シンボリックなRの曲線に、腰壁や垂れ壁がもたらす柔らかなゾーニング。白と木でつくりあげたプレーンな空間には、彩り豊かなインテリアと心を満たす暮らしがありました。
センスの連鎖
「漠然と持ち家が欲しいなと思っていて。住みたいエリアでそれなりに広さが欲しいとなると、予算的に新築は難しいし、新築って買ってからすぐ価値が下がる。そうなるとやっぱり、中古リノベなのかなと」。そう話すのは、江東区のマンションに住むSさんご夫婦。以前は練馬区の賃貸物件に住んでいて、6年ほど前には某リノベーション会社の個別相談会に行ったことがあるそうですが、当時は話が進まなかったと言います。
「次は2年くらい前に『今度こそはやろう』となって、たまたま買い物に行った百貨店に出店していた別のリノベ会社に相談することにしたんです。リノベ前提の中古マンションと、同社が扱っているリノベ済物件も内見しましたが、結局どれもピンとこなくて。改めてネットで検索して見つけたのが、nuリノベーション(以下nu)でした」と、ご主人。時を同じくして、いつもインスタグラムで見ていた人の住まいが実はnuでリノベしたものだと気付き、そこから一気に事態が動き出したと言います。
「すごく良いセンスをお持ちの方なので、この方が選んだ会社なら間違いないだろうって」と、nuオフィスを訪問したSさん。このときはまだ、前出のリノベーション会社にも中古物件を探してもらっていましたが、nuのスタッフと会話をするうちに、ここなら満足度の高いリノベーションができると確信したそう。
「『リノベをイチから体験したい!』という気持ちがどんどん膨らんでいきました。アドバイザーさんは本当に対応が早くて、私たちが内見したい物件を知らせるとすぐに段取りしてくれて。内見の同行中も、各物件の良いところと悪いところを率直に教えてくれたし、根拠があって嘘がない感じがすごく信頼できました。その場で図面を開いて『ここはこうできます』と教えてくれて、私たちもイメージを膨らませやすかったです」と、ご夫婦。開放感のある空間を希望していたSさんのために、アドバイザーは構造上壊せない壁がないかもその場でチェックし、あればその物件は即却下に。こうして効率的に取捨選択しながら、約5カ月かけて10軒を巡り、最終的にこの築41年・約61㎡の物件を購入しました。周辺には川や運河が多く、空が広く感じられる人気エリアに立つマンションです。
「窓の向こうが運河で見晴らしもいいし、南向きで日当たりもいい。ゴミ捨て場もすごく綺麗に整備されていて、管理状況が良いことが決め手になりました。アドバイザーさんが修繕積立金の状況を確認してくれて、それも問題ないとのことで安心でしたね」と、ご夫婦。こうして、Sさんのリノベーションが始まりました。
「四角い家は合理的すぎる」
アパレル会社でパタンナーをしている奥様は、ディテールにもこだわりをお持ちで、リノベではRのラインや壁を絶対に取り入れたかったと言います。
「コブハウスの有機的なデザインがすごく好きなんです。四角い家は私にとっては合理的すぎるというか。Rは無駄な空間を生むから既成の物件には無いデザインですが、私はその無駄を楽しみたいし、どこから見てもときめく空間にしたかったですね」。
そこで、設計デザイナーは“シンボリックな曲線”を全体のテーマとして捉え、おおらかな柔らかい曲線が構成する空間をデザインしました。
間取りは以前の3洋室+居間から1LDK+WICに変更し、南側に13.4畳のLDK、玄関のある北側に土間を配置しました。北側寄りにあった浴室とトイレは既存の配置のままで、設備も既存を利用。浴室乾燥機付きのお風呂のすぐそばにWICを配置して、乾いた服をすぐに仕舞える完璧な洗濯動線を確保しました。
キッチンはLDと隣接させてRの腰壁で仕切ることで、一体感や開放感はありつつもキッチンの生活感は筒抜けにならないデザインに。玄関からLDKまでは通路を兼ねたフリースペースを1本通し、北側と南側の双方に視線が抜ける間取りにしました。トイレには土間を経由して行きますが、わざわざサンダルを履かずに済むように、設計デザイナーは土間にプカリと浮く島のような廊下を提案。飛び石を踏みながら川を渡るようなワクワクを感じられる、ユニークなデザインに仕上げました。
