素地の素材をふんだんに使った空間に映える、ブルーのタイルやステンレスのキッチン。画一化されないモノを愛する家族がつくりあげた、納得できる暮らしとは。
「NOともGOとも言わない」。
「都心で新築戸建を買うのは金額的に難しかったし、買えたとしても狭い家になるので、それならマンションで広さがあった方がいいなと思ったんです。でも、大手のマンションって画一的で、どこを切り取っても同じ。それが魅力的じゃなくて」。
そう話すHさんは、会社員のご主人、飲食店勤務の奥様、3歳のご長男の3人家族。以前はご主人の職場がある千葉の団地にお住まいでしたが、新型コロナウイルス禍で在宅勤務が増えたこと、息子さんが生まれて手狭になってきたこと、以前から休日は都内に出かけることが多かったことなどから、都内に移り住むことに。リノベーション前提で中古マンションを探し始めましたが、ここから思わぬ長期戦が始まりました。
「物件の条件は初めからがっちり決めていなくて、内見しながら自分たちの希望を明らかにしていったんです。最初に行ったリノベ会社で8軒ほど回って、会社を変えてさらに2軒回ったけど、全然決まらなくて……。ウ~ンと悩んでいたときに、偶然nuリノベーション(以下、nu)でリノベした元同僚が『相談に行ってみたら?』と紹介してくれました。それでnuさんに連絡したらすぐ動いてくれて、ここは話が進みやすそうだなと。他の会社はフルリノベーションしか受けてくれないところもあるけど、nuさんは部分リノベーションも受けてくれるので、買った物件の状態に合わせられることも魅力的でした」と、ご夫婦は振り返ります。
こうして、nuのアドバイザーと内見を再開したHさんご家族。そこからさらに10軒ほど回りましたが、その中でこれまでの会社とnuの明らかな違いに気づいたそうです。
「これまでは『今買わないと!今やらないと!』って押し売りがすごかったんですが、nuさんはそういうのが一切なかった。むしろ、『このマンションは共用部の状態や建物自体の管理状況が良くないから、辞めておいた方がいいんじゃないですかね』ってハッキリ言ってくれるんですよ。一方で、明らかに悪い条件でなければ、NOともGOとも言わない(笑)。こちらは一生ついていきますんで、くらいの雰囲気でいてくれて、それがすごかったですね」と、ご主人は笑います。
ようやく巡り合ったのは、練馬区の築32年、74.47㎡の物件。構造上の制約が少なく希望通りの間取りがつくれそうだったこと、ボロボロすぎて逆に思い切ったフルリノベーションができると感じたこと、駅から徒歩5分程度という好立地が決め手になりました。
自然体な雰囲気
実はHさん、以前は家や暮らしにはあまり興味がなく、リノベーションにあたって描いた理想の暮らしもなかったと言います。
「でも、よくある“ザ・リノベ”みたいなのはイヤでしたね。私が好きなのは、シンプルで自然体で、つくり込まれていなくて、ちょっと古びていて、使用感がある感じ。だから、設計デザイナーさんには『こういう風にしたい』よりも『こういうのはイヤ』を伝えました」と、奥様。ご主人が続けます。
「妻は実家が沖縄なんですけど、日焼けしたコンクリート、ラワン、トタン、みたいな”素”っぽい材質が多かったり、はたまたアメリカ文化が入ったような建物とか、そういう中で育ってきたから自然体な雰囲気がスッと入ってくるんでしょうね。あと、あまりにカッコ良すぎると僕らなんかの身の丈には合わないので…。私たちのそういう話を、設計デザイナーさんは綺麗な言葉にして落とし込んでくれました」。
設計デザイナーがH邸に贈ったコンセプトは『raw』。木、ステンレス、白く塗られた躯体現しの天井など、素地の素材をふんだんに使った空間を実現し、飽きずに住み続けられるよう、基調色を白にして、家具やインテリアで色を遊べるようにしました。
