を始めました。大枠のゾーニングをご主人が、全体のテイストや細かい部分にまつわることは奥様が考えたというS夫妻。ゾーニングを担当したご主人の希望は、玄関からリビングまで扉を一つも設けないということ。昔から所有するモノがとにかく少なかったというご主人。そのシンプルな暮らし方に奥さまも徐々に影響を受けたといいます。扉も間仕切りも、収納も最小限に。そんな二人にデザイナーが考案した「MD」というコンセプトは「MinimalDesign」の頭文字で、必要最小限のモノと間仕切りによってシンプルで軽やかな暮らしを提案するものでした。個室の数を減らしたことで、空間全体の約半分を占めるLDKが完成。シンプルな間取りでもブラックの黒板塗装に囲まれるダイニングスペースや、シンプルなカウンターを設えたワークスペースなど、用途別にゆるやかにゾーニングされています。広いリビングの魅力を特に実感するのは、お客様が訪れたとき。お子様が生まれてから毎年欠かさず、奥様が出産のときに仲良くなった6家族がこのリビングに集まってお誕生日会をするんだそう。「前に住んでいた家では大勢の来客をを招くことが難しかったので、パーティーのたびに5年前に思い描いていた理想が現実になっている幸せを噛みしめるんです。広いLDKを手に入れて、人生がより豊かになりました!」と奥様は楽しそうに話します。
「なんでもないスペース」を設ける
ご主人が特にお気に入りだという玄関土間。続く廊下に扉がないからこそ、玄関を入った瞬間から明るさを感じ、帰るたびに「この間取りにしてよかった」と感じるんだそう。土間のブラック塗装の床は奥様の提案によるもの。「このグレーと黒のツートンカラーの土間も本当にお気に入りで、いつか家を新しくすることになってもまた必ず取り入れたいと思うんです。」と話してくださいました。そしてこの空間でもう一つの特徴的なのは、玄関すぐ横のオープンなスペース。ここにも扉は設けず、玄関側にはすりガラスの目隠し用の壁が、廊下側にはレースカーテンで仕切るためのレールが取り付けられています。このスペースについて「贅沢使いですよね。」と笑う奥さま。ご主人が本を読んでくつろいだり、客間になったり。またパーティーの時はクロークとして活用するそう。決まった用途のないこのスペースは、毎日の暮らしに広がりを持たせてくれそうです。もともと小さな個室だったこのスペース。一見間取りに大きな変化がないように見えるものの、図面をみると壁がほんの少しだけ移動していることが分かりました。リビングから廊下に目を向けたとき、キッチン外側の壁から廊下、そしてこのスペースにかけて綺麗な一直線になるように設計されているのです。こちらはご主人のこだわりが反映されたもの。シンプルでプレーンな空間がどこから見ても美しいのは、お二人のこだわりが隅々までしっかりと形になっているからだということが分かります。
切り取られた日常から見えたもの
実は奥さま、Instagramで約1万人のフォロワーがいる有名インスタグラマー(@rrstyle05)。お花やグリーンを飾ったこの部屋での日常を投稿されています。部屋に植物を飾るのを始めたのとInsta-gramを始めたのはちょうど同じ3年前。そのきっかけに強く影響を与えたのが、清澄白河のお花屋さん”LUFF”でした。たまたま通りかかったときにお店のテイストに強く惹かれ、それ以来今でも定期的に通っていると言います。取材当日も空間のいたるところに植物が飾られ、ダイニングの黒い壁は鮮やかなお花の色合いをよりはっきりと印象的に、玄関横のスペースは明るい日差しがグリーンをいきいきと見せていました。Instagramに投稿する魅力的なカットを探すなかで、今でもこの部屋に対する新たな発見があるという奥様。「毎日暮らす家だけど、アトリエやギャラリーのように感じる時があるんです。」と言うように、写真に切り取られた日常はいつでも作品のような美しさです。「5年住んだからこそ、このお部屋に対して思うことはありますか?」と質問すると、「今のほうが愛情深い!」と即答してくれたお2人。「お友達の新築マンションに訪れたときに綺麗な共用部とかを見て『わーっ素敵!』って思うこともあるんだけど、帰ってくるとやっぱりここに愛情を感じるんです。」と話します。2人の希望が形になったこの部屋は、これから先何年経っても世界で一つの空間です。必要以上に飾り立てないミニマルなデザインだからこそ、絶えることのない部屋への愛情。それはこの先もより深くなっていくのでしょう。