「床は濃いブラウンの無垢材で、壁は塗装。この2つは絶対条件でした」というご主人の希望で、床には暗めのブラウンオイルで塗装したクリ材、壁には白の塗装を採用しました。クリ材は経年変化で色が変化していき、住むほどに味わい深い印象を楽しめます。
LDで最も着目したいのは、天井一周にぐるりと配されたライン照明です。ご主人がインスタグラムで似たような照明を見つけて、リクエストしたのだそう。無駄な継ぎ目が出ないこと、ラインの細さ、そして何よりご夫婦の求める“R30”の角度を実現できる器具を探し出すことなど、設計デザイナーが試行錯誤の上に形にした珠玉のR。ダウンライトも併設し、シーンに合わせて照度を調節できるよう配慮したのもポイントです。
パンづくりが趣味という奥様は、キッチンエリアにもこだわりを。造作キッチンにはお手入れしやすいヘアライン加工のステンレス天板を採用し、壁一面にはショールームで自ら選んだライトグレーの縦長タイルをあしらいました。汚れが目立たないように目地もグレーにしたのもポイントです。厨房のような無骨さがありながらも、端正なタイルが引き立つシャープな空間に仕上げました。
LDKとは対照的に、寝室と洗面室は色で遊ぶ空間に。リビングに隣接した寝室はRの垂れ壁をくぐって入る洞穴のようなデザインにし、奥行きとプライベート感を感じられるネイビーのアクセントウォールを採用しました。
「寝る瞬間が一番幸せです。こもり感のある空間に包まれて、最高にリラックスできます」とご主人。
洗面台の壁にはワインレッド寄りのピンクのクロスを採用し、下部にあしらった白タイルの目地も同じピンクに。「結構攻めた色なので完成するまで不安だったけど、想像通りに仕上がっていい感じです」と、奥様は満足気です。洗面台が広いおかげで化粧品をドンと出して一気にメイクできるし、何より可愛い空間に終始気分が上がるのだそう。
“ときめき”に溢れた暮らし
住んで丸8ヶ月、賃貸時代との暮らしのギャップに驚いていると言います。
「賃貸のときは寝室が北側にあって、夏は暑くて冬はすごく寒かったんです。なので今回は北側に部屋をつくらなかったんですが、これが大正解。寝室を中央寄りに配置したことで、寝るときはエアコンがいらないくらい適温だし、朝日がいい感じで入ってきて快適な目覚めです」と、ご夫婦。「今は寝室がリビングの横にあるので、夜更かしせずにサッとベッドに入るようになりました。おかげで日中も集中力が続くようになりましたね(笑)」と、奥様は笑います。
整然としている空間よりも多少ゴチャっとしている方が落ち着くというお二人は、部屋の随所にインテリアやグリーン、アートを飾って楽しんでいます。家具は、新たにTECTAのガラスラウンドテーブル
さらに、共通の趣味が音楽というお二人は、
「全体的につながりがあって、実面積61㎡よりも広く感じますね。開放的な気分で暮らしたいという希望が叶いました」と、ご主人。奥様が続けます。
「つながりがあると言っても、キッチンは腰壁のおかげで手元から下が見えないから、ゴチャゴチャを気にしなくて済むのでノーストレスです。土間は荷物が届いたときドカっと置けるし、色々と便利ですね」と、充足感に溢れた日々を送っているようです。
そして最後に、「設計デザイナーさんと一緒に建材を選別していく愉しさや、実際に形になったときの感動を体験できたのが本当に良かったです。この家の一つひとつに愛着が沸いているので、なるべく綺麗に保ちたいとこまめに掃除するようになりました(笑)」と、微笑むご夫婦。
Rをはじめ、目に映る全てが“ときめき”に溢れた、ウェルビーイングなS邸。おおらかなお二人を体現したようなこの空間で、これからも穏やかな日々が続いていきます。
Interview & text 安藤小百合