間取りは、友人や親戚が集まりやすいように広々リビングに。「ゴロゴロしたい」というご主人の熱望で、リビングの一画に琉球畳の小上がりをつくりました。リビングの床に使った楡(にれ)の木は、節(ふし)の表情が豊かであたたかみがあり、小上がりの琉球畳と相性抜群です。
玄関入ってすぐの空間は、WIC兼フリースペースに。仕切りをつけて居室としても使えるように、照明計画やコンセントの位置なども予め考慮しました。
奥様が最後までこだわり抜いたキッチンは、同じくピカピカした素材を避けた造作で、油はねを気にしなくて済むように壁付けに。コンロ下の収納は、モノの出し入れがしやすいようにざっくりオープン収納にしました。一枚布のように壁から床につながるブルーのタイルが、キッチン空間を特別な印象にしています。
「キッチンの床は、最初モルタル風や塩ビタイルで探していたんですけど、それこそモルタル床は“ザ・リノベ”。どれもしっくり来なくて悩んでいたら、設計デザイナーさんが『壁用に決めたタイルを床まで使うのはどうでしょう』と提案してくれたんです。デザイン性もあるし、水や油がはねてもお手入れがラクだし、費用もモルタルより安くて、色んな点で良かったですね。カウンターの床下にコンセントを埋めてくれたので、カウンターでホットプレートを使うときも便利なんです」と、奥様。
団地時代から使っている、ご友人がDIYでつくってくれたカウンターもベストマッチ。ご主人とお子さんがそこに座れば、料理中も家族の会話を楽しめます。
こうして、素朴で着飾らない、自由なデザインの空間が完成しました。
“ザ・H邸”
この家に住んで丸1年。竣工時は木や琉球畳が沖縄の家を思わせる素朴な印象でしたが、今はビビットカラーの家具やキッチングッズ、カラフルなアートが仲間入りし、色鮮やかでユニークな印象に。Hさんらしさが隅々まで行きわたる、唯一無二の空間になりました。
「もともと揃っている感じが苦手で、ガチャガチャしているのが好きなんです。これから先も、古いものや新しいものなど色々な好きなものに出会うと思うけど、それらを追加していっても私たちの家として面白い感じにまとまる空間にしたくて」と、奥様は話します。
お気に入りは、オレンジのイームズチェア、ビビッドオレンジのミラー、そしてソファテーブル。これらの家具は、ご夫婦が大好きな柏市のインテリアショップ「chair-chair」で購入しました。
LDKには居場所がたくさんあるので、ご主人はその日の気分に合わせてお酒を楽しむ場所を変えるそう。訪れる友人や親戚も、思い思いの場所に腰かけてくつろいでいます。熱望した小上がりは、今は3歳の息子さんの遊び場として活躍中。今後はダイニングの壁にDIYでデスクや本棚をつくって、息子さんのリビング学習スペースにしたいと考えているそうです。
実際に住んでみて感じたのが、設計デザイナーが提案した様々なアイデアの実利。照明やコンセントの位置、LDK内の動線は、生活する中で改めて「やっぱり良かった」と実感しているそう。また、マンションの電力制限上、床暖房を入れられませんでしたが、代替案として入れた二重窓が思った以上の断熱性を発揮。夏も冬も想像以上に快適だった上に、補助金制度を使ってお得にできたと言います。
長い物件探しからリノベーションを終えた今、改めて全体を振り返ると?
「なんていうか、nuのスタッフさんたちって、モノのチョイスや美的感覚はもちろん、こうありたいという思いや価値観が私たちと近かったんですよね。nuさんはちゃんと私たちの言葉をかみ砕いてくれて、『こういうことですよね』ってパパッと差し出してくれたのが本当にありがたかった。もちろん、決して安い値段ではありませんでしたが(笑)、デザイン、動線、すべてに理由があって、すごく納得感がありました」と、笑うご主人。
ご夫婦の価値観が表現されたこの家は、“ザ・リノベ”を圧倒的に超えた“ザ・H邸”。進化しつづけるH邸のこれからが楽しみです。
Interview & text 安藤小百合