“白”を徹底的に排除した、重厚感漂うスタイリッシュな住まい。色にこだわりを持ったご夫妻が創り上げた空間で営まれる、3人家族・4LDKの暮らしとは。
もっと自由でいい
埼玉県川口市。商業施設で賑わう駅前からすぐの場所に、Oさん一家の暮らすマンションがあります。Oさんはコンサルティング会社に勤めるご主人と、住宅メディアで記者として働く奥様(※)、息子さん(2歳)の3人家族。元々は同市内のご両親が所有していたマンションに住んでいましたが、そこを明け渡すタイミングでマイホームの購入を検討し始めたのだそう。
中古マンションを買ってリノベーションをするという選択の背景には、奥様が長年あたためてきたリノベーションへの熱い思いがありました。「仕事柄、色んなリノベーションの事例を取材してきて、リノベをすればユニークなデザインも新築以上の性能も実現できるということを知りました。私が特に魅力を感じたのは自分の好みやライフスタイルなどを踏まえて空間がつくれる点です。自分が家に合わせて住むのではなく、家を自分に合わせて住むことができる。そこに惹かれて、将来家を買うならリノベが良いなと強く思っていました」。
当初ご主人は新築・リノベ、特に希望はなかったそうですが奥様の熱意が伝わり、夫婦でリノベーションをすることを決意。ご主人は当時を振り返り、「妻だけでなく、夫婦ともにこだわりが強いんですよね。例えば僕は色にこだわりがあって、空間に限らず黒や青が好きなんですが、日本の住宅って白ベースの空間が多いじゃないですか。でもリノベなら、白を排除して、自分の好きな色だけで家がつくれるんじゃないか?それならリノベーションもありだなって思えたんです」と意気揚々と話します。
リノベーション会社は、奥様が取材を通じてデザインがタイプだと感じたnuリノベーション(以下、nu)一択で依頼。物件探しから一緒にスタートし、トータルで5軒ほど内見したと言います。最終的にOさんの琴線に触れたのは、長年住み慣れた川口市に建つ築29年・85㎡の物件。希望の間取りである4LDKを実現できる十分な広さがあり、眺望も良好なことが好印象だったそう。そして何よりも、「直感で絶対にここがいい!と、なぜかピンときたんだよね」とご夫婦は顔を見合わせます。
(※)nuHP内で、リノベ日記連載『おいうえおうちづくり』を執筆
『もっと黒く』。
O邸を語る上で外せないのは、言わずもがな“黒”というキーワード。黒と一言でいっても、空間に与える印象は様々なため、決してミステリアス要素のあるダークな黒ではなく、ご夫婦共に好みだという工業的でスタイリッシュな黒い空間、という共通認識を設計デザイナーと持ち合わせ、打合せを進めていきました。
こうして創り上げられたO邸は、LDK、洗面、玄関・廊下等を全てブラックで統一。中でも約15JのLDKのオールブラックな空間は、圧巻の世界観です。
床は限りなくタイルに近い見た目の黒いフローリングを採用し、スタイリッシュさを表現。足への負担を軽減しながらも、意匠性と実用性を両立させました。また、キッチン腰壁やバックカウンターの壁はブラックのモールテックスで塗装し、濃淡のあるテクスチャーで仕上げることで単色の空間が単調にならないようデザインしています。
「最初にご提案いただいたのは、グレー寄りの黒をベースにした空間だったんです。でも、『もっと黒くていいので、極限まで黒に近い感じで進めたい』と伝えて、私たちが求めるレベルまでとことん黒くしてもらいました」とご主人。お二人のブレない価値観が、最適解を導き出したようです。
キッチンにも徹底的に黒の世界観を反映させ、バックカウンターや家電も含めて全てを黒で統一。天板や水栓までオールブラックで仕上げた造作キッチンは、奥様がいちばん心ときめく場所だそう。「リノベーションした箇所で、いちばん気に入ってるのはキッチンかもしれません。キッチンが目に映るたびに、『リノベしてよかった、かわいい!』ってほっこりします。タッチレス水栓も便利だし、対面式なので料理をしながら子供の様子が見られて安心です」とにっこり。
実は当初、システムキッチンを検討していたそうですが、「天板や水栓をオプションで黒にすると、結局金額が上がっていって。中途半端にこだわるんだったら、造作しちゃった方がカッコいいものができるんじゃないかな」というご主人の発案で、奥様も大満足な細部までこだわり抜いたキッチンが創り上げられました。
O邸の家づくりのもう一つのテーマが、個人のプライバシーを重んじた、家族みんなにとって“multi”な家をつくること。将来家族が増えた時のことも見据えて、家族全員に個室を設けた4LDKの間取りでプランニングしていきました。ご夫妻共にリモートワーク、かつご主人は夜遅くまで働くことが多いというライフスタイルを加味し、ご主人の個室は家族の寝室から遠ざけた場所に配置するなど、みんなが快適に過ごせる間取りを追求。また個室は、“オールブラック”を封印し、それぞれの好きな色・テイストを空間に反映しているのもO邸ならではです。
ご主人の個室は、ブルーとブラックのバイカラーで構成。「スーツや時計、文房具とか。持ち物は全てこの二色で統一してるので、個室もそれを極めたかったんですよね。LDKだけじゃなくて、自分の部屋も好みがちゃんと反映されているので気持ちが上がります」とご主人。
一方、奥様の個室は、グレーをベースにしたクールさを残しつつも、アーチ開口や木製の机を配置したカフェのような空間に。「LDKみたいに黒くて無機質な空間も好きなんですけど、実は木を使ったかわいらしい空間も好きで。特にアーチ開口は絶対に取り入れたいポイントだったので、自分の部屋で実現できて嬉しいです。リビングにアーチがあったらテイストが違いすぎますしね(笑)」と、奥様は声高に話します。
個室があるおかげで、プライバシーの尊重はもちろんのこと、デザインに関してもそれぞれの好きを存分に満たした“multi”な空間に仕上がっています。
好きを突き詰める
Oさんがこの家に引越してきて約8ヶ月。住宅のスタンダードカラーである白色を排除し、好きな色だけで構成したオリジナリティの高い空間での暮らしは、日々ときめきに溢れているそう。
「自分で言うのもアレですが(笑)、家に帰ってきた時に、白色がひとつも目に入らないのがいいなぁと思いますね。特にLDKに関しては、黒すぎて重く見えないか心配な部分もあったけど、住んでみたら意外とちょうどいいです。なのでこれからリノベする方には思い切った判断をした方がいいよ、とお伝えしたいです」と、充足感の漂う表情を浮かばせるご主人。
そして、これまでに数多くのリノベーション事例を取材し、念願の自宅リノベを経験された奥様。自身の家づくりについてこう振り返ります。
「黒がベースなので、家全体がホテルライクな感じがして気分が高まりますね。デザイン性はもちろんですが、例えば洗面室は賃貸時代よりも広くなったおかげで身支度もスムーズだし、洗濯物もここで畳めるようになって家事効率が上がりました」。その高い満足度の秘訣は、設計打合せ中の徹底した自己分析の作業に表れていたようで、「自分たちはどんなデザインが好きで、苦手なのか。リノベ後にどんな暮らしがしたいのかという洗い出しの作業をとにかく頑張ったおかげで、違和感のない家づくりができました」と締め括ってくださいました。
好きを突き詰めたお二人だからこそのブレない価値観。洗練された感性が、唯一無二の空間を誕生させました。